何が承認されたのか
ある日とつぜん、猫が家具にぶつかるようになる。名前を呼んでも目が合わない。黒目が開いたまま、戻らない。
猫の高血圧に飼い主が気づくきっかけは、多くの場合これです。そしてこの時点で、その子はもう目が見えていません。
その高血圧に対して、猫のための飲み薬が初めて承認されました。米国の規制当局(FDA)が2026年4月29日に承認した、おやつのように食べられるタイプの錠剤です(製品名AMODIP/Ceva社)。人用の薬を割って使うのが当たり前だったこの分野で、猫専用の薬が出たのは初めてになります。
どのくらい効くのか。 実際に高血圧と診断された猫77匹で、薬を飲んだ群と飲んでいない群を比べた試験があります。1か月後、血圧が目標まで下がった猫は、薬を飲んだ群で3匹に2匹(64.1%)。飲んでいない群では6匹に1匹(17.6%)でした。血圧そのものも、平均で28.2下がっています(飲んでいない群は9.9)。
副作用として吐き気や食欲の低下、元気がなくなるといった様子が見られ、77匹のうち11匹が途中で薬をやめています。効く薬ではありますが、飲ませっぱなしにできる薬ではありません。
出典: FDA公開資料 FOI Summary NADA 141-613(2026年4月29日)。
⚠️ これはアメリカでの承認です。 日本で同じ薬が使えるかは確認できていないので、治療の選択肢は主治医に聞いてください。ただし、この記事の後半で書く「血圧を測ってもらう」ことは、日本でも今日からできます。

猫の高血圧は、腎臓病と一緒に進み、家では何も見えない
猫の全身性高血圧の多くは単独では起こりません。慢性腎臓病(CKD)や甲状腺機能亢進症に伴って生じるのが典型です。そして厄介なのは、高血圧そのものが腎臓をさらに傷つけるため、腎臓病が高血圧を呼び、高血圧が腎臓病を進めるという循環になることです。
猫の死因第1位は腎臓病で、15歳以上の約81%が罹患します。つまり高血圧は「一部の猫の特殊な問題」ではなく、シニア猫の主戦場のすぐ隣にあります。
それでも、家庭では何も見えません。
猫は血圧が高くても、だるそうにしたり頭を押さえたりしません。飼い主が最初に気づくきっかけは、多くの場合こうです。
- ある日突然、家具にぶつかるようになった
- 瞳孔が開いたままで戻らない
- 呼んでも視線が合わない
これは高血圧によって網膜が剥がれて、すでに視力を失っている状態です。つまり「気づいた時が発症」ではなく、「気づいた時にはもう臓器が壊れている」。高血圧は眼だけでなく、脳・心臓・腎臓も同時に傷つけます。
このニュースの本当の意味は、FDA資料の一文にある
承認そのものより重いことが、同じFDA資料に書かれています。猫225頭を1年間追跡した公表研究の要約です。
治療開始時点で眼底病変が重度で、視覚が著しく低下または消失していた猫は、網膜が再接着し出血が改善しても、視覚機能を取り戻しにくかった。
かみ砕くと、こうです。目の奥がひどく傷んで、すでにほとんど見えなくなっていた猫は、治療で目の中の状態が元に戻っても、見える力は戻りにくかった。
これは「薬が効かない」という話ではありません。実際、この研究では治療によって眼底の病変(=標的臓器の損傷)は改善しています。そうではなく、間に合った猫と、間に合わなかった猫がいるという話です。
血圧は下げられる。網膜も物理的には戻せる。それでも失われた時間だけは戻らない。
昨日書いた初期の腎臓病と食事療法の研究と、まったく同じ構造です。初期のうちに療法食を始めた猫は進行リスクが41〜46%低かった。承認申請中のAIM新薬FeliAIMも、最大の恩恵はステージ1〜2で、末期では限定的。
手段が増えても、恩恵を受け取れるのは早く見つかっていた猫だけ——腎臓病でも、高血圧でも、結論は同じ方向を指しています。
今日からできること:血圧を「測ってもらう」ところから
猫の血圧測定は、動物病院で数分で終わります。前足かしっぽに小さな帯を巻くだけで、痛みはありません。ただし猫は病院で緊張して血圧が上がるので(人間の「白衣高血圧」と同じです)、静かな場所で数回測って平均を見るのが基本になります。
具体的なお願いの仕方:
1. 7歳以上なら、血液検査と同じ日に血圧も測ってもらう。別日にすると忘れます
2. すでに腎臓病や甲状腺機能亢進症と言われている猫は、年齢に関係なく測定対象
3. 数値を記録して持ち帰る。血圧は1回の値でなく推移で判断します
4. 眼の様子(瞳孔の開き、ぶつからないか)を月1回でいいので意識して見る
投薬が始まった場合に見ておくこと:
FDAの安全性試験(健康な猫32頭・6か月)では、投与を受けた猫の全頭に、10〜12週目から用量と期間に依存した歯肉増殖(歯ぐきの腫れ)が現れました。これは知らないと驚きますし、口の中は普段見ない場所です。投薬中は月に一度、口をめくって歯ぐきを確認してください。異常があれば主治医に相談を。
また同試験では血圧低下のほかに血清クレアチニンとカリウムの低下も見られています(いずれも正常範囲内)。投薬開始後も定期的な血液検査が必要ということです。
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高血圧も腎臓病も、共通しているのはその日の見た目では分からず、比較して初めて分かるという性質です。「去年より痩せた」「最近水をよく飲む」「なんとなく反応が鈍い」——これらは印象のままでは病院で伝わらず、記録になって初めて武器になります。
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血圧の数値も、検査のたびに同じ場所に残しておけば「上がってきている」が見えます。間に合う側に立つために必要なのは、特別な知識ではなく、比較できる記録です。世界50カ国以上で利用されています。
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