何が承認されたのか
米国食品医薬品局(FDA)が2026年4月29日、猫の全身性高血圧をコントロールするAMODIP(アムロジピンベシル酸塩チュアブル錠、Ceva Santé Animale社)を承認しました。猫専用のアムロジピン製剤としては初で、猫の全身性高血圧に対してFDA承認を得た薬としては2剤目です。
FDAの公開資料(FOIサマリー NADA 141-613)にある数字:
- 投与量は初期 0.125〜0.25 mg/kg を1日1回。反応が不十分なら14日後に 0.25〜0.5 mg/kg へ増量可
- 飼い主所有の猫77頭を対象にした二重盲検・プラセボ対照の試験で、28日目に有効性の基準を満たした猫は投与群64.1%、対照群17.6%
- 収縮期血圧の平均低下は投与群28.2 mmHg、対照群9.9 mmHg
- 主な副反応は嘔吐、食欲不振、脱水、元気消失。11頭が副反応で投与を中止
出典: FDA FOI Summary NADA 141-613 (2026-04-29)。
⚠️ これは米国での承認です。 日本国内における猫用アムロジピン製剤の承認状況は本稿執筆時点で確認できていません。日本での治療の選択肢については主治医にご確認ください。ただし後述する「血圧を測る」という行動は、日本でも今日からできます。
猫の高血圧は、腎臓病と一緒に進み、家では何も見えない
猫の全身性高血圧の多くは単独では起こりません。慢性腎臓病(CKD)や甲状腺機能亢進症に伴って生じるのが典型です。そして厄介なのは、高血圧そのものが腎臓をさらに傷つけるため、腎臓病が高血圧を呼び、高血圧が腎臓病を進めるという循環になることです。
猫の死因第1位は腎臓病で、15歳以上の約81%が罹患します。つまり高血圧は「一部の猫の特殊な問題」ではなく、シニア猫の主戦場のすぐ隣にあります。
それでも、家庭では何も見えません。
猫は血圧が高くても、だるそうにしたり頭を押さえたりしません。飼い主が最初に気づくきっかけは、多くの場合こうです。
- ある日突然、家具にぶつかるようになった
- 瞳孔が開いたままで戻らない
- 呼んでも視線が合わない
これは高血圧によって網膜が剥がれて、すでに視力を失っている状態です。つまり「気づいた時が発症」ではなく、「気づいた時にはもう臓器が壊れている」。高血圧は眼だけでなく、脳・心臓・腎臓も同時に傷つけます。
このニュースの本当の意味は、FDA資料の一文にある
承認そのものより重いことが、同じFDA資料に書かれています。猫225頭を1年間追跡した公表研究の要約です。
> 治療開始時点で眼底病変が重度で、視覚が著しく低下または消失していた猫は、網膜が再接着し出血が改善しても、視覚機能を取り戻しにくかった。
これは「薬が効かない」という話ではありません。実際、この研究では治療によって眼底の病変(=標的臓器の損傷)は改善しています。そうではなく、間に合った猫と、間に合わなかった猫がいるという話です。
血圧は下げられる。網膜も物理的には戻せる。それでも失われた時間だけは戻らない。
昨日書いた初期の腎臓病と食事療法の研究と、まったく同じ構造です。初期のうちに療法食を始めた猫は進行リスクが41〜46%低かった。承認申請中のAIM新薬FeliAIMも、最大の恩恵はステージ1〜2で、末期では限定的。
手段が増えても、恩恵を受け取れるのは早く見つかっていた猫だけ——腎臓病でも、高血圧でも、結論は同じ方向を指しています。
今日からできること:血圧を「測ってもらう」ところから
猫の血圧測定は、動物病院で数分でできます。前肢または尾に小さなカフを巻いて測るだけで、痛みはありません。ただし猫は緊張で血圧が上がる(白衣高血圧)ため、静かな環境で数回測って平均を見るのが基本です。
具体的なお願いの仕方:
1. 7歳以上なら、血液検査と同じ日に血圧も測ってもらう。別日にすると忘れます
2. すでに腎臓病や甲状腺機能亢進症と言われている猫は、年齢に関係なく測定対象
3. 数値を記録して持ち帰る。血圧は1回の値でなく推移で判断します
4. 眼の様子(瞳孔の開き、ぶつからないか)を月1回でいいので意識して見る
投薬が始まった場合に見ておくこと:
FDAの安全性試験(健康な猫32頭・6か月)では、投与を受けた猫の全頭に、10〜12週目から用量と期間に依存した歯肉増殖(歯ぐきの腫れ)が現れました。これは知らないと驚きますし、口の中は普段見ない場所です。投薬中は月に一度、口をめくって歯ぐきを確認してください。異常があれば主治医に相談を。
また同試験では血圧低下のほかに血清クレアチニンとカリウムの低下も見られています(いずれも正常範囲内)。投薬開始後も定期的な血液検査が必要ということです。
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高血圧も腎臓病も、共通しているのはその日の見た目では分からず、比較して初めて分かるという性質です。「去年より痩せた」「最近水をよく飲む」「なんとなく反応が鈍い」——これらは印象のままでは病院で伝わらず、記録になって初めて武器になります。
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血圧の数値も、検査のたびに同じ場所に残しておけば「上がってきている」が見えます。間に合う側に立つために必要なのは、特別な知識ではなく、比較できる記録です。世界50カ国以上で利用されています。
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