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猫の意識喪失・ぐったり

猫が急にぐったりする、反応がなくなる、倒れるなどの症状です。生命に関わる緊急事態の可能性が高いです。

獣医師監修

意識喪失・ぐったりの要点まとめ

主な原因
心臓病(心筋症)、大動脈血栓塞栓症、重度の貧血、ショック状態 など
緊急受診
ぐったりして動かない、意識がない・呼吸が弱い
自宅対応
すぐに動物病院に連絡する。体温を保つ(タオルで包む)
治療費目安
初期検査(血液・心エコー・心電図・レントゲン):30,000〜60,000円。ATE入院治療:100,000〜300,000円。HCM月間維持薬代:5,000〜15,000円

病態生理

虚脱・失神(syncope)は、脳への血流(脳灌流)が一過性に減少することにより突然の意識消失と姿勢制御の喪失を来す症候である。通常は数秒〜数分で自然に回復する点がてんかん発作と区別される。猫では心臓疾患(肥大型心筋症・不整脈)が最も重要な原因であり、心拍出量の低下または不整脈による血圧低下が脳虚血を引き起こす。心室頻拍や高度房室ブロックなどの重度不整脈は突然死のリスクも伴う。非心原性の原因として、神経調節性失神(迷走神経反射)、起立性低血圧、低血糖、重度貧血、大動脈血栓塞栓症がある。猫では失神と痙攣発作の鑑別が臨床的に困難な場合が多く、失神が神経疾患と誤診され不必要な検査を受けるケースが報告されている。運動時・興奮時に前兆なく突然倒れ、短時間で回復する場合は心原性失神を強く疑う。

考えられる原因

  • 心臓病(心筋症)
  • 大動脈血栓塞栓症
  • 重度の貧血
  • ショック状態
  • 低血糖
  • 重度の脱水
  • 中毒

鑑別診断

肥大型心筋症(HCM)Hypertrophic Cardiomyopathy (HCM)
多い

猫で最も多い心疾患。左室壁の肥厚により拡張障害・左室流出路閉塞が生じ、運動時や興奮時に心拍出量が急減して失神する。無症状で突然失神・突然死することもある。心臓超音波検査で左室壁厚6mm以上(拡張末期)で診断。健康猫の11-16%に認められる

年齢: 中年齢に多い(5-7歳)、遺伝性HCMは若齢でも発症好発品種: メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、アメリカンショートヘア、ノルウェージャンフォレストキャット
不整脈(心室頻拍・洞不全症候群・房室ブロック)Cardiac Arrhythmias (VT, SSS, AV Block)
多い

心室頻拍では急激な頻脈により心拍出量が低下し失神。洞不全症候群・高度房室ブロックでは徐脈により脳灌流が低下。発作性であるため通常の心電図では検出できないことが多く、24時間ホルター心電図やイベントモニターが有用

年齢: 全年齢(心筋症に続発する場合は中高齢に多い)好発品種: 品種を問わない
大動脈血栓塞栓症(ATE/FATE)Feline Aortic Thromboembolism (FATE)
多い

左心房内血栓が大動脈分岐部に塞栓し、後肢への血流が遮断される。突然の後肢麻痺・激しい痛み・後肢の冷感と脈拍消失が特徴。'5P'(Pain, Pallor, Pulselessness, Paralysis, Poikilothermia)で診断。多くはHCMに続発する

年齢: 中年齢(平均8歳、雄猫に多い)好発品種: メインクーン、ラグドール、アビシニアン、バーマン
神経調節性失神(血管迷走神経性失神)Neurocardiogenic (Vasovagal) Syncope
時々

迷走神経反射による一過性の徐脈・血管拡張により脳灌流が低下。咳嗽・嘔吐・排尿排便・恐怖などが誘因となる。自然回復が速く、器質的心疾患がないことが診断の前提。心臓超音波検査や心電図で構造的異常を除外

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
重度貧血Severe Anemia
時々

ヘマトクリット値が15%以下になると組織への酸素供給が著しく低下し、虚脱・失神を来す。可視粘膜の蒼白、頻脈、頻呼吸を伴う。溶血性貧血(免疫介在性・ヘモプラズマ感染)、出血、骨髄抑制が原因

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
低血糖Hypoglycemia
時々

血糖値60mg/dL以下で脱力・震え・意識障害が出現し、重度では虚脱・痙攣に至る。インスリン過剰投与(糖尿病猫)、膵臓インスリノーマ、重度敗血症、子猫の飢餓が原因。ブドウ糖投与で速やかに改善することが診断的

年齢: 全年齢(子猫・糖尿病管理中の猫)好発品種: 品種を問わない
心膜液貯留・心タンポナーデPericardial Effusion / Cardiac Tamponade
まれ

心膜腔に液体が貯留し心臓の拡張障害を来す。猫ではリンパ腫・FIPが原因となることが多い。心音減弱・頸静脈怒張・腹水を伴う。心臓超音波検査で心膜液を確認し、心膜穿刺で症状が劇的に改善する

年齢: 全年齢(リンパ腫は中高齢に多い)好発品種: 品種を問わない
肺動脈高血圧症Pulmonary Hypertension
まれ

肺動脈圧の上昇により右心不全を来し、運動不耐性・失神・腹水が出現。猫では心筋症・肺疾患・血栓塞栓症に続発することが多い。心臓超音波検査で三尖弁逆流速度から推定肺動脈圧を算出

年齢: 中高齢猫好発品種: 品種を問わない

緊急度の目安

状況緊急度
一時的にふらつくが回復早めに受診
ぐったりして動かない緊急受診
意識がない・呼吸が弱い緊急受診

診断の進め方

1
身体検査・血液検査・血圧測定15,000〜30,000円

心雑音の聴取、脈拍の触診(大腿動脈の左右差はATE示唆)、可視粘膜の色調確認。CBC(貧血評価)、血液生化学(血糖・電解質・腎肝機能)、T4(甲状腺機能亢進症除外)。血圧測定で低血圧や高血圧を評価

2
心電図検査5,000〜15,000円(ホルター:30,000〜50,000円)

不整脈の検出が主目的。発作性の不整脈は通常の短時間記録では捕捉できないことが多いため、24時間ホルター心電図モニターやイベントモニターの使用を検討。心室頻拍・高度房室ブロック・洞不全症候群を評価

3
心臓超音波検査(心エコー)8,000〜20,000円

心筋症の評価に最も重要な検査。左室壁厚・左房拡大・左室流出路閉塞・心膜液の有無を評価。Bモード・Mモード・ドプラ法を用いて心機能を総合的に判断。左房内血栓の有無もATEリスク評価に必須

4
胸部レントゲン検査5,000〜10,000円

心臓の大きさ・形態、肺水腫の有無、胸水の評価。心肥大・肺静脈拡張は心不全を示唆。胸腔内腫瘤の除外にも有用

5
心筋バイオマーカー(NT-proBNP・cTnI)5,000〜10,000円

NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心筋ストレスの指標。cTnI(心筋トロポニンI)は心筋障害の指標。スクリーニングやモニタリングに有用。NT-proBNP>100pmol/Lで心疾患の可能性が高い

自宅での対応

  • すぐに動物病院に連絡する
  • 体温を保つ(タオルで包む)
  • 呼吸と心拍を確認する
  • 無理に食べ物や水を与えない

意識喪失・ぐったりの記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の意識喪失・ぐったりパターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

緊急安定化

虚脱時は気道確保・酸素供給を最優先。ATEが疑われる場合は疼痛管理(ブトルファノール0.2-0.4mg/kg IV/IM)と静脈輸液を開始。重度徐脈にはアトロピン0.02-0.04mg/kg IV。致死的不整脈にはリドカイン(猫では慎重に0.25-0.5mg/kg slow IV)。重度貧血には輸血を検討

主な薬剤
ブトルファノールアトロピンリドカイン酸素
予後

基礎疾患による。ATEの初期生存率は30-45%。不整脈の原因が除去可能であれば良好

肥大型心筋症の内科管理

うっ血性心不全には利尿薬(フロセミド1-2mg/kg q12-24h)。血栓予防にクロピドグレル18.75mg PO q24h(1/4錠)。β遮断薬(アテノロール6.25-12.5mg PO q12-24h)で心拍数制御・左室流出路閉塞の軽減。ACE阻害薬(ベナゼプリル0.5-1.0mg/kg q24h)の追加を検討

主な薬剤
フロセミドクロピドグレルアテノロールベナゼプリル
予後

無症候性HCMは数年間安定することもあるが、うっ血性心不全発症後の中央生存期間は約1.5年。ATE再発リスクは高い

大動脈血栓塞栓症(ATE)の治療

積極的な疼痛管理と支持療法が治療の中心。血栓溶解療法(tPA等)は合併症率が高く実施施設が限られる。抗凝固療法として低分子ヘパリン(ダルテパリン100-150IU/kg SC q12-24h)を急性期に使用。再発予防にクロピドグレル18.75mg q24hとアスピリン(低用量)を長期投与

主な薬剤
低分子ヘパリン(ダルテパリン)クロピドグレルアスピリン(低用量)鎮痛薬(ブトルファノール)
予後

片側性塞栓:生存率70-93%。両側性塞栓:生存率15-35%。生存例の再発予防療法で中央生存期間は1年以上に改善傾向

不整脈の管理

徐脈性不整脈(洞不全症候群・高度房室ブロック)で薬物療法に抵抗性の場合はペースメーカー植込みを検討。頻脈性不整脈にはソタロール(2mg/kg PO q12h)やアテノロール、心室頻拍にはメキシレチン(猫での使用データは限られる)を使用

主な薬剤
ソタロールアテノロールペースメーカー(重度徐脈)
予後

原因により異なる。ペースメーカー植込み後は良好な予後が期待できるが、基礎心筋症の進行に依存

疫学データ

有病率

HCMは健康猫の11-16%に認められる最も多い心疾患。ATEの発症率はHCM猫の約12-17%。不整脈による失神の正確な有病率データは限られるが、心疾患猫の重要な症状の一つ

年齢分布

HCM:中年齢(5-7歳)に診断が多いが若齢でも発症。ATE:平均8歳、雄猫がやや多い。高齢猫では甲状腺機能亢進症に伴う二次性心筋症も

好発品種

メインクーン(HCM遺伝子変異MYBPC3-A31P)、ラグドール(HCM遺伝子変異MYBPC3-R820W)、ブリティッシュショートヘア、アメリカンショートヘア、ノルウェージャンフォレストキャット

治療費の目安

初期検査(血液・心エコー・心電図・レントゲン):30,000〜60,000円。ATE入院治療:100,000〜300,000円。HCM月間維持薬代:5,000〜15,000円

意識喪失・ぐったりに関するよくある質問

Q. 猫が意識喪失・ぐったりを見せる原因は何ですか?

猫の意識喪失・ぐったりの主な原因には、心臓病(心筋症)、大動脈血栓塞栓症、重度の貧血、ショック状態、低血糖、重度の脱水、中毒があります。

Q. 猫の意識喪失・ぐったりはいつ病院に行くべきですか?

緊急ぐったりして動かない

緊急意識がない・呼吸が弱い

早めに一時的にふらつくが回復

Q. 猫の意識喪失・ぐったりの自宅での対処法は?

  • すぐに動物病院に連絡する
  • 体温を保つ(タオルで包む)
  • 呼吸と心拍を確認する
  • 無理に食べ物や水を与えない

Q. 猫の意識喪失・ぐったりの治療費はどのくらいですか?

猫の意識喪失・ぐったりに関連する治療費の目安は初期検査(血液・心エコー・心電図・レントゲン):30,000〜60,000円。ATE入院治療:100,000〜300,000円。HCM月間維持薬代:5,000〜15,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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