Poisoning

猫の中毒

猫が有毒な物質を摂取した、または接触した状態です。猫は特定の植物、薬品、食品に対して非常に敏感です。

獣医師監修

中毒の要点まとめ

主な原因
ユリ科の植物(腎不全を引き起こす)、人間の薬(アセトアミノフェン等)、殺鼠剤、不凍液(エチレングリコール) など
緊急受診
嘔吐・下痢・よだれが出始めた、痙攣・意識混濁・呼吸困難
自宅対応
何を摂取したか特定する(パッケージを保管する)。自己判断で吐かせない
治療費目安
軽症(催吐・活性炭・日帰り):15,000〜30,000円。中等症(入院輸液2-3日):50,000〜150,000円。重症(ICU・解毒薬・透析等):200,000〜500,000円以上

病態生理

中毒は、有害物質(毒物・薬物・化学物質・有毒植物等)の摂取・経皮吸収・吸入により体内で毒性作用が発現する病態である。猫は肝臓のグルクロン酸抱合能が犬や人と比較して著しく低い(UGT酵素活性の欠損)ため、多くの薬物・化学物質の代謝・解毒能力が限られており、犬では安全な用量でも猫では致死量となりうる。代表的な例としてアセトアミノフェン(猫の致死量は50mg/kg程度で、ヒト用1錠で致命的)やペルメトリン(犬用ノミ駆除薬)がある。中毒物質によって作用機序は異なり、ユリ科植物は腎尿細管上皮の直接障害、エチレングリコールはシュウ酸カルシウム結晶による腎障害、有機リン系殺虫剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害、殺鼠剤(抗凝固剤)はビタミンK依存性凝固因子の産生阻害を引き起こす。中毒治療の原則は「更なる吸収の防止」「支持療法」「可能であれば特異的解毒薬の投与」の3本柱であり、摂取後の時間経過が治療成功率を大きく左右する。

考えられる原因

  • ユリ科の植物(腎不全を引き起こす)
  • 人間の薬(アセトアミノフェン等)
  • 殺鼠剤
  • 不凍液(エチレングリコール)
  • チョコレート
  • 洗剤・化学薬品
  • エッセンシャルオイル

鑑別診断

ユリ中毒(ユリ科植物中毒)Lily Toxicosis (Lilium / Hemerocallis)
多い

ユリ科植物(テッポウユリ・カサブランカ・ヤマユリ等)の花弁・葉・茎・花粉のいずれも猫に腎毒性を有する。摂取後12-24時間で嘔吐・食欲廃絶が出現し、24-72時間で急性腎不全(乏尿・無尿)に進行。毒性成分は未同定。花粉を舐めただけでも発症するため、飾ったユリの花瓶の水も危険

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
アセトアミノフェン中毒Acetaminophen (Paracetamol) Toxicosis
多い

飼い主による誤投与が最多原因。猫のグルクロン酸抱合能欠損によりN-acetyl-p-benzoquinone imine(NAPQI)が蓄積し、メトヘモグロビン血症と肝細胞壊死を引き起こす。チアノーゼ(可視粘膜の褐色化)・顔面浮腫・呼吸困難・嘔吐が特徴。50mg/kgで致死量。解毒薬N-アセチルシステイン(NAC)が有効

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
ペルメトリン(ピレスロイド系)中毒Permethrin (Pyrethroid) Toxicosis
多い

犬用ノミ・ダニ駆除薬(スポットオン製剤)の猫への誤使用が最多原因。塗布後数時間以内に全身性の筋肉振戦・痙攣・流涎・過敏反応・運動失調が出現。猫はグルクロン酸抱合能が低くペルメトリン代謝ができない。適切な治療で72時間以内に回復することが多い

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
エチレングリコール(不凍液)中毒Ethylene Glycol Toxicosis
時々

自動車の不凍液やトイレの芳香剤に含まれる。甘味があり猫が自発的に舐める。猫の毒性量は1.5mL/kg。摂取後30分-12時間で酩酊様症状・嘔吐・多飲多尿が出現し、24-72時間でシュウ酸カルシウム結晶による急性腎不全に進行。治療開始が3時間以内でなければ予後不良。解毒薬はエタノールまたは4-MP(フォメピゾール)

年齢: 全年齢(特に外出する猫)好発品種: 品種を問わない
殺鼠剤(抗凝固剤)中毒Anticoagulant Rodenticide Toxicosis
時々

ワルファリン系殺鼠剤の直接摂取または殺鼠剤を食べたネズミの二次的摂取が原因。ビタミンK依存性凝固因子(II, VII, IX, X)の産生が阻害される。摂取後3-5日で出血症状(皮下出血・鼻出血・血尿・呼吸困難)が出現。凝固検査(PT/APTT延長)で診断。ビタミンK1が特異的解毒薬

年齢: 全年齢(特に外出する猫)好発品種: 品種を問わない
NSAID中毒(イブプロフェン等)NSAID Toxicosis (Ibuprofen, etc.)
時々

飼い主による誤投与やヒト用薬の誤食。猫ではNSAIDの安全域が極めて狭い。消化管障害(嘔吐・下痢・消化管出血)・腎障害(急性腎不全)・中枢神経症状が出現。イブプロフェンの猫の毒性量は50mg/kg。消化管保護薬と輸液療法が治療の中心

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
有機リン系・カルバメート系殺虫剤中毒Organophosphate / Carbamate Insecticide Toxicosis
時々

アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害による副交感神経過刺激が本態。SLUDGE症状(流涎・流涙・排尿・下痢・消化管運動亢進・嘔吐)と縮瞳・徐脈・呼吸困難・筋肉振戦・痙攣が出現。解毒薬はアトロピン(ムスカリン性症状)と2-PAM(プラリドキシム、有機リンの場合)

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
チョコレート(テオブロミン)中毒Theobromine (Chocolate) Toxicosis
まれ

猫は甘味受容体を欠くためチョコレートの自発的摂取は犬より稀。テオブロミンのメチルキサンチンが心臓(頻脈・不整脈)と中枢神経(興奮・痙攣)に作用。ダークチョコレートほどテオブロミン含量が高い。活性炭投与と対症療法が中心

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
タマネギ・ニンニク中毒(ネギ属植物中毒)Allium Species Toxicosis (Onion/Garlic)
まれ

ネギ属植物に含まれる有機チオ硫酸化合物がヘモグロビンを酸化しハインツ小体を形成、溶血性貧血を引き起こす。猫は犬より感受性が高い。摂取後1-5日で元気消失・可視粘膜の蒼白・赤褐色尿(ヘモグロビン尿)が出現。血液塗抹でハインツ小体を確認

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない

緊急度の目安

状況緊急度
有毒物質を舐めた可能性がある早めに受診
嘔吐・下痢・よだれが出始めた緊急受診
痙攣・意識混濁・呼吸困難緊急受診

診断の進め方

1
問診・暴露歴の聴取初診料に含まれる(2,000〜5,000円)

最も重要な第一歩。何を・いつ・どれだけ摂取/接触したか、包装や製品の現物確認。環境中の有毒植物・薬物・化学物質の有無。嘔吐物の回収・保存。同居動物の症状確認

2
血液検査・凝固検査・尿検査15,000〜35,000円

CBC(貧血・ハインツ小体・メトヘモグロビン評価)、血液生化学(BUN/Cre:腎障害、肝酵素:肝障害、血糖、電解質)、凝固検査(PT/APTT:殺鼠剤中毒)、尿検査(シュウ酸カルシウム結晶:エチレングリコール、ヘモグロビン尿:溶血)

3
画像検査(レントゲン・超音波)8,000〜20,000円

腹部レントゲンで異物や金属片の確認。腹部超音波で腎臓のサイズ・構造変化の評価(ユリ中毒やエチレングリコール中毒では腎皮質の高エコー化)。胸部レントゲンで肺水腫・胸水の評価

4
毒物学的検査・血中濃度測定5,000〜20,000円(外注検査の場合は結果に数日要する)

エチレングリコールの血中濃度測定(迅速キットあり)。メトヘモグロビン濃度測定(アセトアミノフェン中毒)。アセチルコリンエステラーゼ活性測定(有機リン中毒)。殺鼠剤の血中PIVKA(ビタミンK欠乏タンパク)検査。検査結果を待たずに治療を開始することが原則

自宅での対応

  • 何を摂取したか特定する(パッケージを保管する)
  • 自己判断で吐かせない
  • 口の中を水で洗い流す(化学薬品の場合)
  • すぐに動物病院に連絡する

中毒の記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の中毒パターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

除染処置(消化管除染)

摂取後1-2時間以内が有効。催吐処置:キシラジン0.44mg/kg IM(猫では最も有効な催吐薬)。催吐禁忌(意識障害・痙攣・腐蝕性物質・石油製品の場合)は胃洗浄を検討。活性炭1-2g/kg POで毒物の消化管内吸着。ペルメトリンの経皮暴露ではシャンプーによる入念な皮膚洗浄

主な薬剤
キシラジン(催吐薬)活性炭硫酸ナトリウム(緩下剤)
予後

早期の除染処置は予後を大きく改善。摂取後2時間以上経過すると効果は限定的

特異的解毒薬投与

アセトアミノフェン中毒:N-アセチルシステイン(NAC)140mg/kg IV初回、その後70mg/kg q6h。エチレングリコール中毒:エタノール20% 5mL/kg IV q6h(摂取3時間以内に開始)。殺鼠剤中毒:ビタミンK1 2.5-5.0mg/kg PO q12h(4-6週間)。有機リン中毒:アトロピン0.02-0.04mg/kg IV + 2-PAM 20mg/kg slow IV

主な薬剤
N-アセチルシステイン(NAC)エタノール/フォメピゾール(4-MP)ビタミンK1アトロピンプラリドキシム(2-PAM)
予後

解毒薬が存在する中毒は早期投与で予後良好。エチレングリコールは3時間以内の治療開始が生存の鍵

支持療法・集中治療

積極的な静脈輸液療法(利尿促進・腎灌流維持)が治療の柱。痙攣にはジアゼパム0.5-1.0mg/kg IV。メトヘモグロビン血症にはメチレンブルー(猫では慎重に1.5mg/kg IV、ハインツ小体形成リスクあり)。重度貧血には輸血。急性腎不全で乏尿・無尿の場合は腹膜透析や血液透析を検討

主な薬剤
静脈輸液(乳酸リンゲル液等)ジアゼパム制吐薬(マロピタント)消化管保護薬(スクラルファート・ファモチジン)
予後

原因物質・摂取量・治療開始までの時間に大きく依存。ユリ中毒は18時間以内の輸液開始で予後良好、それ以降は腎不全進行で予後不良

ペルメトリン中毒の治療

入念な皮膚洗浄(食器用洗剤で脂溶性成分を除去)。メトカルバモール(猫での使用は議論あり、44-220mg/kg slow IV)またはジアゼパム0.5-1.0mg/kg IVで筋肉振戦・痙攣を制御。脂肪乳剤(イントラリピッド20% 1.5mL/kg IV over 15min)が脂溶性毒物の吸着に有効との報告あり。体温管理と輸液

主な薬剤
メトカルバモールジアゼパム脂肪乳剤(イントラリピッド)
予後

適切な治療で72時間以内にほとんどの症例が回復。致死率は治療下で約5%以下

疫学データ

有病率

猫の中毒は動物救急の主要原因の一つ。英国の後方視的研究で確認・疑い中毒166例中、ペルメトリンが最多(約25%)、次いでユリ・NSAID。日本ではユリ中毒・ペルメトリン中毒・アセトアミノフェン中毒が臨床的に頻度が高い

年齢分布

全年齢で発生。若齢猫は探索行動が活発で誤食リスクが高い。高齢猫は代謝能低下により毒性が増強されやすい

好発品種

品種による差異なし(中毒は環境因子が主因)

治療費の目安

軽症(催吐・活性炭・日帰り):15,000〜30,000円。中等症(入院輸液2-3日):50,000〜150,000円。重症(ICU・解毒薬・透析等):200,000〜500,000円以上

中毒に関するよくある質問

Q. 猫が中毒を見せる原因は何ですか?

猫の中毒の主な原因には、ユリ科の植物(腎不全を引き起こす)、人間の薬(アセトアミノフェン等)、殺鼠剤、不凍液(エチレングリコール)、チョコレート、洗剤・化学薬品、エッセンシャルオイルがあります。

Q. 猫の中毒はいつ病院に行くべきですか?

緊急嘔吐・下痢・よだれが出始めた

緊急痙攣・意識混濁・呼吸困難

早めに有毒物質を舐めた可能性がある

Q. 猫の中毒の自宅での対処法は?

  • 何を摂取したか特定する(パッケージを保管する)
  • 自己判断で吐かせない
  • 口の中を水で洗い流す(化学薬品の場合)
  • すぐに動物病院に連絡する

Q. 猫の中毒の治療費はどのくらいですか?

猫の中毒に関連する治療費の目安は軽症(催吐・活性炭・日帰り):15,000〜30,000円。中等症(入院輸液2-3日):50,000〜150,000円。重症(ICU・解毒薬・透析等):200,000〜500,000円以上です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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