Seizures

猫の痙攣

猫が突然体をこわばらせ、震えやけいれんを起こす症状です。意識がなくなったり、泡を吹いたりすることもあります。

獣医師監修

痙攣の要点まとめ

主な原因
てんかん、中毒、脳腫瘍、肝不全(肝性脳症) など
緊急受診
5分以上続く痙攣、痙攣が繰り返される
自宅対応
周囲の危険物を取り除く。口の中に手や物を入れない
治療費目安
初期検査(血液・画像):30,000〜50,000円、MRI+CSF検査:70,000〜120,000円、月間維持薬代:フェノバルビタール3,000〜5,000円/月、レベチラセタム10,000〜20,000円/月

病態生理

痙攣・てんかん発作は、大脳皮質ニューロンの異常な過同期発火により生じる一過性の脳機能障害である。正常時は興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)と抑制性神経伝達物質(GABA)のバランスが維持されているが、このバランスが崩壊すると過剰な電気的活動が脳全体に伝播し、全般発作(強直間代性痙攣・意識消失・流涎・排尿排便)を引き起こす。猫ではてんかんの約60%が構造的てんかん(脳腫瘍・脳炎・脳血管障害等による器質的病変)であり、犬と比較して特発性てんかんの割合は約20%と低い。頭蓋外の原因として代謝性疾患(低血糖・肝性脳症・尿毒症・電解質異常)や中毒(有機リン・ペルメトリン・エチレングリコール)も重要な鑑別対象となる。猫のてんかん有病率は約0.5%(200頭に1頭)で、発作持続が5分以上のてんかん重積状態は生命に直結する緊急事態であり、即座の抗痙攣薬投与が必要となる。

考えられる原因

  • てんかん
  • 中毒
  • 脳腫瘍
  • 肝不全(肝性脳症)
  • 腎不全
  • 低血糖
  • 感染症(FIP、トキソプラズマ)

鑑別診断

構造的てんかん(脳腫瘍)Structural Epilepsy (Intracranial Neoplasia)
多い

中高齢猫に多く、進行性の神経症状(行動変化・旋回・視覚障害・運動失調)を伴うことが多い。髄膜腫が猫の頭蓋内腫瘍の約58%を占め、次いでリンパ腫が多い。MRI検査で腫瘤病変を確認し、脳脊髄液検査で細胞診を行う

年齢: 中高齢猫(8歳以上に好発)好発品種: 品種を問わない
脳炎(感染性・非感染性)Encephalitis (Infectious / Non-infectious)
多い

FIP(猫伝染性腹膜炎)による肉芽腫性髄膜脳炎が猫で最も多い感染性脳炎。発熱・元気消失・進行性の神経症状(運動失調・眼振・意識障害)を伴う。トキソプラズマ症やクリプトコッカス症も鑑別対象。脳脊髄液検査で蛋白上昇・細胞数増加を確認

年齢: 全年齢(FIPは2歳以下に多い)好発品種: 品種を問わない(若齢純血種でFIPリスク高い)
特発性てんかんIdiopathic Epilepsy
時々

MRI・脳脊髄液検査・血液検査で異常が認められず、反復性発作のみが唯一の臨床徴候。猫では犬ほど多くなく、てんかん全体の約20%。発作間欠期は神経学的に正常。除外診断であり、構造的病変や代謝異常を十分に除外してから診断する

年齢: 生後6ヶ月〜7歳(中央値6.4歳)好発品種: バーマン(報告あり)、品種を問わない
脳血管障害(脳梗塞・脳出血)Cerebrovascular Accident (Stroke)
時々

超急性の発症で、片側性の神経症状(片麻痺・傾斜・旋回運動)が特徴的。高血圧症・甲状腺機能亢進症・心筋症との関連が多い。MRI拡散強調画像で早期診断が可能

年齢: 中高齢猫(10歳以上に多い)好発品種: 品種を問わない
代謝性発作(低血糖)Metabolic Seizures (Hypoglycemia)
時々

膵臓インスリノーマ、糖尿病のインスリン過剰投与、重度の敗血症、肝不全などが原因。脱力・震え・昏迷から痙攣に至る。血糖値が60mg/dL以下で症状が出現。ブドウ糖投与で速やかに改善する

年齢: 全年齢(子猫・糖尿病管理中の猫)好発品種: 品種を問わない
代謝性発作(肝性脳症)Hepatic Encephalopathy
時々

門脈体循環シャント(先天性・後天性)や重度の肝不全で血中アンモニアが上昇。食後に悪化する神経症状(流涎・行動異常・運動失調・痙攣)が特徴。血中アンモニア値・総胆汁酸値の上昇で診断

年齢: 先天性シャント:1歳以下、後天性:全年齢好発品種: 品種を問わない(先天性シャントは若齢)
代謝性発作(尿毒症)Uremic Encephalopathy
時々

慢性腎臓病の末期や急性腎障害で血中尿素窒素・クレアチニンが著明に上昇。嘔吐・食欲廃絶・口腔潰瘍・脱水を伴う。BUN/Cre上昇・電解質異常(高カリウム血症)で診断

年齢: 中高齢猫に多い(7歳以上)好発品種: ペルシャ、アビシニアン、メインクーン
中毒性発作(ペルメトリン中毒)Permethrin Toxicosis
時々

犬用のピレスロイド系ノミ駆除薬の誤使用が原因。塗布後数時間以内に全身性の筋肉振戦・痙攣・流涎・過敏反応が出現。猫はグルクロン酸抱合能が低くペルメトリン代謝ができないため重篤化しやすい。暴露歴の聴取が重要

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
猫の聴覚反応性発作(FARS)Feline Audiogenic Reflex Seizures (FARS)
まれ

高音の突然の刺激(錫箔を丸める音・スプーンの金属音・キーボードの打鍵音等)で誘発されるミオクロニー発作。高齢猫に多く、聴覚閾値の変化が関与。レベチラセタムが有効。'Tom and Jerry syndrome'とも呼ばれる

年齢: 高齢猫(15歳前後)好発品種: バーマン

緊急度の目安

状況緊急度
短時間(2分以内)の痙攣が1回早めに受診
5分以上続く痙攣緊急受診
痙攣が繰り返される緊急受診

診断の進め方

1
血液検査・尿検査(最低限データベース)15,000〜30,000円

CBC(全血球計算)、血液生化学(血糖・BUN・Cre・肝酵素・電解質・総胆汁酸・アンモニア)、甲状腺ホルモン(T4)、FeLV/FIV検査、尿検査を実施。代謝性・中毒性原因の除外が目的

2
胸部・腹部レントゲン検査+腹部超音波検査10,000〜20,000円

転移性腫瘍・肝臓形態異常・門脈シャントの有無を評価。肝臓の萎縮は門脈体循環シャントを示唆する

3
頭部MRI検査50,000〜100,000円(麻酔費含む)

脳腫瘍・脳炎・脳血管障害・水頭症・海馬硬化症などの頭蓋内構造的病変の検出に最も有用な画像検査。猫では全身麻酔が必要。構造的てんかんが約60%を占めるため、年齢に関わらず推奨される

4
脳脊髄液(CSF)検査15,000〜25,000円

MRI検査時に同時に実施。細胞数・蛋白濃度・細胞診で炎症性疾患(脳炎・髄膜炎)を評価。FIPの診断にはCSF中の抗体価・RT-PCRが有用。感染性脳炎のスクリーニングとして重要

5
血圧測定・心臓超音波検査5,000〜15,000円

高血圧性脳症の除外(収縮期血圧160mmHg以上で標的臓器障害リスク)。肥大型心筋症に伴う血栓塞栓症の評価。高齢猫では甲状腺機能亢進症に伴う二次性高血圧も考慮

自宅での対応

  • 周囲の危険物を取り除く
  • 口の中に手や物を入れない
  • 痙攣の様子を動画で記録する
  • 痙攣の時間を計測する
  • 発作後は静かな環境で安静にさせる

痙攣の記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の痙攣パターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

緊急処置(てんかん重積状態)

発作持続5分以上のてんかん重積状態は脳損傷・高体温のリスクがあり即座の介入が必要。ジアゼパム0.5-1.0mg/kg IVまたは直腸内投与で発作を停止させる。効果不十分な場合はミダゾラム0.2-0.5mg/kg IM/IVを追加。難治性の場合はプロポフォールまたはフェノバルビタールのIV投与(loading dose 12-20mg/kg)を行う

主な薬剤
ジアゼパムミダゾラムプロポフォールフェノバルビタール(静注)
予後

迅速な治療で多くの症例が安定化するが、基礎疾患の予後に依存する。重積状態が30分以上持続した場合は永続的脳損傷のリスクあり

抗てんかん薬による維持療法(第一選択)

フェノバルビタール(PB)が猫のてんかん第一選択薬。1.5-3.0mg/kg PO q12hで開始し、血中濃度モニタリング(治療域15-45μg/mL)で用量調整。安価で入手しやすいが、肝毒性のリスクがあり定期的な肝酵素モニタリングが必要。約40-50%の症例で発作寛解を達成

主な薬剤
フェノバルビタール
予後

単剤で約50%が発作寛解、20-30%が良好なコントロール。約30%はコントロール不良

レベチラセタムによる治療

20-25mg/kg PO q8hで投与。フェノバルビタール不応例への追加療法として有効。肝臓ではなく腎臓から排泄されるため、肝障害のある猫に推奨。猫のミオクロニー発作(FARS等)にはPBより有効。高価で1日3回投与が必要な点が欠点

主な薬剤
レベチラセタム
予後

ミオクロニー発作では約50%が発作フリーを達成。追加療法として約30-50%で発作頻度減少

原因疾患の治療

構造的てんかんでは基礎疾患の治療が最優先。髄膜腫は外科的切除が可能な場合あり。FIP脳炎にはGS-441524等の抗ウイルス薬。トキソプラズマ脳炎にはクリンダマイシン。代謝性発作では原因(低血糖・肝性脳症・尿毒症)の是正が根本治療となる

主な薬剤
抗ウイルス薬(GS-441524)クリンダマイシンラクツロース低蛋白食
予後

原因により大きく異なる。髄膜腫の外科切除は予後良好(中央生存期間2年以上)。FIP脳炎は近年抗ウイルス薬により改善傾向

疫学データ

有病率

猫全体の約0.5%(200頭に1頭)。英国の一次診療データでは反復性発作障害の年間有病率は0.16%、てんかんは0.04%

年齢分布

構造的てんかん:年齢を問わないが脳腫瘍は8歳以上に多い。特発性てんかん:初回発作の中央値6.4歳(0.4-14.4歳)。FARS:15歳前後の高齢猫

好発品種

バーマン(FARS関連)、品種差は犬ほど明確でない、純血種でFIPリスクがやや高い

治療費の目安

初期検査(血液・画像):30,000〜50,000円、MRI+CSF検査:70,000〜120,000円、月間維持薬代:フェノバルビタール3,000〜5,000円/月、レベチラセタム10,000〜20,000円/月

痙攣に関するよくある質問

Q. 猫が痙攣を見せる原因は何ですか?

猫の痙攣の主な原因には、てんかん、中毒、脳腫瘍、肝不全(肝性脳症)、腎不全、低血糖、感染症(FIP、トキソプラズマ)があります。

Q. 猫の痙攣はいつ病院に行くべきですか?

緊急5分以上続く痙攣

緊急痙攣が繰り返される

早めに短時間(2分以内)の痙攣が1回

Q. 猫の痙攣の自宅での対処法は?

  • 周囲の危険物を取り除く
  • 口の中に手や物を入れない
  • 痙攣の様子を動画で記録する
  • 痙攣の時間を計測する
  • 発作後は静かな環境で安静にさせる

Q. 猫の痙攣の治療費はどのくらいですか?

猫の痙攣に関連する治療費の目安は初期検査(血液・画像):30,000〜50,000円、MRI+CSF検査:70,000〜120,000円、月間維持薬代:フェノバルビタール3,000〜5,000円/月、レベチラセタム10,000〜20,000円/月です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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