猫の目の白濁
目の表面や内部が白く濁って見える症状です。角膜の問題、白内障、ブドウ膜炎など、視力に影響する可能性のある疾患のサインです。
目の白濁の要点まとめ
- 主な原因
- 角膜潰瘍、白内障、ブドウ膜炎、緑内障 など
- 緊急受診
- 目が赤い・痛がる・急激な変化
- 自宅対応
- 目を擦らせないようにする。暗い場所での行動に注意する
- 治療費目安
- 軽度の角膜炎(点眼治療):5,000〜15,000円、角膜切除術:50,000〜150,000円、白内障手術:460,000円以上(片眼)、緑内障治療(内科):5,000〜15,000円/月、眼球摘出術:約180,000円
病態生理
目の白濁は、眼球の透明構造(角膜、前房水、水晶体、硝子体)のいずれかに混濁が生じた状態であり、複数の病態メカニズムが関与する。角膜浮腫は、角膜内皮細胞のポンプ機能障害(外傷、炎症、内皮ジストロフィー)により角膜実質に水分が貯留し白濁する。角膜炎では炎症細胞の浸潤、血管新生、線維化により角膜の透明性が失われる。角膜黒色壊死症(コーニアルセクエストラム)は角膜実質の変性壊死であり、褐色〜黒色の色素沈着として現れ、猫に特異的な疾患である。前房内の混濁は、ぶどう膜炎による蛋白質・フィブリン・炎症細胞の漏出(前房フレア)や、前房出血(前房蓄膿)により生じる。水晶体の白濁(白内障)は水晶体蛋白質(クリスタリン)の変性・凝集により水晶体線維の透明性が失われる。核硬化症は加齢に伴う水晶体核の圧縮・密度増加であり、青白い混濁に見えるが視力への影響は軽度である。緑内障では眼圧上昇により角膜内皮が障害され角膜浮腫を引き起こす。
考えられる原因
- 角膜潰瘍
- 白内障
- ブドウ膜炎
- 緑内障
- 角膜浮腫
- 加齢による水晶体の硬化
鑑別診断
角膜表面の局所的〜びまん性の白濁。疼痛による流涙と眼瞼痙攣を伴う。フルオレセイン染色陽性。外傷やFHV-1感染が主な原因。進行すると血管新生、肉芽組織形成
角膜全体のびまん性の青白い混濁。角膜内皮細胞の機能障害による。ぶどう膜炎、緑内障、外傷後に続発。角膜の肥厚が触診やパキメトリーで確認される
角膜表面の褐色〜黒色の病変。猫に特異的。FHV-1感染、慢性角膜刺激が関連。疼痛を伴う。内科治療に抵抗性で表層角膜切除術が推奨
前房フレア(蛋白漏出)による前房の混濁。縮瞳、虹彩の色調変化、充血。低眼圧。FIP、FeLV、FIV、トキソプラズマなど全身性疾患が原因。40〜70%は特発性
眼圧上昇による角膜浮腫で白〜青白い混濁。散瞳、充血、眼球腫大(牛眼)。強い疼痛。猫ではぶどう膜炎続発性が最多で約0.2%と犬より稀。緊急治療が必要
角膜表面の白〜ピンク色の肉芽様増殖性病変。血管新生を伴う。角膜擦過検体で好酸球を確認して診断。FHV-1との関連が示唆される。ステロイド点眼に反応良好
水晶体の混濁による瞳孔内の白色〜灰白色変化。猫では犬ほど一般的ではない。外傷性、糖尿病性、ぶどう膜炎続発性が多い。進行すると視力低下。成熟白内障では水晶体誘発性ぶどう膜炎のリスク
加齢に伴う水晶体核の圧縮により青白い濁りに見える。白内障との鑑別が重要。視力への影響は通常軽度。散瞳後の眼底検査で眼底が透見可能
前房内の出血により赤〜暗赤色の混濁。外傷、凝固障害、高血圧、網膜剥離、ぶどう膜炎、腫瘍が原因。急性発症が多い。二次的緑内障のリスク
角膜実質への脂質またはミネラルの沈着による両眼性の対称性混濁。通常は疼痛を伴わない。進行は緩徐。猫では犬ほど一般的ではない
肉芽腫性ぶどう膜炎による前房フレア・ケラティックプレシピテート(角膜後面沈着物)。虹彩の色調変化、前房出血。発熱、体重減少、腹水などの全身症状を伴う
水晶体が正常位置から偏位。前方脱臼では前房内に水晶体が確認され角膜内皮障害を起こす。急性の疼痛、緑内障を続発。後方脱臼は比較的症状が軽い
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 片目がわずかに白っぽい | 早めに受診 |
| 目の白濁が進行している | 早めに受診 |
| 目が赤い・痛がる・急激な変化 | 緊急受診 |
診断の進め方
白濁の発症時期、進行速度、片眼/両眼、疼痛の有無、視力変化、全身症状を聴取。散瞳前に瞳孔対光反射、威嚇反射、眩目反射で視機能を評価。混濁の部位(角膜/前房/水晶体)を肉眼的に判定
フルオレセイン染色で角膜潰瘍を検出。細隙灯顕微鏡で混濁の層位・深度を精密に評価。角膜浮腫、角膜実質の炎症細胞浸潤、前房フレア・セル、水晶体の混濁部位を詳細に観察
緑内障(高眼圧)とぶどう膜炎(低眼圧)の鑑別に必須。猫の正常眼圧は15〜25mmHg。角膜浮腫を伴う白濁では緑内障を最優先で除外。トノペンまたはアイケアで測定
散瞳剤を点眼し眼底を直像・倒像検眼鏡で観察。混濁により眼底が透見不能な場合は眼球超音波(Bモード)で網膜剥離、眼球内腫瘤、水晶体の位置異常を評価
ぶどう膜炎が疑われる場合はFeLV/FIV検査、FIP関連検査(コロナウイルス抗体、血清蛋白分画、AGP)、トキソプラズマ抗体、血圧測定(高血圧性眼底変化の除外)を実施
自宅での対応
- 目を擦らせないようにする
- 暗い場所での行動に注意する
- 目の変化を写真で記録する
治療法
角膜疾患の内科的治療
角膜潰瘍には広域抗菌点眼薬と散瞳薬(毛様体筋痙縮の緩和)。FHV-1関連角膜炎には抗ウイルス点眼薬を併用。好酸球性角膜炎にはステロイド点眼(抗ウイルス薬併用下)。角膜浮腫には高張食塩水点眼で対症療法
表層性角膜潰瘍は1〜2週間で治癒。深部潰瘍は瘢痕を残す可能性。好酸球性角膜炎はステロイドに良好に反応するがFHV-1再活性化に注意
ぶどう膜炎の治療
局所の消炎療法(ステロイドまたはNSAIDs点眼)と散瞳薬による虹彩後癒着の予防。原因疾患の特定と治療が最重要。感染性の場合は抗菌薬・抗ウイルス薬の全身投与を併用
原因疾患による。特発性ぶどう膜炎は治療反応良好だが再発あり。FIP関連は従来予後不良だったが、GS-441524等の新規治療薬で改善が期待される
外科的治療(角膜手術・白内障手術)
角膜セクエストラムに対する表層角膜切除術(ケラテクトミー)±結膜フラップ。深部角膜潰瘍の結膜被覆術。白内障に対する水晶体超音波乳化吸引術(PEA)+人工水晶体挿入。水晶体脱臼の摘出術
角膜切除術の成功率は高いが再発例あり(約15〜20%)。白内障手術の成功率は85〜90%だが術後合併症(ぶどう膜炎、緑内障)に注意。手術費用は高額
緑内障の治療
眼圧降下剤の点眼(ドルゾラミド、チモロール)による内科的管理。急性発作時は静脈内マンニトール。内科的治療に抵抗性で視力消失した場合は眼球摘出術または義眼挿入術
猫の緑内障は多くがぶどう膜炎続発性で予後が難しい。早期治療で視力保存の可能性があるが、長期的には眼球摘出に至る症例も多い
疫学データ
角膜疾患は猫の眼科受診理由の上位を占める。角膜セクエストラムは猫に特異的な疾患で短頭種での有病率が高い。猫の緑内障の有病率は約0.2%で犬より低い。白内障は猫では犬ほど一般的ではない
角膜潰瘍は全年齢。角膜セクエストラムは2〜7歳。白内障・核硬化症は高齢。ぶどう膜炎はFIPの場合若齢
ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘア、バーミーズ、シャム
軽度の角膜炎(点眼治療):5,000〜15,000円、角膜切除術:50,000〜150,000円、白内障手術:460,000円以上(片眼)、緑内障治療(内科):5,000〜15,000円/月、眼球摘出術:約180,000円
参考文献
- Answers to What, Where, Why, and When? Corneal Opacities in Dogs and Cats — Today's Veterinary Practice
- Feline Glaucoma — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Genetic Aspects of Corneal Sequestra in a Population of Persian, Himalayan and Exotic Cats — PMC / Animals (MDPI)
- Feline Uveitis: Diagnosis and Treatment — PMC / Clinical Techniques in Small Animal Practice
- 猫の「眼の表面が白く濁る」の症状 — WithPETY 獣医師執筆 猫の症状辞典
目の白濁に関するよくある質問
Q. 猫が目の白濁を見せる原因は何ですか?
猫の目の白濁の主な原因には、角膜潰瘍、白内障、ブドウ膜炎、緑内障、角膜浮腫、加齢による水晶体の硬化があります。
Q. 猫の目の白濁はいつ病院に行くべきですか?
緊急目が赤い・痛がる・急激な変化
早めに片目がわずかに白っぽい
早めに目の白濁が進行している
Q. 猫の目の白濁の自宅での対処法は?
- 目を擦らせないようにする
- 暗い場所での行動に注意する
- 目の変化を写真で記録する
Q. 猫の目の白濁の治療費はどのくらいですか?
猫の目の白濁に関連する治療費の目安は軽度の角膜炎(点眼治療):5,000〜15,000円、角膜切除術:50,000〜150,000円、白内障手術:460,000円以上(片眼)、緑内障治療(内科):5,000〜15,000円/月、眼球摘出術:約180,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。