猫の涙目
目から涙が過剰に流れる症状です。鼻涙管(涙の排水路)の閉塞や、目の炎症による涙の過剰分泌が原因です。
涙目の要点まとめ
- 主な原因
- 鼻涙管閉塞、結膜炎、角膜の傷、猫風邪 など
- 自宅対応
- 目の周りを清潔に保つ。涙やけを防ぐために優しく拭く
- 治療費目安
- 軽度(点眼治療):3,000〜8,000円、鼻涙管洗浄:5,000〜15,000円、外科手術(眼瞼形成術):30,000〜80,000円
病態生理
涙目(流涙症・エピフォラ)は、涙液の過剰産生または涙液排出障害により、涙液が眼瞼から溢れ出す状態である。涙液は主涙腺と副涙腺(瞬膜腺を含む)から分泌され、まばたきにより眼表面を潤した後、上下の涙点から涙小管を経て鼻涙管を通り鼻腔へ排出される。涙液過剰産生型(刺激性流涙)は、角膜・結膜への刺激(異物、感染、炎症、風、睫毛乱生)により反射性に涙液分泌が亢進する。排出障害型は、涙点の閉鎖・狭窄、鼻涙管の先天性閉塞・炎症性狭窄・腫瘍性閉塞により涙液の鼻腔への排出が阻害される。短頭種では頭蓋骨の形態異常により鼻涙管が屈曲・狭窄しやすく、構造的な流涙症のリスクが高い。慢性的な流涙は涙やけ(epiphora staining)を引き起こし、涙液中のポルフィリンが酸化されることで眼頭から鼻筋にかけて赤褐色の色素沈着を生じる。
考えられる原因
- 鼻涙管閉塞
- 結膜炎
- 角膜の傷
- 猫風邪
- アレルギー
- 顔の構造(短頭種に多い)
鑑別診断
急性期は漿液性の流涙とくしゃみ・鼻汁を伴う上部気道症状。慢性期は結膜炎・角膜炎の再発に伴う間欠的な流涙。ストレスで再活性化
幼齢から持続する両側性の流涙。涙やけが顕著。眼の炎症所見は乏しい。フルオレセイン通過試験で鼻孔に色素が到達しない
結膜の充血・腫脹を伴う流涙。感染性(ウイルス・細菌)、アレルギー性、刺激性(異物・化学物質)に分類。原因により目やにの性状が異なる
強い疼痛により反射性流涙と眼瞼痙攣(目を細める)。フルオレセイン染色陽性。外傷やFHV-1感染が主因。角膜表面の混濁や血管新生
平坦な顔面構造による涙液排出不全。鼻涙管の屈曲・狭窄、浅い眼窩、眼瞼裂の異常が原因。両眼性で慢性的な涙やけ。炎症所見は通常なし
突然の片眼性流涙と眼瞼痙攣。まぶたの裏側や結膜嚢に植物片・砂粒・被毛などが確認される。異物除去で速やかに改善
まぶたの内反により睫毛・被毛が角膜を持続的に刺激。慢性的な流涙と眼瞼痙攣。角膜の炎症・血管新生を伴うことがある
慢性的な上部気道感染や結膜炎の後遺症として鼻涙管が狭窄・閉塞。片眼または両眼の流涙。鼻涙管洗浄で粘液様の排出物
眼圧上昇による疼痛から反射性流涙。散瞳、角膜浮腫(白濁)、眼球腫大(牛眼)を伴う。猫ではぶどう膜炎続発性が最多。緊急性が高い
透明な漿液性の流涙と結膜充血。掻痒感を伴う。花粉やハウスダストなどの環境因子に関連。季節性の変動があることも
猫では犬より稀。涙液量の減少(シルマーテスト低値)により角膜・結膜の乾燥と代償性の粘液性分泌物。FHV-1感染後の涙腺障害が原因となることがある
片眼性の進行性眼球突出、流涙、結膜充血。眼球運動の制限。CT/MRIで眼窩内の腫瘤を確認。リンパ腫、扁平上皮癌が多い
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 片目だけ少し涙が多い | 経過観察 |
| 常に涙で目の周りが濡れている | 早めに受診 |
| 涙の色が変わった・目が赤い | 早めに受診 |
診断の進め方
流涙の発症時期、片眼/両眼、随伴症状(くしゃみ、目やに、羞明)、飼育環境、品種特性を確認。眼瞼の形態、睫毛の異常、結膜充血、角膜の透明性を肉眼的に評価
フルオレセイン色素を点眼し角膜潰瘍の有無を確認。同時にジョーンズテスト(5〜10分後に鼻孔から色素排出を確認)で鼻涙管の開通性を評価。鼻孔に色素が到達しない場合は鼻涙管閉塞を示唆
涙液産生量の定量的測定。試験紙を下眼瞼に1分間挿入。猫の正常値は14〜17mm/min。低値はドライアイを示唆し、高値は反射性流涙(刺激性)を示唆
トノペンまたはアイケア等のトノメーターで眼圧を測定。猫の正常眼圧は15〜25mmHg。高値は緑内障、低値はぶどう膜炎を示唆。流涙の原因としての眼圧異常を除外するために重要
鎮静下で涙点から極細カニューレを挿入し生理食塩水で洗浄。通過抵抗や排出物の性状を評価。必要に応じて造影剤を注入しX線撮影で鼻涙管の形態を確認。閉塞部位の特定に有用
自宅での対応
- 目の周りを清潔に保つ
- 涙やけを防ぐために優しく拭く
- 環境中の刺激物(煙・ほこり)を減らす
治療法
原因疾患の内科的治療
感染性結膜炎・角膜炎に対する抗ウイルス薬・抗菌薬の点眼治療。アレルギー性の場合は抗ヒスタミン薬や環境管理。ドライアイにはシクロスポリン点眼による涙液分泌促進
感染性結膜炎は適切な治療で1〜4週間で改善。FHV-1は再発の可能性あり。ドライアイは長期管理が必要
鼻涙管洗浄・拡張術
後天性の鼻涙管閉塞に対し、鎮静下でカテーテルを涙点から挿入し生理食塩水で洗浄・拡張。閉塞が重度の場合は留置カテーテルを数日間挿入し管腔の再開通を促す
洗浄で改善するが再閉塞することがある。定期的な洗浄が必要な場合もある。先天性の重度閉塞は完全解消が困難
外科的治療(眼瞼矯正・涙嚢鼻涙管吻合術)
眼瞼内反症に対するHotz-Celsus法による眼瞼形成術。重度の鼻涙管閉塞で洗浄に反応しない場合は涙嚢鼻涙管吻合術(DCR)を検討。短頭種の構造的問題は完全改善が困難
眼瞼形成術の成功率は高い。短頭種の構造的流涙症は手術でも完全には改善しないことがあり、継続的な顔面ケアが必要
日常ケア・涙やけ対策
特に短頭種で完全な治療が困難な場合、涙やけの管理が重要。温かい濡れガーゼで1日1〜2回眼周囲を清拭。涙やけクリーナーの使用。被毛のトリミングで眼周囲の清潔を維持
構造的原因の場合は根治は困難だが、日常ケアにより二次感染や皮膚炎を予防できる
疫学データ
流涙症は猫の眼科疾患の中で最も一般的な症状の一つ。短頭種では約60〜80%に何らかの涙液排出障害が見られるとの報告がある。FHV-1はシェルター猫の80〜90%が潜伏感染しており、流涙の主要な感染性原因
先天性鼻涙管閉塞は幼齢から。感染性流涙は子猫の初感染期(8〜12週齢)と成猫のストレス再活性化時。後天性排出障害は中高齢
ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘア、スコティッシュフォールド、ブリティッシュショートヘア
軽度(点眼治療):3,000〜8,000円、鼻涙管洗浄:5,000〜15,000円、外科手術(眼瞼形成術):30,000〜80,000円
涙目に関するよくある質問
Q. 猫が涙目を見せる原因は何ですか?
猫の涙目の主な原因には、鼻涙管閉塞、結膜炎、角膜の傷、猫風邪、アレルギー、顔の構造(短頭種に多い)があります。
Q. 猫の涙目はいつ病院に行くべきですか?
早めに常に涙で目の周りが濡れている
早めに涙の色が変わった・目が赤い
Q. 猫の涙目の自宅での対処法は?
- 目の周りを清潔に保つ
- 涙やけを防ぐために優しく拭く
- 環境中の刺激物(煙・ほこり)を減らす
Q. 猫の涙目の治療費はどのくらいですか?
猫の涙目に関連する治療費の目安は軽度(点眼治療):3,000〜8,000円、鼻涙管洗浄:5,000〜15,000円、外科手術(眼瞼形成術):30,000〜80,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。