猫の目やに
目から分泌物が出る症状です。透明な涙は正常なことがありますが、黄色や緑色の目やにはコンジャンクティバイティス(結膜炎)などの感染を示唆します。
目やにの要点まとめ
- 主な原因
- 猫風邪(ヘルペスウイルス・カリシウイルス)、結膜炎、角膜炎・角膜潰瘍、鼻涙管閉塞 など
- 自宅対応
- 温かい湿らせたガーゼで優しく拭き取る。目を擦らせないようにする
- 治療費目安
- 軽度の結膜炎:3,000〜10,000円(点眼薬処方)、精密検査を含む場合:15,000〜30,000円、外科手術が必要な場合:30,000〜100,000円
病態生理
目やに(眼脂)は、眼表面の防御機構の一部として結膜杯細胞や涙腺から分泌されるムチン・脂質・水分が、感染・炎症・アレルギーなどの刺激により過剰産生された結果である。正常な猫でも少量の茶褐色の目やにが見られるが、病的な目やには炎症メディエーター(ヒスタミン、プロスタグランジン)の放出により血管透過性が亢進し、結膜や角膜上皮からの浸出液が増加することで生じる。漿液性(透明な水様)の目やにはウイルス感染初期やアレルギーを示唆し、粘液膿性(黄緑色)の目やには細菌の二次感染を反映する。また、鼻涙管の閉塞により涙液排出が障害されると、目やにが眼瞼に蓄積しやすくなる。猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)は猫の眼科疾患における最も重要な病原体であり、三叉神経節に潜伏感染し、ストレスや免疫抑制時に再活性化して慢性的な目やにの原因となる。
考えられる原因
- 猫風邪(ヘルペスウイルス・カリシウイルス)
- 結膜炎
- 角膜炎・角膜潰瘍
- 鼻涙管閉塞
- 異物
- アレルギー
鑑別診断
初期は漿液性の目やにで始まり、二次感染により粘液膿性に変化。くしゃみ・鼻汁を伴うことが多い。片眼発症から両眼に進展。ストレスで再発を繰り返す。樹枝状角膜潰瘍が特徴的
片眼から始まり1〜2週間で両眼に波及。結膜の著しい充血・腫脹(ケモーシス)が特徴。漿液性から粘液膿性の目やに。くしゃみは軽度。多頭飼育環境で蔓延しやすい
口腔内潰瘍が特徴的な鑑別点。目やにに加え流涎、口臭、食欲低下。結膜炎はFHV-1より軽度のことが多い。跛行を伴うこともある
結膜の軽度充血と漿液〜粘液性の目やに。しばしばFHV-1やクラミジアとの混合感染。単独感染では比較的軽症。濾胞性結膜炎を呈することがある
黄緑色の膿性目やにが大量に産生される。通常はウイルス感染や外傷を先行原因とする二次感染。ブドウ球菌、連鎖球菌が主な起炎菌
透明な漿液性の目やにと結膜充血。掻痒感が強い。環境アレルゲン(花粉、ハウスダスト)や食物アレルギーに関連。季節性の場合がある。皮膚症状を伴うことも多い
強い疼痛による流涙と目やに。羞明(目を細める)を伴う。フルオレセイン染色で角膜上皮欠損を確認。外傷やFHV-1感染が主な原因
慢性的な涙やけと目やに。目の充血や痛みは軽度。フルオレセイン通過試験(ジョーンズテスト)で鼻孔への涙液排出を確認。先天性と後天性がある
まぶたが内側に巻き込まれ、睫毛や被毛が角膜を刺激。慢性的な流涙と粘液性の目やに。角膜炎・角膜潰瘍を続発。片眼性が多い
角膜表面に白〜ピンク色の肉芽様増殖性病変。粘液性目やに。角膜擦過検体の細胞診で好酸球を確認。FHV-1感染との関連が示唆される
縮瞳、前房フレア、虹彩の色調変化。漿液性〜粘液性の目やに、羞明。FIP、FeLV、FIV、トキソプラズマなど全身性疾患に伴うことが多い
開眼前(生後10日未満)の子猫で閉じた眼瞼が膿性分泌物で膨隆。FHV-1の産道感染が主因。緊急の眼瞼開放と局所治療が必要
片眼の急激な腫脹、眼球突出、開口時の疼痛。膿性の目やに。歯根感染からの波及が多い。発熱、白血球増多
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 朝に少量の目やにがある | 経過観察 |
| 黄色や緑色の目やにが続く | 早めに受診 |
| 目を開けられない・目が赤い | 早めに受診 |
診断の進め方
目やにの性状(漿液性・粘液性・膿性)、片眼/両眼、発症時期、ワクチン歴、飼育環境(多頭飼育・室内外)、くしゃみ・鼻汁などの随伴症状を聴取。瞬目反射、威嚇反射、瞳孔対光反射を評価。眼瞼・結膜・角膜の肉眼的観察
フルオレセイン色素を角膜に滴下し、ブルーライトで観察。角膜上皮欠損(潰瘍)を蛍光緑色で検出。樹枝状潰瘍はFHV-1感染を強く示唆。ジョーンズテスト(鼻孔への色素到達確認)で鼻涙管の開通性も評価
専用の試験紙を下眼瞼に60秒間挿入し、涙液産生量を測定。猫の正常値は約14〜17mm/min。低値はドライアイ(乾性角結膜炎)を示唆。涙液量の客観的評価に必須
結膜擦過検体の細胞診で好中球(細菌感染)、好酸球(好酸球性角結膜炎)、封入体(クラミジア)を確認。PCR検査でFHV-1、クラミジア、マイコプラズマの遺伝子を検出。確定診断に重要
CBC、血液生化学、FeLV/FIV抗原・抗体検査。ぶどう膜炎が疑われる場合はFIPの抗体価(コロナウイルス抗体)、トキソプラズマIgM/IgG、全身性真菌感染の血清学的検査も考慮
自宅での対応
- 温かい湿らせたガーゼで優しく拭き取る
- 目を擦らせないようにする
- 左右の目を別々のガーゼで拭く
治療法
抗ウイルス療法(FHV-1感染)
猫ヘルペスウイルス感染に対する特異的治療。抗ウイルス点眼薬による局所治療と、L-リジンの経口補充(エビデンスは限定的)。重症例ではファムシクロビルの全身投与
急性感染は1〜3週間で改善するが、ウイルスは三叉神経節に潜伏感染し、ストレスで再発を繰り返す。慢性例は長期管理が必要
抗菌薬療法(細菌・クラミジア感染)
細菌性二次感染には広域スペクトラム抗菌点眼薬を使用。クラミジア感染にはドキシサイクリンの全身投与が第一選択で、臨床改善後も2週間以上の継続投与が推奨される
細菌性結膜炎は適切な治療で1〜2週間で治癒。クラミジアは4〜6週間の投薬が必要だが予後良好。多頭飼育では同居猫の同時治療が重要
消炎・対症療法
結膜の充血・腫脹に対する対症療法。非ステロイド性抗炎症点眼薬または低濃度ステロイド点眼薬を使用。角膜潰瘍がある場合はステロイド点眼は禁忌。エリザベスカラーで自己損傷を防止
原因疾患の適切な治療と併用することで良好。ステロイドの不適切使用はFHV-1再活性化や角膜潰瘍悪化のリスクがある
外科的治療(鼻涙管閉塞・眼瞼異常)
鼻涙管閉塞には極細カテーテルによる洗浄・拡張術を実施。眼瞼内反症にはHotz-Celsus法による矯正手術。チェリーアイにはポケット法による瞬膜腺の整復術
鼻涙管洗浄は再発することがある。眼瞼矯正手術の成功率は高い。早期介入で角膜の二次的損傷を予防できる
疫学データ
猫の動物病院受診理由として上位に位置する。アニコム損保のデータでは結膜炎は猫の保険請求理由TOP20の第6位。猫カゼ(上部気道感染症)の罹患率は高く、シェルター猫の約80〜90%がFHV-1に感染歴を持つ
子猫(8〜12週齢)で猫カゼによる初感染が多い。成猫ではストレスによるFHV-1再活性化。高齢猫では鼻涙管閉塞や眼瞼弛緩による二次性
短頭種(ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘア)は眼の構造上、目やにが出やすい、品種を問わず発症するが、多頭飼育環境の猫でリスクが高い
軽度の結膜炎:3,000〜10,000円(点眼薬処方)、精密検査を含む場合:15,000〜30,000円、外科手術が必要な場合:30,000〜100,000円
参考文献
- Disorders of the Conjunctiva in Cats — MSD Veterinary Manual
- Feline Herpesvirus-1: Ocular Manifestations, Diagnosis and Treatment Options — PMC / Veterinary Sciences
- Diagnosing, Treating, and Managing Causes of Conjunctivitis in Dogs and Cats — Today's Veterinary Practice
- 猫の「目やにがでる」の症状 — WithPETY 獣医師執筆 猫の症状辞典
- Conjunctivitis in Cats — VCA Animal Hospitals
目やにに関するよくある質問
Q. 猫が目やにを見せる原因は何ですか?
猫の目やにの主な原因には、猫風邪(ヘルペスウイルス・カリシウイルス)、結膜炎、角膜炎・角膜潰瘍、鼻涙管閉塞、異物、アレルギーがあります。
Q. 猫の目やにはいつ病院に行くべきですか?
早めに黄色や緑色の目やにが続く
早めに目を開けられない・目が赤い
Q. 猫の目やにの自宅での対処法は?
- 温かい湿らせたガーゼで優しく拭き取る
- 目を擦らせないようにする
- 左右の目を別々のガーゼで拭く
Q. 猫の目やにの治療費はどのくらいですか?
猫の目やにに関連する治療費の目安は軽度の結膜炎:3,000〜10,000円(点眼薬処方)、精密検査を含む場合:15,000〜30,000円、外科手術が必要な場合:30,000〜100,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。