猫の咳
猫が咳をする症状です。猫は犬と比べて咳をすることが少なく、咳が出る場合は喘息や心臓病などの重要な疾患が隠れている可能性があります。
咳の要点まとめ
- 主な原因
- 猫喘息、心臓病(心筋症)、肺炎、気管支炎 など
- 緊急受診
- 呼吸が荒い・口を開けて呼吸
- 自宅対応
- 煙やほこりを避ける(芳香剤・お香も含む)。咳の動画を撮影しておく
- 治療費目安
- 猫喘息(診断〜初期治療): 20,000〜50,000円、喘息長期管理(吸入薬含む月額): 5,000〜15,000円/月、心臓病治療(年間): 約160,000円/年、精密検査(BAL・気管支鏡): 30,000〜80,000円
病態生理
咳は気道粘膜の咳受容体(主にC線維とRapidly Adapting Receptors)が機械的・化学的・炎症性刺激を受けることで誘発される防御反射である。求心性シグナルが迷走神経を介して延髄の咳中枢に伝達されると、深吸気→声門閉鎖→腹壁筋と横隔膜の急激な収縮→声門開放により高速の呼気流が発生し、気道内の異物・粘液・病原体を排出する。猫ではイヌと比較して咳反射の閾値が高く、咳を呈すること自体が臨床的に重要なサインである。猫の咳の最も一般的な原因は気管支の慢性炎症(猫喘息/アレルギー性気管支炎)であり、気道過敏性の亢進、平滑筋収縮、粘液過分泌、好酸球浸潤が特徴的な病態である。下気道疾患では気管支壁の肥厚と内腔狭窄により気流制限が生じ、呼気時の喘鳴(wheezing)を伴う。心疾患に起因する咳は犬より猫では少ないが、重度の肺水腫では咳を呈する。
考えられる原因
- 猫喘息
- 心臓病(心筋症)
- 肺炎
- 気管支炎
- 寄生虫(肺虫)
- 胸水
鑑別診断
発作的な咳・喘鳴・呼気努力。姿勢は頭を伸ばし体を低くする。胸部X線で気管支壁の肥厚(ドーナツサイン・トラムラインサイン)と肺の過膨張。BAL液中の好酸球増多。ステロイドに良好に反応
2ヶ月以上持続する慢性咳。喘息と臨床的に類似するが好中球浸潤が主体。ステロイドへの反応が喘息より不完全。BAL液で好中球優位
咳・喘鳴・呼気努力で猫喘息と酷似(HARD: Heartworm Associated Respiratory Disease)。抗体検査・抗原検査・心臓超音波を組み合わせて診断。蚊の媒介地域での屋外飼育歴
発熱・食欲不振・元気消失を伴う湿性咳。胸部X線で肺野の浸潤影(肺胞パターン)。子猫や免疫抑制猫で重症化。細菌培養と感受性試験が治療に重要
慢性咳・喘鳴・呼吸困難。糞便のベールマン法で幼虫を検出。外出猫でカタツムリ等の中間宿主への暴露歴。胸部X線で結節性〜びまん性間質パターン
頻呼吸・呼吸困難が主で咳は比較的少ない。ギャロップリズム・心雑音を聴取。胸部X線で肺水腫パターン。心臓超音波で左心室壁の肥厚。NT-proBNP上昇
興奮時や飲水時に「ガーガー」という特徴的な咳。猫では犬に比べ稀。透視検査で動的な気管内腔の狭窄を確認。気管支鏡で重症度を評価
進行性の慢性咳・体重減少・呼吸困難。胸部X線で結節影または腫瘤影。原発性は腺癌が最多。他臓器からの肺転移も考慮。CT検査で範囲を評価
呼吸困難・運動不耐性が主で、咳を伴うこともある。聴診で心音・肺音の減弱。X線で胸腔内液体貯留。穿刺液の性状で原因を鑑別(滲出液・漏出液・乳び・膿性)
突然の激しい咳・窒息症状。気管内異物は上気道閉塞症状、気管支内異物は片側性の無気肺を生じうる。内視鏡で確認・除去
声の変化(嗄声・消失)と吸気時のストライダーが特徴。嚥下困難を伴うことがある。喉頭鏡検査で声帯の動きを評価。片側性は保存的管理、両側性は外科適応
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 時々軽い咳をする | 早めに受診 |
| 毎日咳をする | 早めに受診 |
| 呼吸が荒い・口を開けて呼吸 | 緊急受診 |
診断の進め方
咳の性状(乾性/湿性)・頻度・誘因・持続期間、随伴症状(呼吸困難・運動不耐性・体重変化)を聴取。ワクチン歴・駆虫歴・生活環境(屋内外)を確認。聴診で肺野の喘鳴(wheezing)・捻髪音(crackles)・心雑音・ギャロップリズムを評価。気管圧迫による咳誘発テスト
吸気・呼気の2相撮影が理想。気管支壁の肥厚(ドーナツサイン)、肺の過膨張、肺胞パターン(肺炎・肺水腫)、結節影(腫瘍・寄生虫)、胸水の有無を評価。心臓のシルエットで心肥大を確認
CBC(好酸球増多:喘息・寄生虫を示唆)、血液生化学、FeLV/FIV検査。フィラリア抗体検査・抗原検査(蚊の媒介地域では必須)。NT-proBNP(心疾患のスクリーニング)
全身麻酔下で気管支鏡を挿入し気道粘膜を直接観察。BAL液の細胞診で好酸球浸潤(喘息)、好中球浸潤(慢性気管支炎・感染)、腫瘍細胞を評価。細菌培養・感受性試験も同時に実施
心疾患が疑われる場合に実施。左心室壁厚・左房径を測定し肥大型心筋症を評価。僧帽弁逆流の有無・肺動脈の拡張(フィラリア症を示唆)を確認。Mモード・ドプラ法による機能評価
自宅での対応
- 煙やほこりを避ける(芳香剤・お香も含む)
- 咳の動画を撮影しておく
- 安静にさせる
治療法
猫喘息の標準治療
急性発作にはステロイド(全身投与)と気管支拡張薬で気道炎症と気管支攣縮を緩和。長期管理は吸入ステロイド(フルチカゾン + AeroKat)に移行し全身性副作用を軽減。環境中のアレルゲン除去(粉塵フリーの猫砂、空気清浄機、禁煙)を並行
適切な管理で多くの猫がQOLを維持。完治は困難で生涯にわたる管理が必要。重症例では急性呼吸不全のリスクあり
感染性気管支炎・肺炎の治療
原因微生物に対する適切な抗菌薬投与。重症例では酸素療法・輸液・ネブライゼーションを併用。細菌培養結果に基づく抗菌薬の調整。肺虫症にはフェンベンダゾールまたはイベルメクチンを投与
細菌性肺炎は適切な抗菌薬で良好な回復が期待できる。免疫抑制猫では重症化リスク。肺虫症は駆虫で回復
フィラリア関連呼吸器疾患(HARD)の管理
成虫駆除は猫では致死的リスクがあるため推奨されない。ステロイドで気道炎症を抑制し、支持療法を行う。予防薬(モキシデクチン等)を投与して新たな感染を防止。成虫の自然死を待つ管理が基本
多くの猫は成虫の自然死(寿命2-3年)後に改善。急性虫体死亡時にアナフィラキシーショックのリスクあり。予防が最も重要
心原性肺水腫の治療
利尿薬で肺水腫を軽減。酸素療法で呼吸を安定化。ACE阻害薬やカルシウムチャネル遮断薬で心臓の負荷を軽減。血栓塞栓症の予防にクロピドグレルを投与。ストレスを最小限にした管理
HCMの予後は無症候性では長期生存可能(数年)。うっ血性心不全を発症すると生存期間中央値は約1-2年。血栓塞栓症は予後不良
疫学データ
猫喘息は猫の1-5%に影響するとされ、猫の下気道疾患の最多原因。咳を主訴とする猫の約50-70%が喘息/慢性気管支炎と診断される。猫フィラリア症はフィラリア流行地域の猫の5-15%で抗体陽性。HCMは全猫の約15-20%に発生し猫の心臓病で最多
猫喘息は2-8歳(中央値4-5歳)に好発。HCMは5-7歳に好発するが若齢でも発症あり。感染性肺炎は子猫に多い。肺腫瘍は高齢猫
シャム・オリエンタル系(猫喘息)、メインクーン・ラグドール(HCM)、品種を問わない(感染症)
猫喘息(診断〜初期治療): 20,000〜50,000円、喘息長期管理(吸入薬含む月額): 5,000〜15,000円/月、心臓病治療(年間): 約160,000円/年、精密検査(BAL・気管支鏡): 30,000〜80,000円
参考文献
- Diagnosis Of Feline Lower Airway Disease — Today's Veterinary Practice
- Feline Asthma: What You Need To Know — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Feline Asthma: What's New and Where Might Clinical Practice Be Heading? — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- Feline heartworm disease: a clinical review — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- 猫が咳をする原因は?病気の可能性やすぐに受診すべき症状などを徹底解説 — 日本ペット少額短期保険
咳に関するよくある質問
Q. 猫が咳を見せる原因は何ですか?
猫の咳の主な原因には、猫喘息、心臓病(心筋症)、肺炎、気管支炎、寄生虫(肺虫)、胸水があります。
Q. 猫の咳はいつ病院に行くべきですか?
緊急呼吸が荒い・口を開けて呼吸
早めに時々軽い咳をする
早めに毎日咳をする
Q. 猫の咳の自宅での対処法は?
- 煙やほこりを避ける(芳香剤・お香も含む)
- 咳の動画を撮影しておく
- 安静にさせる
Q. 猫の咳の治療費はどのくらいですか?
猫の咳に関連する治療費の目安は猫喘息(診断〜初期治療): 20,000〜50,000円、喘息長期管理(吸入薬含む月額): 5,000〜15,000円/月、心臓病治療(年間): 約160,000円/年、精密検査(BAL・気管支鏡): 30,000〜80,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。