猫の口呼吸
猫が口を開けて呼吸する症状です。犬と違い、猫は通常口呼吸をしません。口を開けて呼吸している場合は重篤な状態である可能性が高いです。
口呼吸の要点まとめ
- 主な原因
- 重度の呼吸困難、心臓病、熱中症、重度のストレスや恐怖 など
- 緊急受診
- 安静時に口を開けて呼吸、舌や歯茎が紫色(チアノーゼ)
- 自宅対応
- すぐに安静にさせる。涼しい場所に移動させる
- 治療費目安
- 緊急診察・酸素療法・安定化: 15,000〜50,000円、ICU入院管理: 20,000〜50,000円/日、心疾患精査(心エコー・レントゲン・血液検査): 25,000〜50,000円、心臓病長期管理: 10,000〜20,000円/月、熱中症治療(入院含む): 50,000〜200,000円
病態生理
猫は解剖学的にも生理学的にも鼻呼吸を基本とする動物であり、正常時に開口呼吸を行うことは極めて稀である(短時間の激しい運動後やストレス時を除く)。猫が口呼吸を呈する場合、鼻腔〜上気道の閉塞による鼻呼吸不能、下気道疾患による換気量の代償的増加、肺実質のガス交換障害(肺水腫・肺炎)による低酸素血症、胸腔内の物理的圧迫(胸水・気胸・横隔膜ヘルニア)による肺拡張制限、心拍出量低下(心不全)による組織酸素需要の増大、または代謝性原因(アシドーシス・高体温・貧血)による呼吸代償のいずれかが関与する。口呼吸の出現は鼻呼吸だけでは酸素需要を満たせない状態を示しており、猫の口呼吸は原則として緊急性の高い徴候として扱うべきである。安静時の開口呼吸が10分以上持続する場合は、重篤な基礎疾患が存在する可能性が高く、直ちに動物病院での評価が必要である。
考えられる原因
- 重度の呼吸困難
- 心臓病
- 熱中症
- 重度のストレスや恐怖
- 上気道の閉塞
- 激しい運動後(一時的)
鑑別診断
急性の呼気性呼吸困難から開口呼吸に進展。蹲踞姿勢(頸部を伸展し肩で呼吸)。呼気時の喘鳴が顕著。気管支拡張薬で速やかに改善。既往歴のある猫で発作として認識しやすい
進行性の頻呼吸から開口呼吸に悪化。起坐呼吸。安静時の呼吸数増加(>40回/分)が早期徴候。聴診でギャロップリズム・雑音。X線で肺水腫・胸水。チアノーゼを伴うことがある
両側性の鼻腔完全閉塞により鼻呼吸不能で口呼吸に移行。重度の猫風邪(鼻腔内の粘液貯留)、鼻腔腫瘍、鼻咽頭ポリープが原因。鼻汁・くしゃみの既往あり
高温環境への暴露後の開口呼吸・パンティング・流涎・ふらつき。直腸温>40.5℃。体表の皮膚紅潮。進行するとDIC・多臓器不全に至る。短頭種・肥満猫でリスク増加
進行性の呼吸困難から開口呼吸。浅速呼吸。腹側の肺音減弱。X線・POCUSで胸水確認。胸腔穿刺で即時改善。液体性状で原因を鑑別(心不全・腫瘍・膿胸・FIP・乳び胸)
粘膜蒼白・頻呼吸・頻脈・開口呼吸。酸素運搬能の低下による代償的な換気量増大。PCV <15%で症状が顕在化。出血・溶血・骨髄疾患の鑑別が必要
動物病院への移動・保定・見知らぬ環境での一過性開口呼吸。通常数分以内に軽快。瞳孔散大・頻脈を伴う。他の症状がなく、安静にすると呼吸正常化。器質的疾患との鑑別が重要
外傷後の急性開口呼吸。聴診で背側肺音は保たれるが腹側で減弱(遊離空気は背側に移動)。X線で肺虚脱と遊離空気。緊急の胸腔穿刺で改善
HCMに続発。急性の後肢麻痺・激烈な疼痛・開口呼吸・発声。後肢は冷たく脈拍触知不能。爪床のチアノーゼ。緊急対応が必要。予後不良
外傷後の開口呼吸。腹腔臓器の胸腔内脱出。聴診で心音の偏位・腸蠕動音の胸腔内聴取。X線で横隔膜ラインの消失と胸腔内の腹腔臓器陰影
ワクチン接種後・薬剤投与後・虫刺され後の急性上気道閉塞。吸気性ストライダー・開口呼吸・顔面浮腫。アドレナリン投与で速やかに改善。既往歴の確認が重要
緩徐に進行する運動不耐性から開口呼吸に至る。体重減少を伴うことが多い。X線で結節影・腫瘤影。原発性肺腫瘍(腺癌が最多)または転移性腫瘍。高齢猫に好発
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 激しい遊びの後の一時的な口呼吸 | 経過観察 |
| 安静時に口を開けて呼吸 | 緊急受診 |
| 舌や歯茎が紫色(チアノーゼ) | 緊急受診 |
診断の進め方
呼吸困難猫は保定による急変リスクが高いため、まずケージ越しに呼吸パターン・姿勢・粘膜色・意識レベルを評価。直ちに酸素供給(酸素ケージまたはフローバイ)を開始。チアノーゼ・舌色の確認。安定するまで侵襲的な検査は延期
最小限の保定で実施可能な迅速診断法。TFAST/VetBLUEプロトコルで胸水・心嚢液・肺のBライン(肺水腫を示唆)を評価。心臓の略式評価でLA拡大・左室壁肥厚をスクリーニング。胸水確認時は胸腔穿刺に移行
PCV/TP(貧血・蛋白状態の即時評価)、静脈血液ガス(酸塩基平衡・乳酸値)、血糖値。安定後にCBC、生化学、NT-proBNP(心原性vs非心原性の鑑別)、FeLV/FIV、凝固系。直腸温測定(熱中症の除外)
呼吸状態が安定した後に実施。最小限の保定でDV像(立位背腹像)から撮影。肺水腫・胸水・気胸・肺腫瘤・心臓シルエット・横隔膜の整合性を評価。猫のストレスに十分配慮し、必要に応じて軽い鎮静を検討
心疾患が疑われる場合に実施。2Dモード・Mモード・ドプラ法で左心室壁厚(>6mmで肥大)、左房径、僧帽弁逆流、拡張機能、収縮機能を詳細に評価。心筋症の病型分類と重症度判定に不可欠
自宅での対応
- すぐに安静にさせる
- 涼しい場所に移動させる
- 安静時の口呼吸は緊急事態として対応する
治療法
緊急安定化
口呼吸は緊急症状として扱い、まず酸素化の確保と安静を最優先。酸素ケージ収容、最小限のハンドリング。重度の胸水・気胸が疑われる場合は即座に胸腔穿刺を実施。鎮静薬で不安・苦痛を軽減しストレスによる悪化を防止
初期安定化の成功が生存率を大きく左右する。原因が可逆的であれば良好な回復が期待できる
心原性口呼吸の治療
肺水腫に対してフロセミドの静注/筋注。胸水に対しては胸腔穿刺。急性期の安定化後、経口薬による長期管理へ移行。ACE阻害薬、クロピドグレル(血栓予防)、必要に応じてピモベンダン。安静時呼吸数(SRR)の自宅モニタリングを指導
CHF発症後の生存期間は治療への反応により数ヶ月〜2年。安静時呼吸数のモニタリングで早期再発を検知可能。血栓塞栓症の併発は予後を著しく悪化させる
呼吸器疾患に対する治療
喘息発作にはステロイド全身投与+気管支拡張薬吸入。重度の上気道閉塞にはステロイドで浮腫を軽減。鼻腔閉塞には加湿・鼻腔洗浄・抗菌薬。喉頭浮腫/アナフィラキシーにはアドレナリン筋注
喘息は適切な管理で良好。喉頭浮腫/アナフィラキシーは迅速な対応で回復可能。基礎疾患(腫瘍等)によっては予後不良
熱中症の治療
積極的な冷却(濡れタオル・扇風機・涼しい場所への移動)を即座に開始。直腸温39.5℃に達したら冷却を中止(過冷却防止)。輸液で循環血液量を維持。DIC・多臓器不全の監視。重症例では集中管理が必要
軽症(直腸温<41℃)は良好。重症(直腸温>41.5℃)では死亡率30-50%。DIC併発例は予後不良
疫学データ
猫の口呼吸は正常猫では稀であり、出現した場合はほぼ確実に病的状態を示す。心臓病(特にHCM)が全猫の15-20%に発生し、進行すると口呼吸に至る。猫喘息は1-5%。熱中症は夏季に増加。動物病院受診時のストレスによる一過性口呼吸は除外が必要
喘息は2-8歳。HCMは5-7歳(若齢でも発症)。熱中症は全年齢(高齢・肥満でリスク増)。縦隔型リンパ腫は若齢FeLV陽性猫。動脈血栓塞栓症は中年齢以降のHCM猫
メインクーン・ラグドール(HCM)、シャム・オリエンタル(喘息)、ペルシャ・ヒマラヤン・エキゾチック(短頭種気道症候群・熱中症)
緊急診察・酸素療法・安定化: 15,000〜50,000円、ICU入院管理: 20,000〜50,000円/日、心疾患精査(心エコー・レントゲン・血液検査): 25,000〜50,000円、心臓病長期管理: 10,000〜20,000円/月、熱中症治療(入院含む): 50,000〜200,000円
参考文献
口呼吸に関するよくある質問
Q. 猫が口呼吸を見せる原因は何ですか?
猫の口呼吸の主な原因には、重度の呼吸困難、心臓病、熱中症、重度のストレスや恐怖、上気道の閉塞、激しい運動後(一時的)があります。
Q. 猫の口呼吸はいつ病院に行くべきですか?
緊急安静時に口を開けて呼吸
緊急舌や歯茎が紫色(チアノーゼ)
Q. 猫の口呼吸の自宅での対処法は?
- すぐに安静にさせる
- 涼しい場所に移動させる
- 安静時の口呼吸は緊急事態として対応する
Q. 猫の口呼吸の治療費はどのくらいですか?
猫の口呼吸に関連する治療費の目安は緊急診察・酸素療法・安定化: 15,000〜50,000円、ICU入院管理: 20,000〜50,000円/日、心疾患精査(心エコー・レントゲン・血液検査): 25,000〜50,000円、心臓病長期管理: 10,000〜20,000円/月、熱中症治療(入院含む): 50,000〜200,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。