猫の呼吸困難
呼吸が速い、荒い、お腹を大きく動かして呼吸するなどの症状です。猫の正常な呼吸数は安静時で1分間に20〜30回です。
呼吸困難の要点まとめ
- 主な原因
- 猫喘息、肺水腫、胸水、肺炎 など
- 緊急受診
- 口を開けて呼吸・チアノーゼ
- 自宅対応
- 安静にさせ、興奮させない。涼しく換気の良い場所に移動させる
- 治療費目安
- 緊急安定化(酸素療法・胸腔穿刺): 15,000〜50,000円、入院管理(ICU): 20,000〜50,000円/日、心臓病精査(心エコー・NT-proBNP・X線): 20,000〜40,000円、心臓病長期管理: 約160,000円/年、膿胸治療(入院・ドレーン管理): 100,000〜300,000円
病態生理
呼吸困難(ディスプニア)は換気の需要と供給の不均衡により生じる病的状態であり、呼吸仕事量の増大を意味する。病態は局在により大きく4つに分類される。(1)上気道閉塞(鼻腔〜喉頭):吸気性努力呼吸とストライダー/ストータを特徴とする。(2)下気道疾患(気管支〜細気管支):呼気性努力呼吸と喘鳴を伴い、気管支攣縮・粘液貯留・壁肥厚による気流制限が原因。(3)肺実質疾患(肺炎・肺水腫・肺腫瘍):ガス交換障害による低酸素血症で頻呼吸・浅速呼吸を呈する。(4)胸腔内疾患(胸水・気胸・横隔膜ヘルニア):肺の物理的圧迫により換気量が制限され、拘束性換気障害を示す。258頭の呼吸困難猫を分析した研究では、呼吸器疾患33%、心疾患25%、外傷21%、腫瘍21%が主な原因であった。胸水貯留は39%に認められ、原因は多岐にわたる。猫はストレスに非常に敏感であり、保定や検査が呼吸状態を急激に悪化させるため、最小限のストレスでの診断アプローチが不可欠である。
考えられる原因
- 猫喘息
- 肺水腫
- 胸水
- 肺炎
- 心臓病
- 気胸
- アレルギー反応
鑑別診断
急性の呼気性呼吸困難・喘鳴・開口呼吸。腹式呼吸が顕著。胸部X線で肺の過膨張と気管支壁の肥厚。気管支拡張薬・ステロイドに速やかに反応
頻呼吸・起坐呼吸・運動不耐性。聴診でギャロップリズム・心雑音。胸部X線で肺水腫・心拡大・胸水。心臓超音波で左心室壁肥厚(>6mm)・左房拡大。NT-proBNP上昇
進行性の呼吸困難・運動不耐性・チアノーゼ。聴診で腹側の心音・肺音減弱。X線で胸腔内液体貯留。胸腔穿刺が診断と治療を兼ねる。原因は心不全(40.8%)、腫瘍(25.8%)、膿胸(14.5%)、乳び胸(6.3%)等多岐
発熱・元気消失・食欲不振を伴う呼吸困難。胸水穿刺で悪臭のある膿性胸水を採取。細菌培養で原因菌を同定。咬傷歴や上気道感染の既往あり
ウェットタイプでは大量の胸水・腹水による呼吸困難。粘稠な黄色い滲出液が特徴。発熱・体重減少・高グロブリン血症。リバルタ試験陽性。若齢純血種に多い
外傷後の急性呼吸困難が典型的。聴診で肺音減弱。X線で胸腔内の遊離空気と肺虚脱。自然気胸は猫では稀。胸腔ドレナージが緊急治療
外傷性が多く、腹腔臓器が胸腔内に脱出し肺を圧迫。消化器症状を伴うことがある。X線で胸腔内に腹腔臓器の陰影。先天性(腹膜心膜横隔膜ヘルニア: PPDH)もある
発熱・湿性咳・粘液膿性鼻汁を伴う呼吸困難。胸部X線で肺野の肺胞パターン(浸潤影)。誤嚥性肺炎は右中葉に好発。血液検査で好中球増多と左方移動
若齢猫の胸腔内巨大腫瘤による呼吸困難。大量の胸水を伴う。FeLV陽性猫に多い。胸水の細胞診でリンパ芽球を確認。化学療法に反応するが再発率高い
乳白色の胸水が特徴。穿刺液のトリグリセリド値が血清値より高値。原因不明(特発性)が多い。心臓病や腫瘍に続発することもある。低脂肪食とルチンによる保存的管理を試行
電撃傷・煙吸入・上気道閉塞後の陰圧性肺水腫などが原因。心機能は正常。X線で両側性の肺胞パターン。集中的な酸素療法と利尿薬で管理
吸気性ストライダーが特徴的。声の変化を伴う。興奮時に悪化。喉頭鏡検査で声帯の固定・腫瘤を確認。両側性は重度の閉塞性呼吸障害を起こす
HCM・腫瘍・蛋白漏出性腎症に続発。急性の呼吸困難・頻呼吸・チアノーゼ。X線所見が乏しい場合がある。造影CTで血栓を確認。予後不良
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 運動後に一時的に呼吸が荒い | 経過観察 |
| 安静時の呼吸が速い(40回/分以上) | 早めに受診 |
| 口を開けて呼吸・チアノーゼ | 緊急受診 |
診断の進め方
呼吸困難猫は緊急症例として扱う。まずストレスを最小限にし酸素化を確保(酸素ケージ・フローバイ酸素)。呼吸パターン(吸気性vs呼気性vs拘束性)、呼吸数、粘膜色(チアノーゼの有無)を遠目から評価。安定化が最優先で、検査は状態が安定してから実施
ストレスを最小限にした迅速評価法。TFAST(Thoracic Focused Assessment with Sonography for Trauma)で胸水・心嚢液の有無を即座に確認。心臓超音波の略式評価でLA拡大・壁肥厚を確認。胸水陽性なら診断的・治療的胸腔穿刺に移行
呼吸状態が安定した後に実施。保定による悪化を避けるため、可能であれば立位・伏臥位で最小限の保定で撮影。肺野パターン(肺胞・間質・気管支)、心臓のシルエット、胸水・気胸の有無、縦隔腫瘤を評価
CBC、血液生化学、血液ガス分析(PaO2/PaCO2で低酸素血症・高炭酸ガス血症を評価)。NT-proBNP(心原性vs非心原性の鑑別に有用)。FeLV/FIV検査。凝固検査(DIC・血栓症の評価)
胸水貯留が確認された場合に実施。穿刺液の性状(漿液性・膿性・血性・乳び状)、比重、蛋白濃度、細胞診、細菌培養を評価。治療的に胸水を除去することで呼吸状態の即時改善が期待できる。重要な診断手技であり同時に救命処置
自宅での対応
- 安静にさせ、興奮させない
- 涼しく換気の良い場所に移動させる
- 安静時の呼吸数を数えて記録する
治療法
酸素療法・安定化(緊急対応)
呼吸困難猫の初期対応として最も重要。酸素ケージ(FiO2 40-60%)またはフローバイ酸素で酸素化を確保。ストレスの最小化が不可欠で、不必要な保定・検査を避ける。胸水貯留が疑われる場合は早期に胸腔穿刺で減圧
早期の酸素化確保と原因に対する適切な治療開始が予後を大きく左右する。呼吸停止からの救命は困難
心原性呼吸困難の治療
うっ血性心不全に伴う肺水腫に対してフロセミドで利尿を促進。胸水に対しては穿刺排液。安定後にACE阻害薬・抗血栓薬を開始。HCMではカルシウムチャネル遮断薬またはβ遮断薬で心室機能を管理
無症候性HCMでは長期生存可能。CHF発症後の生存期間中央値は約92-563日(報告により幅あり)。動脈血栓塞栓症は予後不良(生存期間中央値77-184日)
胸水に対する治療
原因を問わず大量胸水に対しては治療的胸腔穿刺を実施。膿胸には胸腔ドレーン留置と繰り返しの洗浄排液+全身性抗菌薬を併用。乳び胸にはルチン・低脂肪食による保存的管理を試行し、不応例には胸管結紮術を検討。FIP関連胸水にはGS-441524等の抗ウイルス薬が有効
膿胸は積極的な排液+抗菌薬で約70-80%が回復。乳び胸は特発性では治療困難で再発率高い。FIPは抗ウイルス薬により予後改善
外傷・気胸の治療
気胸に対しては胸腔穿刺で遊離空気を除去。持続する空気漏れには胸腔ドレーン留置。横隔膜ヘルニアは安定化後に外科的修復。肋骨骨折は安静と鎮痛で管理(不安定な場合は外科固定)
単純気胸は穿刺で良好。横隔膜ヘルニアは手術で回復可能だが、術後24時間が最もリスクが高い。肺挫傷は数日で改善
疫学データ
呼吸困難は猫の緊急疾患の中で最も頻度の高い症状の一つ。フランスの258頭の研究では呼吸器疾患33%、心疾患25%、外傷21%、腫瘍21%が原因。胸水貯留は呼吸困難猫の約39%に認められ、心不全(40.8%)と腫瘍(25.8%)が二大原因。HCMは全猫の約15-20%に発生
喘息は2-8歳。HCMは5-7歳に好発だが若齢でも発症。縦隔型リンパ腫は若齢のFeLV陽性猫。外傷は若齢の屋外猫。肺腫瘍は高齢猫
メインクーン・ラグドール(HCM)、シャム・オリエンタル(喘息・リンパ腫)、品種を問わない(外傷・感染症)
緊急安定化(酸素療法・胸腔穿刺): 15,000〜50,000円、入院管理(ICU): 20,000〜50,000円/日、心臓病精査(心エコー・NT-proBNP・X線): 20,000〜40,000円、心臓病長期管理: 約160,000円/年、膿胸治療(入院・ドレーン管理): 100,000〜300,000円
参考文献
- Dyspnea (Difficulty Breathing) — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Emergency Dyspnea in 258 Cats: Insights from the French RAPID CAT Study — PMC / Journal of Veterinary Internal Medicine
- Pleural Effusion in the Cat: A Practical Approach to Determining Aetiology — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- Approach to Respiratory Distress in Dogs and Cats — Today's Veterinary Practice
- 猫の呼吸が速い!考えられる病気と対処法 — 日本動物医療センター
呼吸困難に関するよくある質問
Q. 猫が呼吸困難を見せる原因は何ですか?
猫の呼吸困難の主な原因には、猫喘息、肺水腫、胸水、肺炎、心臓病、気胸、アレルギー反応があります。
Q. 猫の呼吸困難はいつ病院に行くべきですか?
緊急口を開けて呼吸・チアノーゼ
早めに安静時の呼吸が速い(40回/分以上)
Q. 猫の呼吸困難の自宅での対処法は?
- 安静にさせ、興奮させない
- 涼しく換気の良い場所に移動させる
- 安静時の呼吸数を数えて記録する
Q. 猫の呼吸困難の治療費はどのくらいですか?
猫の呼吸困難に関連する治療費の目安は緊急安定化(酸素療法・胸腔穿刺): 15,000〜50,000円、入院管理(ICU): 20,000〜50,000円/日、心臓病精査(心エコー・NT-proBNP・X線): 20,000〜40,000円、心臓病長期管理: 約160,000円/年、膿胸治療(入院・ドレーン管理): 100,000〜300,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。