Sneezing

猫のくしゃみ

猫が頻繁にくしゃみをする症状です。一時的なくしゃみはほこりなどの刺激によるものですが、続く場合は猫風邪(上部呼吸器感染症)の可能性があります。

獣医師監修

くしゃみの要点まとめ

主な原因
猫風邪(猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルス)、アレルギー、ほこり・香水などの刺激、歯周病(上顎の歯が鼻腔に影響) など
自宅対応
室内の湿度を適切に保つ(50〜60%)。ほこりの少ない猫砂に変える
治療費目安
軽症(急性上気道感染): 8,000〜15,000円/回、中等症(慢性鼻炎の管理): 月5,000〜20,000円、重症(CT・内視鏡・生検含む精査): 50,000〜150,000円、腫瘍治療(化学療法・放射線療法): 200,000〜500,000円以上

病態生理

くしゃみは鼻腔粘膜の三叉神経(第V脳神経)終末が機械的・化学的・免疫学的刺激を受けることで誘発される防御反射である。刺激が求心性神経を介して延髄のくしゃみ中枢に伝達されると、深吸気に続いて声門閉鎖・腹壁筋と横隔膜の急激な収縮が起こり、口蓋帆が下降して鼻腔から高速の呼気が爆発的に排出される。これにより異物・病原体・分泌物が物理的に除去される。猫では上気道ウイルス(猫ヘルペスウイルス1型・猫カリシウイルス)が鼻腔粘膜上皮に感染し細胞変性と炎症性サイトカイン放出を引き起こすことが最も一般的な病態であり、粘膜浮腫・杯細胞過形成による過剰な粘液産生が慢性的なくしゃみの原因となる。慢性例では鼻甲介骨の溶解・破壊が進行し、二次的な細菌感染が反復する悪循環に陥ることがある。

考えられる原因

  • 猫風邪(猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルス)
  • アレルギー
  • ほこり・香水などの刺激
  • 歯周病(上顎の歯が鼻腔に影響)
  • 鼻腔内の異物
  • 鼻腔内の腫瘍

鑑別診断

猫ヘルペスウイルス感染症(猫ウイルス性鼻気管炎)Feline Herpesvirus-1 Infection (Feline Viral Rhinotracheitis)
多い

急性期には発熱・漿液性〜粘液膿性の鼻汁・結膜炎・角膜潰瘍を伴う。くしゃみが顕著で、ストレスにより潜伏感染が再活性化する。上気道感染の約40-50%を占める

年齢: 子猫〜若齢に多い(成猫は潜伏感染の再活性化)好発品種: 品種を問わない(多頭飼育環境でリスク増加)
猫カリシウイルス感染症Feline Calicivirus Infection (FCV)
多い

口腔内潰瘍(舌・硬口蓋)が特徴的。くしゃみ・鼻汁は比較的軽度で、跛行(ウイルス性多発性関節炎)を伴うことがある。強毒株では全身性血管炎を起こす

年齢: 全年齢(子猫で重症化しやすい)好発品種: 品種を問わない
猫クラミジア感染症Chlamydia felis Infection
多い

片眼性の結膜炎から始まり両眼性に進行。結膜充血・浮腫・眼脂が顕著で、くしゃみ・鼻汁はウイルス感染より軽度。多頭飼育環境で蔓延しやすい

年齢: 5週齢〜9ヶ月齢に好発好発品種: 品種を問わない
慢性鼻副鼻腔炎Chronic Rhinosinusitis (CRS)
多い

ウイルス感染後の鼻甲介骨破壊に二次的細菌感染が反復。慢性の粘液膿性鼻汁・くしゃみ・鼻づまり。CT検査で鼻甲介骨の溶解と粘膜肥厚を確認

年齢: 全年齢(成猫に多い)好発品種: 品種を問わない(FHV-1既感染猫)
鼻腔内異物Nasal Foreign Body
時々

突然の激しいくしゃみの後に片側性の鼻汁。草の葉・植物片が最も多い。屋外アクセスのある猫に多い。内視鏡で異物を確認・除去

年齢: 全年齢(外出する猫)好発品種: 品種を問わない
鼻咽頭ポリープNasopharyngeal Polyp
時々

慢性的ないびき様呼吸音(ストライダー/ストータ)・嚥下困難・頭を振る動作を伴う。中耳炎を併発することが多い。鎮静下の口腔検査で軟口蓋後方に腫瘤を確認

年齢: 若齢猫に多い(3ヶ月〜5歳)好発品種: 品種を問わない
歯周病・口腔鼻腔瘻Periodontal Disease / Oronasal Fistula
時々

片側性の慢性鼻汁・くしゃみ。上顎犬歯の歯根膿瘍が鼻腔に穿通する。口臭・歯肉腫脹を伴う。歯科レントゲンで歯根周囲の骨吸収を確認

年齢: 中高齢(5歳以上)好発品種: 品種を問わない
クリプトコッカス症Cryptococcosis
時々

慢性の鼻汁(漿液性〜粘液膿性)・くしゃみ・鼻梁の腫脹が特徴的。鼻腔内にポリープ状腫瘤を形成。ラテックス凝集試験(LAT)で血清抗原を検出

年齢: 全年齢(中央値5歳、屋外猫に多い)好発品種: 品種を問わない
鼻腔内リンパ腫Nasal Lymphoma
時々

進行性の片側性〜両側性鼻汁・くしゃみ・鼻出血。顔面の変形を伴うことがある。CTと鼻腔生検で確定診断。FeLV/FIV陰性の高齢猫に多い

年齢: 中高齢(中央値9〜10歳)好発品種: シャム(やや多い報告あり)
鼻腔内腺癌・扁平上皮癌Nasal Adenocarcinoma / Squamous Cell Carcinoma
まれ

進行性の鼻汁(血性が多い)・くしゃみ・鼻閉塞。顔面の腫脹・変形。リンパ腫との鑑別には生検が必須。転移率は比較的低い

年齢: 高齢猫(10歳以上)好発品種: 品種を問わない
アレルギー性鼻炎Allergic Rhinitis
まれ

季節性または通年性の透明な漿液性鼻汁・くしゃみ。鼻粘膜の好酸球浸潤を確認。他の原因を除外した上での診断。ステロイドに良好に反応

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
マイコプラズマ感染症Mycoplasma felis Infection
時々

結膜炎を主徴とし、くしゃみ・鼻汁を伴う。単独感染よりもFHV-1やFCVとの混合感染が多い。テトラサイクリン系抗菌薬に感受性

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない

緊急度の目安

状況緊急度
たまにくしゃみをする程度経過観察
くしゃみが数日続く・鼻水を伴う早めに受診
食欲低下・目やに・発熱早めに受診

診断の進め方

1
問診・身体検査1,000〜3,000円

くしゃみの頻度・持続期間・鼻汁の性状(漿液性・粘液膿性・血性)・片側性か両側性か・随伴症状(眼脂・口腔潰瘍・顔面変形)を聴取。ワクチン接種歴・生活環境・屋外アクセスの有無を確認。口腔内検査で歯周病・口蓋異常を評価

2
血液検査・ウイルス検査8,000〜20,000円

CBC(好酸球増多の有無)、血液生化学、FeLV/FIV検査。必要に応じてPCR検査(FHV-1、FCV、クラミジア、マイコプラズマ)を実施。クリプトコッカス抗原検査(LAT)も考慮

3
画像診断(レントゲン・CT)レントゲン: 4,000〜6,000円、CT: 30,000〜60,000円

頭部X線は鼻腔の左右差や骨融解の粗いスクリーニングに有用。CT検査は鼻甲介骨・副鼻腔の評価に最も優れ、腫瘍・真菌感染・慢性鼻炎の鑑別に不可欠。全身麻酔が必要

4
鼻腔内視鏡検査(鼻鏡検査)・鼻腔洗浄30,000〜80,000円

全身麻酔下で鼻腔内を直接観察し、異物・ポリープ・腫瘤の有無を確認。同時に鼻腔洗浄による細胞診サンプルや生検組織を採取。慢性鼻炎とリンパ腫・真菌感染の鑑別に重要

5
鼻腔生検・病理組織検査10,000〜25,000円

内視鏡下またはブラインドで鼻粘膜生検を実施。病理組織学的検査でリンパ腫・腺癌・真菌感染(クリプトコッカス・アスペルギルス)・好酸球性炎症を鑑別。確定診断に必須

自宅での対応

  • 室内の湿度を適切に保つ(50〜60%)
  • ほこりの少ない猫砂に変える
  • 鼻周りを濡れたガーゼで優しく拭く

くしゃみの記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫のくしゃみパターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

抗ウイルス療法・支持療法(ウイルス性上気道感染)

急性期のウイルス性上気道感染に対し、輸液による脱水補正、ネブライゼーション(加湿)、食欲刺激を行う。二次的細菌感染に対し広域スペクトラム抗菌薬を投与。FHV-1に対してはファムシクロビルの経口投与やリジンの補給(エビデンスは限定的)が考慮される

主な薬剤
ファムシクロビル 90mg/kg PO q8hアモキシシリン・クラブラン酸 12.5-25mg/kg PO q12hドキシサイクリン 5-10mg/kg PO q12-24h(クラミジア・マイコプラズマ)インターフェロンω(遺伝子組換え型)
予後

急性感染は多くの場合7-14日で回復するが、FHV-1は潜伏感染として体内に残存しストレス時に再活性化する。子猫では重症化のリスクあり

慢性鼻副鼻腔炎の管理

完治が困難であり長期管理が必要。鼻腔洗浄(生理食塩水フラッシュ)で粘液・壊死組織を除去。二次感染に対して細菌培養・感受性試験に基づく抗菌薬を投与。ステロイド(経口または吸入)で慢性炎症を抑制

主な薬剤
フルチカゾン吸入(AeroKat使用)プレドニゾロン 1-2mg/kg PO q24h漸減抗菌薬(培養結果に基づく)生理食塩水鼻腔洗浄
予後

完治は困難で、再発を繰り返す。鼻甲介骨が破壊された猫では慢性的な鼻汁が持続するが、QOLの維持は可能

抗真菌療法(クリプトコッカス症)

長期のアゾール系抗真菌薬の経口投与が基本。フルコナゾールが第一選択で、イトラコナゾールも使用される。CNS浸潤例ではアムホテリシンBの併用が必要。血清抗原価をモニタリングし陰転化まで治療を継続

主な薬剤
フルコナゾール 50-100mg/cat PO q12-24hイトラコナゾール 5-10mg/kg PO q12-24hアムホテリシンB(CNS浸潤例)
予後

局所型は予後良好(治療期間4-9ヶ月)。播種型やCNS浸潤例は予後不良

腫瘍治療(鼻腔内リンパ腫・癌腫)

鼻腔内リンパ腫には放射線療法(19-22回照射、3-4週間)または化学療法(COP/CHOPプロトコル)が推奨される。腺癌・扁平上皮癌には放射線療法が主体。対症療法として鎮痛・栄養管理を並行

主な薬剤
化学療法プロトコル(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン等)放射線療法NSAIDs(メロキシカム等、鎮痛目的)
予後

鼻腔内リンパ腫は治療反応が良好で、完全寛解例の生存期間中央値1.5-3年。腺癌は放射線療法で生存期間中央値約1年。無治療では数ヶ月

疫学データ

有病率

上気道感染症は猫の感染症で最も頻繁に遭遇する疾患群であり、シェルター猫の30-50%が罹患するとされる。FHV-1とFCVが全上気道感染の約80-90%を占める。慢性鼻副鼻腔炎は一次診療における慢性鼻汁の最多原因。鼻腔内腫瘍は猫の鼻腔疾患の約10-15%を占める

年齢分布

急性ウイルス性上気道感染は子猫〜若齢猫に最も多い。慢性鼻副鼻腔炎は成猫に多い。鼻腔内腫瘍は高齢猫(中央値9-10歳)に多い。鼻咽頭ポリープは若齢猫(3ヶ月〜5歳)に好発

好発品種

品種を問わない(短頭種は構造的に上気道障害のリスクが高い)、シャム(鼻腔内リンパ腫でやや過剰代表)、ペルシャ(鼻涙管閉塞による二次感染リスク)

治療費の目安

軽症(急性上気道感染): 8,000〜15,000円/回、中等症(慢性鼻炎の管理): 月5,000〜20,000円、重症(CT・内視鏡・生検含む精査): 50,000〜150,000円、腫瘍治療(化学療法・放射線療法): 200,000〜500,000円以上

関連する症状

くしゃみに関するよくある質問

Q. 猫がくしゃみを見せる原因は何ですか?

猫のくしゃみの主な原因には、猫風邪(猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルス)、アレルギー、ほこり・香水などの刺激、歯周病(上顎の歯が鼻腔に影響)、鼻腔内の異物、鼻腔内の腫瘍があります。

Q. 猫のくしゃみはいつ病院に行くべきですか?

早めにくしゃみが数日続く・鼻水を伴う

早めに食欲低下・目やに・発熱

Q. 猫のくしゃみの自宅での対処法は?

  • 室内の湿度を適切に保つ(50〜60%)
  • ほこりの少ない猫砂に変える
  • 鼻周りを濡れたガーゼで優しく拭く

Q. 猫のくしゃみの治療費はどのくらいですか?

猫のくしゃみに関連する治療費の目安は軽症(急性上気道感染): 8,000〜15,000円/回、中等症(慢性鼻炎の管理): 月5,000〜20,000円、重症(CT・内視鏡・生検含む精査): 50,000〜150,000円、腫瘍治療(化学療法・放射線療法): 200,000〜500,000円以上です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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