猫の鼻水
猫の鼻から分泌物が出る症状です。透明な鼻水はウイルス感染やアレルギー、黄色や緑色の鼻水は細菌感染を示唆します。
鼻水の要点まとめ
- 主な原因
- 猫風邪(ウイルス感染)、細菌性鼻炎、真菌感染、アレルギー など
- 緊急受診
- 鼻血・呼吸困難を伴う
- 自宅対応
- 鼻周りを清潔に保つ。温かい蒸気で鼻通りを良くする(お湯を張った浴室に短時間入れる)
- 治療費目安
- 軽症(抗菌薬・対症療法): 5,000〜15,000円/回、中等症(CT検査含む精査): 40,000〜80,000円、外科(ポリープ除去・VBO): 80,000〜200,000円、腫瘍治療: 200,000〜500,000円以上
病態生理
鼻汁は鼻腔粘膜の炎症性変化に伴い、杯細胞や漿液腺からの分泌物が過剰に産生されることで生じる。正常時も少量の粘液が鼻腔粘膜を覆い異物のトラッピングと粘液線毛クリアランスに関与しているが、感染・炎症・腫瘍などにより粘膜透過性が亢進し血漿成分が漏出すると漿液性鼻汁となる。細菌の二次感染が加わると好中球の浸潤と壊死組織により粘液膿性〜膿性鼻汁へ変化する。血性鼻汁(鼻出血)は粘膜のびらん・潰瘍形成、腫瘍による血管新生と血管破綻、真菌による組織破壊、凝固異常などで生じる。鼻汁の性状(漿液性・粘液性・膿性・血性)、片側性か両側性か、急性か慢性かは鑑別診断の重要な手がかりとなる。慢性鼻汁では鼻甲介骨の不可逆的破壊と粘液線毛クリアランスの機能不全が病態の持続に寄与する。
考えられる原因
- 猫風邪(ウイルス感染)
- 細菌性鼻炎
- 真菌感染
- アレルギー
- 鼻腔内ポリープ
- 鼻腔内腫瘍
鑑別診断
急性の両側性漿液性〜粘液膿性鼻汁。くしゃみ・結膜炎・発熱・食欲不振を伴う。FHV-1では角膜潰瘍、FCVでは口腔潰瘍が鑑別点
数週間以上持続する両側性の粘液膿性鼻汁。くしゃみ・鼻づまり・いびき様呼吸音。ウイルス感染の既往歴あり。CT検査で鼻甲介骨の溶解を認める。他の原因を除外した上での診断
上顎歯の歯根膿瘍による片側性膿性鼻汁。口臭が顕著。食事時にくしゃみが増加。歯科レントゲンで歯周骨の吸収・鼻腔との交通を確認
進行性の片側性〜両側性鼻汁。初期は漿液性で次第に血性・膿性に変化。顔面の腫脹・変形・眼球突出を伴うことがある。CT・生検で確定診断
慢性の片側性〜両側性鼻汁と鼻梁の腫脹(ローマン・ノーズ)が特徴的。鼻腔内に肉芽腫性腫瘤を形成。LAT検査で血清クリプトコッカス抗原を検出。屋外猫に多い
突然発症の片側性くしゃみと鼻汁。草片が最も多い。初期は漿液性だが二次感染で膿性に。外出歴のある猫で疑う。内視鏡検査で診断・除去
慢性の鼻汁・くしゃみ・いびき様呼吸音・嚥下障害。中耳由来の炎症性ポリープが鼻咽頭に突出。鎮静下の口腔検査で軟口蓋後方に腫瘤を視認。CT/MRIで中耳・鼓室の評価
緩徐に進行する片側性の血性鼻汁。顔面の腫脹・変形。リンパ腫と比較して化学療法への反応が乏しい。放射線療法が主な治療
片側性の慢性膿性〜血性鼻汁。鼻腔内にプラーク状の真菌コロニーを形成。免疫抑制状態の猫で発生しやすい。CTで鼻甲介骨の広範な破壊
鼻腔に肉芽腫を形成し鼻汁を引き起こすことがある。発熱・体重減少・腹水/胸水(ウェットタイプ)を伴う。高グロブリン血症、A/G比低下
くしゃみ・鼻汁・咳を呈する。シェルター環境で多発。重症例では肺炎に進行。他の呼吸器病原体との混合感染が多い
慢性の流涙・眼脂と鼻汁を伴う。短頭種で先天的な狭窄が多い。鼻涙管造影で閉塞部位を同定。二次的な結膜炎・鼻炎を合併
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 透明な鼻水が少量 | 経過観察 |
| 黄色や緑色の鼻水 | 早めに受診 |
| 鼻血・呼吸困難を伴う | 緊急受診 |
診断の進め方
鼻汁の性状(漿液性・粘液性・膿性・血性)、片側性か両側性か、持続期間、随伴症状(くしゃみ・結膜炎・顔面腫脹・口臭・食欲低下)を聴取。口腔内検査で歯周病・口蓋異常・腫瘤を評価。エアフロー(鼻孔前にスライドグラスをかざして呼気の曇りを確認)で鼻腔の通気性を左右比較
CBC(好中球増多・好酸球増多の有無)、血液生化学、FeLV/FIV検査。クリプトコッカス抗原検査(LAT)、必要に応じてPCR検査(FHV-1、FCV、クラミジア)。凝固検査(血性鼻汁の場合)
鼻腔・副鼻腔のCT検査が最も有用。鼻甲介骨の溶解パターン(感染性vs腫瘍性)、腫瘤の範囲・浸潤性、副鼻腔の液体貯留を評価。レントゲンはCTに劣るがスクリーニングとして使用可。全身麻酔が必要
全身麻酔下で前方鏡視法・後方鏡視法による鼻腔内の直接観察。異物・ポリープ・腫瘤・真菌プラークの有無を確認。鼻腔洗浄で細胞診サンプル、鉗子生検で組織サンプルを採取。病理・培養検査に提出
膿性鼻汁に対し深部鼻腔スワブまたは鼻腔洗浄液を用いた好気・嫌気培養。慢性鼻副鼻腔炎では多剤耐性菌が関与することがあり、適切な抗菌薬選択のために感受性試験が重要
自宅での対応
- 鼻周りを清潔に保つ
- 温かい蒸気で鼻通りを良くする(お湯を張った浴室に短時間入れる)
- 香りの強い食事で食欲を刺激する
治療法
抗菌薬療法・対症療法
二次的細菌感染に対する広域スペクトラム抗菌薬投与が基本。鼻づまりに対してはネブライゼーション(生理食塩水の加湿吸入)や鼻腔洗浄で粘液を軟化・除去。食欲低下には温めた食事の提供や食欲刺激薬を検討
急性感染は1-3週間で改善。慢性鼻副鼻腔炎は完治困難だが症状管理は可能
抗炎症療法(慢性鼻副鼻腔炎)
他の原因(腫瘍・真菌・異物)を除外した後、ステロイドで慢性炎症を抑制。経口ステロイドで反応を確認後、副作用軽減のために吸入ステロイド(フルチカゾン + AeroKat)に移行。NSAIDsは猫での使用に制限あり
ステロイド応答例は良好なQOLを維持可能。鼻甲介骨の器質的破壊がある場合は完全な症状消失は困難
外科的治療
鼻咽頭ポリープに対する牽引除去術または腹側鼓室胞骨切り術(VBO)。鼻腔内異物の内視鏡下除去。口腔鼻腔瘻に対する歯科手術(抜歯・フラップ閉鎖)。腫瘍の外科的減量(適応は限定的)
ポリープ除去+ステロイド併用で再発率0%の報告あり(牽引除去単独では36-64%再発)。VBOでは再発率低い。異物除去後は良好。口腔鼻腔瘻は歯科手術で改善
抗真菌療法
クリプトコッカス症にはアゾール系抗真菌薬の長期投与(4-9ヶ月)。アスペルギルス症には局所抗真菌薬の鼻腔内投与または全身投与。定期的な抗原価モニタリングで治療効果を評価
クリプトコッカス症の局所型は80%以上の治癒率。播種型は予後不良。アスペルギルス症は治療困難な場合が多い
疫学データ
鼻汁は猫の一次診療で最も頻繁に遭遇する呼吸器症状の一つ。慢性鼻汁の75症例を分析した研究では、慢性鼻副鼻腔炎が最多(約40%)、次いで鼻腔内腫瘍(約15%)、真菌感染(約10%)、歯原性(約5%)であった。アニコム損保のデータでは鼻水を主訴とする猫の平均診療単価は5,585円、年間平均通院回数は1.9回
感染性鼻汁は子猫〜若齢猫に最多。歯周病関連は中高齢。鼻腔内腫瘍は高齢猫(9-10歳以上)。鼻咽頭ポリープは若齢(3ヶ月〜5歳)
品種を問わない、ペルシャ・ヒマラヤン(短頭種構造による鼻涙管閉塞)、シャム(鼻腔内リンパ腫のリスク)
軽症(抗菌薬・対症療法): 5,000〜15,000円/回、中等症(CT検査含む精査): 40,000〜80,000円、外科(ポリープ除去・VBO): 80,000〜200,000円、腫瘍治療: 200,000〜500,000円以上
参考文献
- Chronic nasal discharge in cats: 75 cases (1993-2004) — Journal of the American Veterinary Medical Association
- Nasopharyngeal Disease in Cats: 1. Diagnostic investigation — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- Rhinitis and Sinusitis in Cats — MSD Veterinary Manual
- 猫の鼻炎の症状・原因と治療法について獣医師が解説 — 価格.com ペット保険
- 鼻から分泌物が出る / 猫の病気 — JBVP(日本臨床獣医学フォーラム)
鼻水に関するよくある質問
Q. 猫が鼻水を見せる原因は何ですか?
猫の鼻水の主な原因には、猫風邪(ウイルス感染)、細菌性鼻炎、真菌感染、アレルギー、鼻腔内ポリープ、鼻腔内腫瘍があります。
Q. 猫の鼻水はいつ病院に行くべきですか?
緊急鼻血・呼吸困難を伴う
早めに黄色や緑色の鼻水
Q. 猫の鼻水の自宅での対処法は?
- 鼻周りを清潔に保つ
- 温かい蒸気で鼻通りを良くする(お湯を張った浴室に短時間入れる)
- 香りの強い食事で食欲を刺激する
Q. 猫の鼻水の治療費はどのくらいですか?
猫の鼻水に関連する治療費の目安は軽症(抗菌薬・対症療法): 5,000〜15,000円/回、中等症(CT検査含む精査): 40,000〜80,000円、外科(ポリープ除去・VBO): 80,000〜200,000円、腫瘍治療: 200,000〜500,000円以上です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。