猫の攻撃性
猫が急に噛む、引っ掻く、威嚇するなど、攻撃的な行動を見せる症状です。突然の攻撃性の変化は痛みや病気のサインの可能性があります。
攻撃性の要点まとめ
- 主な原因
- 痛み(触ると痛い箇所がある)、恐怖・ストレス、縄張り意識、甲状腺機能亢進症 など
- 自宅対応
- 刺激を避けて落ち着かせる。痛みの原因がないか体を観察する
- 治療費目安
- 初期評価:15,000〜30,000円。行動診療専門医:初診15,000〜30,000円。甲状腺治療:月5,000〜10,000円。行動薬:月3,000〜8,000円。環境改善用品:5,000〜20,000円
病態生理
猫の攻撃行動は、恐怖・縄張り防衛・疼痛・捕食本能・社会的対立など多因子が関与する複雑な行動障害である。神経生理学的には、扁桃体が恐怖・攻撃反応の中枢であり、視床下部が自律神経反応(瞳孔散大・立毛・唾液分泌・心拍増加)を統合する。セロトニン系の機能低下は衝動性攻撃を増加させ、ノルアドレナリン系の過活動は恐怖性攻撃を促進する。医学的原因としては、甲状腺機能亢進症による代謝亢進状態が興奮性と攻撃性を高め、脳腫瘍や脳炎は前頭葉・側頭葉の機能障害を通じて抑制系の破綻を引き起こす。疼痛(特に慢性疼痛)は防御的攻撃行動の最も一般的な医学的原因であり、触診時の攻撃は疼痛部位を示唆する重要な手がかりとなる。てんかんの発作間期には攻撃性が亢進することがあり、特に「激怒症候群」と呼ばれる突発性攻撃行動はてんかん様の神経学的機序が推定されている。転嫁性攻撃では、本来の刺激に対して反応できないフラストレーションが別の対象に向けられるが、これは交感神経の過覚醒状態が持続することによる。
考えられる原因
- 痛み(触ると痛い箇所がある)
- 恐怖・ストレス
- 縄張り意識
- 甲状腺機能亢進症
- 脳の疾患
- 過剰な刺激(撫ですぎ)
鑑別診断
猫の攻撃行動で最も多い原因。威嚇姿勢(耳を平らにする・体を低くする・シャーッと鳴く)が先行。不適切な罰・強制的な扱い・過去のトラウマと関連。逃走できない状況で発現。社会化不足の猫で顕著
特定の部位を触ると攻撃する。変形性関節症・歯科疾患・外傷・腫瘍・膀胱炎など。以前は穏やかだった猫の突然の攻撃性変化が鍵。鎮痛剤投与で攻撃性が改善すれば疼痛性と確認
落ち着きのなさ、興奮しやすさ、攻撃性の亢進。多食・体重減少・多飲多尿・被毛の質低下を伴う。頻脈・心雑音。甲状腺腫大を触知。血清T4値上昇で確定診断。日本では7歳以上の猫の10%以上が罹患
窓越しの野良猫・大きな音・不快な匂いなど直接対処できない刺激に触発され、近くにいる人間や同居猫に攻撃が向けられる。攻撃の激しさが誘因と不釣り合い。興奮が持続し数時間後にも攻撃が起こりうる
尻尾を振る・瞳孔散大・耳を前に向ける捕食行動パターン。手足を獲物に見立てた噛みつき・飛びかかり。単独飼育・早期離乳の子猫に多い。恐怖表情がなく楽しんでいる様子
撫でている最中に突然噛みつく。過剰刺激による不快感、またはコントロール欲求。尻尾の動き・耳の後方回転・皮膚の痙攣など前兆サインがある。特定の部位(腹部・尾根部)で顕著
以前穏やかだった猫の人格変化・攻撃性の突然の出現。行動変化に加え旋回運動・頭部プレス・痙攣発作・視力障害などの神経症状。進行性の経過。MRI・CT・脳脊髄液検査で診断
前兆なく突然の激しい攻撃。攻撃後に混乱・見当識障害。てんかん様の神経学的機序が推定。他の原因を全て除外した排除診断。抗てんかん薬(フェノバルビタール・レベチラセタム)で改善する場合あり
新しいペットの導入や同居猫との関係悪化で発現。特定の場所(通路・食事場所)で攻撃。スプレーマーキングを伴うことも。未去勢オスで顕著だが避妊済みの猫でも発生
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 特定の状況でのみ攻撃的 | 経過観察 |
| 以前は穏やかだったのに突然攻撃的に | 早めに受診 |
| コントロール不能な攻撃性 | 早めに受診 |
診断の進め方
攻撃の対象・状況・頻度・強度・前兆・攻撃後の行動を詳細に記録。動画による行動記録の分析。環境要因・トリガーの同定。飼育環境(多頭飼育・外猫との接触)の評価。社会化歴の確認
疼痛部位の系統的触診。口腔内検査。神経学的検査(脳神経評価・姿勢反応・歩行観察)。甲状腺触診。体重・バイタルサインの測定
CBC・生化学検査で全身性疾患のスクリーニング。T4測定(甲状腺機能亢進症の除外、特に中高齢猫)。血圧測定(高血圧の除外)。必要に応じてコルチゾール測定
頭部MRI/CT(脳腫瘍・脳炎の評価)。脳脊髄液検査(感染性脳炎の除外)。X線検査(関節疾患・骨折の評価)
自宅での対応
- 刺激を避けて落ち着かせる
- 痛みの原因がないか体を観察する
- 他のペットとの隔離を検討する
治療法
医学的原因の治療
甲状腺機能亢進症にはメチマゾール内服または放射性ヨウ素治療。疼痛にはソレンシア(抗NGF抗体)やガバペンチン。脳腫瘍にはプレドニゾロン・放射線治療。てんかんにはフェノバルビタール・レベチラセタム
医学的原因の除去・管理により攻撃性は改善。甲状腺機能亢進症の治療開始2-4週で行動変化が改善することが多い
環境管理・行動修正
攻撃誘因の回避(窓の遮蔽・来客管理)。転嫁性攻撃では興奮時に隔離。多頭飼育での段階的再導入プロトコル。正の強化による脱感作。罰の禁止(攻撃を悪化させる)。資源(食器・トイレ・休息場所)の分離
行動修正は数週間〜数ヶ月を要する。恐怖性攻撃は適切な脱感作で改善可能。遊び攻撃は適切な遊び提供で解決しやすい
薬物療法(行動薬理学)
環境管理だけでは改善しない場合に併用。フルオキセチンやクロミプラミン(セロトニン系)が衝動性攻撃に有効。ガバペンチンは通院時の恐怖軽減と日常的な不安管理。トラゾドンは急性不安に使用
薬物療法は行動修正の補助として有効。最低8-12週の継続投与で効果判定。漸減は6ヶ月以上の安定後に検討
行動専門獣医師への紹介
重度の攻撃行動(咬傷事故・家族の安全が脅かされる場合)では行動診療専門医への紹介を推奨。包括的行動評価と個別化された行動修正プログラムの策定
専門医による包括的治療で約60-70%の症例が臨床的に有意な改善。激怒症候群は予後が慎重
疫学データ
攻撃行動は猫の行動問題で2番目に多い相談内容(不適切排泄に次ぐ)。飼い猫の約36%が何らかの攻撃行動を示すという報告がある
遊び攻撃は子猫〜若齢猫、社会的成熟に伴う攻撃は2-4歳、医学的原因は中高齢猫に多い
品種を問わない(甲状腺機能亢進症関連は高齢猫全般)
初期評価:15,000〜30,000円。行動診療専門医:初診15,000〜30,000円。甲状腺治療:月5,000〜10,000円。行動薬:月3,000〜8,000円。環境改善用品:5,000〜20,000円
参考文献
- Feline Behavior Problems: Aggression — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Differential diagnosis and management of human-directed aggression in cats — PubMed / Veterinary Clinics of North America
- 攻撃行動|困った行動の解決方法(猫編) — 共立製薬
- 飼い主さんを激しく襲うこともある猫の攻撃行動 — PetLIVES(行動学専門獣医師解説)
- 猫の激怒症候群を解説 — ねこのきもちWEB MAGAZINE
攻撃性に関するよくある質問
Q. 猫が攻撃性を見せる原因は何ですか?
猫の攻撃性の主な原因には、痛み(触ると痛い箇所がある)、恐怖・ストレス、縄張り意識、甲状腺機能亢進症、脳の疾患、過剰な刺激(撫ですぎ)があります。
Q. 猫の攻撃性はいつ病院に行くべきですか?
早めに以前は穏やかだったのに突然攻撃的に
早めにコントロール不能な攻撃性
Q. 猫の攻撃性の自宅での対処法は?
- 刺激を避けて落ち着かせる
- 痛みの原因がないか体を観察する
- 他のペットとの隔離を検討する
Q. 猫の攻撃性の治療費はどのくらいですか?
猫の攻撃性に関連する治療費の目安は初期評価:15,000〜30,000円。行動診療専門医:初診15,000〜30,000円。甲状腺治療:月5,000〜10,000円。行動薬:月3,000〜8,000円。環境改善用品:5,000〜20,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。