Excessive Grooming

猫の過度なグルーミング

猫が同じ場所を繰り返し舐める、毛を引き抜くなどの行動です。お腹や内股、前足などが脱毛することがあります。

獣医師監修

過度なグルーミングの要点まとめ

主な原因
アレルギー(食物・環境)、皮膚の感染症、痛み(膀胱炎・関節痛)、ストレス・不安 など
自宅対応
ストレス要因を減らす。遊びや環境エンリッチメントを増やす
治療費目安
初期検査費用:10,000〜25,000円。駆虫薬:月1,500〜3,000円。シクロスポリン:月5,000〜10,000円。行動療法薬:月3,000〜6,000円。除去食:月5,000〜8,000円

病態生理

猫の過剰グルーミング(心因性脱毛/強迫性舐毛行動)は、正常なグルーミング行動が質的・量的に逸脱した状態である。正常な猫は覚醒時間の30-50%をグルーミングに費やすが、過剰グルーミングでは特定部位の執拗な舐毛・噛毛により脱毛・皮膚炎を生じる。病態には2つの主要経路がある。第一に、皮膚の痒み(そう痒)に起因する反応性グルーミングで、アレルゲン・寄生虫・感染症による炎症性メディエーター(ヒスタミン・サイトカイン)が皮膚の感覚神経を刺激し、掻痒-舐毛の悪循環を形成する。第二に、心因性(ストレス性)グルーミングで、慢性ストレスによるHPA軸の持続的活性化とセロトニン系の機能異常が、常同行動としての舐毛を誘発する。舐毛により内因性オピオイド(β-エンドルフィン)が放出され、自己報酬系として行動が強化・固定化される。猫の舌は角質化した糸状乳頭を持つため、過剰な舐毛は毛を物理的に断裂・抜去し、さらに皮膚のバリア機能を破壊して二次感染を招く。重要な点として、心因性脱毛と診断されたケースの76%に実は医学的原因(アレルギー・寄生虫等)が存在していたという研究報告があり、除外診断の重要性が強調される。

考えられる原因

  • アレルギー(食物・環境)
  • 皮膚の感染症
  • 痛み(膀胱炎・関節痛)
  • ストレス・不安
  • ノミアレルギー
  • 強迫性障害

鑑別診断

ノミアレルギー性皮膚炎Flea Allergy Dermatitis (FAD)
多い

猫の過剰グルーミングの最も一般的な原因。腰背部・尾根部・腹部の脱毛。ノミ1匹の咬傷でも激しいアレルギー反応。室内猫でもノミ寄生は起こりうる。ノミ糞(黒い粒を濡らすと赤褐色)の検出。予防的駆虫薬への反応で診断

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
食物アレルギー性皮膚炎Cutaneous Adverse Food Reaction
多い

頭頸部の掻痒・脱毛が特徴的だが腹部にも生じる。季節性がない持続的な症状。消化器症状(嘔吐・軟便)を伴うこともある。8-12週間の除去食試験(新奇蛋白or加水分解食)で改善すれば確定

年齢: 全年齢好発品種: シャム、品種を問わない
猫アトピー性皮膚炎(猫アトピー症候群)Feline Atopic Skin Syndrome
多い

環境アレルゲン(花粉・ハウスダスト・カビ)に対する過敏反応。頭頸部掻痒、対称性脱毛、粟粒性皮膚炎のいずれかの反応パターン。季節性がある場合アトピー示唆。アレルゲン特異的IgE検査や皮内試験

年齢: 1〜4歳で発症が多い好発品種: シャム、アビシニアン、デボンレックス
心因性脱毛(真の心因性)Psychogenic Alopecia
時々

全ての医学的原因を除外した後の排除診断。腹部・内股・前肢内側の対称性脱毛。毛は断裂しており根元から脱落していない。ストレス要因(環境変化・多頭飼育・飼い主不在)の同定。隠れて舐毛するため飼い主が気づきにくい

年齢: 全年齢(神経質な気質の猫に多い)好発品種: シャム、アビシニアン、バーミーズ、ヒマラヤン、オリエンタル系
皮膚糸状菌症(猫カビ)Dermatophytosis
時々

Microsporum canisが主因。円形〜不整形の限局性脱毛、鱗屑、紅斑。顔面・耳介・四肢に好発。ウッド灯検査で約50%が蛍光陽性。DTM培地での培養が確定診断。人獣共通感染症

年齢: 幼齢猫・免疫抑制猫好発品種: ペルシャ、ヒマラヤン、長毛種
猫特発性膀胱炎(FIC)に伴う舐毛Overgrooming Secondary to Feline Idiopathic Cystitis
時々

下腹部・会陰部の限局的な過剰舐毛。頻尿・血尿・排尿困難を伴う。膀胱痛に対する反応としての舐毛。尿検査で細菌陰性。ストレス関連疾患として心因性脱毛と併発することも

年齢: 1〜10歳好発品種: 品種を問わない(室内飼い・肥満猫に多い)
ニキビダニ症(Demodex gatoi)Demodicosis (Demodex gatoi)
時々

強い痒みを伴う伝染性の外部寄生虫。腹部・四肢の対称性脱毛。皮膚掻爬検査で検出されるが感度が低い。治療的駆虫試験(ライムサルファーディップ)への反応で推定診断

年齢: 全年齢好発品種: シャム、バーミーズ
疼痛部位への限局的舐毛(関節痛・神経痛)Pain-Directed Licking (Arthritis / Neuropathy)
時々

関節部位や特定の四肢に限局した舐毛。変形性関節症や外傷後の慢性痛。脱毛部位と疼痛部位が一致。鎮痛薬投与で舐毛行動が減少すれば疼痛性と推定

年齢: 中高齢猫好発品種: スコティッシュフォールド、メインクーン

緊急度の目安

状況緊急度
やや毛づくろいが多い程度経過観察
脱毛が見られる早めに受診
皮膚を傷つけるほどの毛づくろい早めに受診

診断の進め方

1
詳細な病歴聴取・身体検査2,000〜4,000円

脱毛の部位・分布パターン・進行速度の確認。環境変化・ストレス要因の聴取。ノミ予防の状況確認。食事内容の詳細聴取。トリコグラム(毛検査)で毛の断裂パターン確認(先端が尖っていれば自然脱落、切断面があれば自傷性)

2
皮膚検査(掻爬・培養・テープストリップ)3,000〜8,000円

皮膚掻爬検査(ニキビダニ・疥癬)、DTM培地での真菌培養(糸状菌)、テープストリップ細胞診(細菌・マラセチア・好酸球)。ウッド灯検査(糸状菌スクリーニング)

3
駆虫試験・除去食試験5,000〜15,000円(駆虫薬代+療法食代)

広域スペクトルのノミ・ダニ駆虫薬を8週間投与し反応を評価。並行して新奇蛋白食またはアミノ酸ベース食による除去食試験を8-12週間実施。治療への反応で鑑別を進める

4
血液検査(必要に応じて)8,000〜15,000円

CBC(好酸球増多はアレルギー示唆)、生化学検査(全身性疾患の除外)、T4(甲状腺機能亢進症の除外)。アレルゲン特異的IgE検査は補助的位置づけ

5
皮膚生検(難治例)15,000〜30,000円(鎮静・病理検査代含む)

上記検査で確定に至らない場合の最終手段。パンチ生検で病理組織学的に炎症パターン(好酸球性・リンパ球性・肉芽腫性)を評価。特に好酸球性肉芽腫症候群の確定診断

自宅での対応

  • ストレス要因を減らす
  • 遊びや環境エンリッチメントを増やす
  • フェロモン製品を試す
  • 脱毛部位を写真で記録する

過度なグルーミングの記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の過度なグルーミングパターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

原因アレルゲンの除去・駆虫

ノミアレルギーではスポットオン型駆虫薬(セラメクチン・フィプロニル等)の通年投与。食物アレルギーでは厳格な除去食の継続。環境アレルゲンに対しては可能な範囲での曝露低減(空気清浄機・寝具の洗濯)

主な薬剤
セラメクチン(レボリューション)フルララネル(ブラベクト)低アレルゲン療法食
予後

原因アレルゲンの同定・除去に成功すれば良好。ノミアレルギーは駆虫で速やかに改善。食物アレルギーは除去食継続で管理可能

抗炎症・免疫調節療法

アトピー性皮膚炎に対するシクロスポリン(アトピカ)の長期投与。急性期のステロイド短期使用(プレドニゾロン)。オクラシチニブ(アポキル)は猫での使用は適応外だが研究中

主な薬剤
シクロスポリン(アトピカ)プレドニゾロンクロルフェニラミン
予後

シクロスポリンは猫のアトピーに約70%の有効率。長期使用では定期的な血液モニタリングが必要

行動療法・環境エンリッチメント

心因性脱毛に対して、ストレス源の同定と除去。隠れ場所・高所の確保、多頭飼育での資源分離。フェリウェイ拡散器設置。遊び時間の増加。行動修正(舐毛以外の代替行動の強化)

主な薬剤
フェリウェイジルケーン
予後

環境改善単独で約50%の症例が改善。薬物療法併用で改善率70-80%

抗不安薬・SSRI療法

環境改善で改善しない心因性脱毛に対し、セロトニン系に作用する薬物を併用。クロミプラミンまたはフルオキセチンが第一選択。効果発現まで4-8週間。最低6ヶ月継続後に漸減

主な薬剤
フルオキセチンクロミプラミンアミトリプチリンガバペンチン
予後

薬物療法と環境改善の併用で持続的な改善が報告されている。ただし、クロミプラミン単独の二重盲検試験ではプラセボとの有意差が認められなかった報告もあり、環境改善が最も重要

疫学データ

有病率

猫の皮膚科受診の20-30%が脱毛関連。心因性脱毛と当初診断されたケースの76%に医学的原因が存在(Sawyer et al., 1999 JAVMA)。純粋な心因性脱毛は比較的まれ

年齢分布

アレルギー性:1-5歳で好発。心因性:全年齢だが環境変化に反応しやすい敏感な個体。寄生虫性:全年齢

好発品種

シャム、アビシニアン、バーミーズ、ヒマラヤン、オリエンタル系品種

治療費の目安

初期検査費用:10,000〜25,000円。駆虫薬:月1,500〜3,000円。シクロスポリン:月5,000〜10,000円。行動療法薬:月3,000〜6,000円。除去食:月5,000〜8,000円

過度なグルーミングに関するよくある質問

Q. 猫が過度なグルーミングを見せる原因は何ですか?

猫の過度なグルーミングの主な原因には、アレルギー(食物・環境)、皮膚の感染症、痛み(膀胱炎・関節痛)、ストレス・不安、ノミアレルギー、強迫性障害があります。

Q. 猫の過度なグルーミングはいつ病院に行くべきですか?

早めに脱毛が見られる

早めに皮膚を傷つけるほどの毛づくろい

Q. 猫の過度なグルーミングの自宅での対処法は?

  • ストレス要因を減らす
  • 遊びや環境エンリッチメントを増やす
  • フェロモン製品を試す
  • 脱毛部位を写真で記録する

Q. 猫の過度なグルーミングの治療費はどのくらいですか?

猫の過度なグルーミングに関連する治療費の目安は初期検査費用:10,000〜25,000円。駆虫薬:月1,500〜3,000円。シクロスポリン:月5,000〜10,000円。行動療法薬:月3,000〜6,000円。除去食:月5,000〜8,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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