Cognitive Dysfunction

猫の認知症状

シニア猫に見られる、迷子になる、トイレを忘れる、夜間に徘徊するなどの認知機能の低下です。猫の認知機能不全症候群(CDS)と呼ばれます。

獣医師監修

認知症状の要点まとめ

主な原因
加齢による脳の変化、脳腫瘍、高血圧、甲状腺機能亢進症
緊急受診
急激な変化・発作を伴う
自宅対応
生活環境を大きく変えない。トイレの数を増やしアクセスしやすくする
治療費目安
初期検査(血液+T4+血圧+尿検査):20,000〜35,000円。MRI:50,000〜100,000円。サプリメント(フェルガード等):月3,000〜6,000円。処方食:月5,000〜8,000円。併存疾患の管理:月5,000〜15,000円

病態生理

猫の混乱・認知症(認知機能障害症候群:CDS)は、加齢に伴う脳の神経変性疾患であり、ヒトのアルツハイマー病と類似した病態を示す。病理学的には、大脳皮質・海馬におけるβ-アミロイド斑の沈着、神経原線維変化(過リン酸化タウ蛋白)、酸化ストレスによる神経細胞の脂質過酸化・ミトコンドリア機能障害が進行し、神経細胞の変性・脱落と脳の全体的萎縮をもたらす。神経伝達物質レベルでは、ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリン・アセチルコリンの産生低下が認められ、これが覚醒度低下・昼夜リズム破綻・学習記憶障害に直結する。特にアセチルコリン系の低下は空間記憶と見当識障害に、セロトニン系の低下は不安と睡眠障害に関与する。脳血管の変性(アミロイド血管症)は脳血流低下を招き、虚血性変化を悪化させる。CDSは進行性であるが、その進行速度には個体差が大きく、環境刺激・栄養状態・併存疾患により影響を受ける。重要な点として、CDSと類似症状を呈する治療可能な疾患(甲状腺機能亢進症・高血圧・CKD等)の除外が不可欠である。

考えられる原因

  • 加齢による脳の変化
  • 脳腫瘍
  • 高血圧
  • 甲状腺機能亢進症

鑑別診断

認知機能障害症候群(CDS)Cognitive Dysfunction Syndrome
多い

DISHA症候群:見当識障害(慣れた場所で迷う)、社会的交流の変化(引きこもり/過度の依存)、睡眠-覚醒サイクル逆転(夜間活動・日中過眠)、不適切排泄(トイレの場所忘れ)、活動性変化(目的のない徘徊/無関心)。壁や空間を凝視する行動。除外診断。10歳以上で発症、15歳以上の50%に兆候

年齢: 10歳以上(15歳以上で有病率約50%)好発品種: 品種を問わない
甲状腺機能亢進症Hyperthyroidism
多い

CDSと類似した夜間発声・落ち着きのなさを呈する。CDSとの鑑別には多食・体重減少・多飲多尿の有無が重要。頻脈・心雑音。血清T4上昇。CDSと併発することも多い

年齢: 8歳以上好発品種: 品種を問わない
全身性高血圧症Systemic Hypertension
多い

脳血管への影響で見当識障害・夜間発声・混乱。急性失明(網膜剥離)が突然の混乱・壁への衝突として発現。CKDや甲状腺機能亢進症に続発。収縮期血圧>160mmHg。眼底検査が重要

年齢: 中高齢猫好発品種: 品種を問わない
慢性腎臓病(CKD)末期End-Stage Chronic Kidney Disease
多い

尿毒症性脳症による混乱・見当識障害・痙攣。口臭(尿毒症性口臭)、嘔吐、脱水、著しい体重減少。BUN/Cre著明上昇、重度の低比重尿、貧血

年齢: 高齢猫(CKD進行例)好発品種: ペルシャ、アビシニアン、メインクーン
脳腫瘍Brain Tumor (Meningioma / Lymphoma)
時々

猫の脳腫瘍で最も多いのは髄膜腫。進行性の行動変化・旋回運動・頭部プレス・痙攣発作・視力障害。一側性の神経学的欠損。MRI/CTで腫瘤性病変。髄膜腫は外科的切除で予後比較的良好

年齢: 10歳以上の高齢猫好発品種: 品種を問わない
肝性脳症Hepatic Encephalopathy
時々

肝不全または門脈体循環シャントによるアンモニア蓄積。食後に悪化する混乱・流涎・異常行動。先天性シャントでは幼齢で発症。血中アンモニア上昇、胆汁酸上昇。超音波で異常血管を検出

年齢: 先天性:1歳未満、後天性:中高齢猫好発品種: ペルシャ、ヒマラヤン(先天性シャント)
てんかん(発作後状態)Epilepsy (Post-Ictal State)
時々

痙攣発作後の一過性の混乱・見当識障害・視力障害(発作後盲)。数分〜数時間で回復。発作の目撃歴が診断の鍵。特発性てんかんは若齢〜中齢で発症。構造的てんかんは高齢猫で脳病変に伴う

年齢: 特発性:1-7歳、構造的:高齢猫好発品種: 品種を問わない
中毒(薬物・植物)Toxicosis (Drug / Plant)
時々

急性発症の混乱・運動失調・瞳孔異常・痙攣。ユリ・エッセンシャルオイル・NSAID・ペルメトリン(犬用ノミ駆除剤の誤用)が猫で多い原因。曝露歴の聴取が最重要。対症療法と除染処置

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない

緊急度の目安

状況緊急度
時々ぼんやりしている経過観察
トイレの失敗が増えた・夜間徘徊早めに受診
急激な変化・発作を伴う緊急受診

診断の進め方

1
認知機能評価・詳細問診1,500〜5,000円(診察料)

DISHA チェックリストを用いた系統的な認知機能評価。症状の発症時期・進行速度・日内変動の確認。食事・排泄・睡眠パターンの変化。動画記録による行動の客観的評価。併存疾患の有無

2
血液検査・甲状腺機能・尿検査10,000〜20,000円

CBC・生化学検査(肝腎機能・血糖・電解質)、T4測定、血中アンモニア(肝性脳症疑い)。尿検査(比重・蛋白・沈渣)。CDS類似症状を呈する代謝性疾患の包括的スクリーニング

3
血圧測定・眼底検査3,000〜8,000円

高血圧性脳症・網膜症の評価。収縮期血圧測定(ドップラー法)。散瞳下での眼底検査(網膜出血・剥離・萎縮)。高血圧はCKD・甲状腺機能亢進症に高頻度で合併

4
画像診断(頭部MRI/CT)50,000〜100,000円(麻酔代含む)

脳腫瘍・脳炎・水頭症・脳血管障害の除外に不可欠。MRIが第一選択(軟部組織コントラストに優れる)。全身麻酔が必要。CDSでは脳萎縮・脳室拡大が認められるが、これだけでは確定できない

自宅での対応

  • 生活環境を大きく変えない
  • トイレの数を増やしアクセスしやすくする
  • 規則正しい日課を維持する
  • 認知機能サポートのサプリメントを検討する

認知症状の記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の認知症状パターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

環境管理・生活の質向上

規則的な日課の維持(食事・遊び・就寝の時間固定)。環境の急激な変更を避ける。夜間照明の設置(見当識障害の軽減)。トイレへのアクセス容易化(低い入口・複数設置)。生活空間の簡素化(迷いにくくする)。フェリウェイ拡散器による不安軽減

主な薬剤
フェリウェイ
予後

環境管理単独でQOLの維持に寄与。完治はないが、進行を遅延させ良好な余生を確保

栄養療法・サプリメント

抗酸化物質(ビタミンE・C・セレン)を豊富に含む食事。DHA/EPA(オメガ3脂肪酸)による神経保護。SAMe(S-アデノシルメチオニン)の抗酸化・神経保護作用。フェルガード100M(フェルラ酸+ガーデンアンゼリカ抽出物)は日本で広く使用される犬猫用認知症サプリメント。中鎖脂肪酸(MCT)による脳のエネルギー供給改善

主な薬剤
SAMeフェルガード100Mアンチノール(DHA/EPA)CoQ10ビタミンE
予後

サプリメントと食事療法の併用で症状進行の遅延が期待される。効果発現には4-8週間の継続が必要

薬物療法

セレギリン(MAO-B阻害薬):ドーパミン分解を阻害し認知機能を改善。犬では承認済みだが猫では適応外使用。プロペントフィリン(ビビトニン):脳血流改善作用。ガバペンチン:夜間不安の軽減に有用。重度の不安にはフルオキセチン・トラゾドンを検討

主な薬剤
セレギリンプロペントフィリン(ビビトニン)ガバペンチンフルオキセチントラゾドン
予後

薬物療法はCDSの進行を完全に止めることはできないが、行動症状の緩和とQOL向上に寄与。併存疾患の適切な管理が予後を左右

併存疾患の積極的治療

高齢猫ではCDS・甲状腺機能亢進症・CKD・高血圧が併存することが多い。甲状腺機能亢進症のメチマゾール治療、高血圧のアムロジピン治療、CKDの腎臓食・輸液療法を並行して実施。併存疾患の管理がCDS症状の改善にもつながる

主な薬剤
メチマゾールアムロジピンベナゼプリル
予後

併存疾患の適切な管理により、認知症様症状の一部は可逆的に改善する可能性がある

疫学データ

有病率

11-14歳の猫の28%以上が少なくとも1つのCDS兆候を示す。15歳以上では50%に達する。ただし飼い主の認知と報告率は低く、実際の有病率はさらに高い可能性

年齢分布

10歳以上で発症、15歳以上で有病率急上昇。日本の猫の平均寿命延長(15.6歳)に伴いCDSの臨床的重要性が増加

好発品種

品種を問わない

治療費の目安

初期検査(血液+T4+血圧+尿検査):20,000〜35,000円。MRI:50,000〜100,000円。サプリメント(フェルガード等):月3,000〜6,000円。処方食:月5,000〜8,000円。併存疾患の管理:月5,000〜15,000円

認知症状に関するよくある質問

Q. 猫が認知症状を見せる原因は何ですか?

猫の認知症状の主な原因には、加齢による脳の変化、脳腫瘍、高血圧、甲状腺機能亢進症があります。

Q. 猫の認知症状はいつ病院に行くべきですか?

緊急急激な変化・発作を伴う

早めにトイレの失敗が増えた・夜間徘徊

Q. 猫の認知症状の自宅での対処法は?

  • 生活環境を大きく変えない
  • トイレの数を増やしアクセスしやすくする
  • 規則正しい日課を維持する
  • 認知機能サポートのサプリメントを検討する

Q. 猫の認知症状の治療費はどのくらいですか?

猫の認知症状に関連する治療費の目安は初期検査(血液+T4+血圧+尿検査):20,000〜35,000円。MRI:50,000〜100,000円。サプリメント(フェルガード等):月3,000〜6,000円。処方食:月5,000〜8,000円。併存疾患の管理:月5,000〜15,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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