Hair Loss

猫の脱毛

毛が通常以上に抜ける、または部分的にハゲができる症状です。季節的な換毛は正常ですが、局所的な脱毛や地肌が見える場合は病気の可能性があります。

獣医師監修

脱毛の要点まとめ

主な原因
アレルギー(食物・環境)、皮膚糸状菌症(真菌感染)、寄生虫(ノミ・ダニ)、ストレスによる過度な毛づくろい など
自宅対応
定期的なブラッシングで死毛を除去する。ノミ・ダニの予防を徹底する
治療費目安
初診検査:5,000〜15,000円、治療費月額:3,000〜10,000円(内服薬・外用薬)、重度例・生検:15,000〜30,000円追加

病態生理

猫の脱毛(アロペシア)は、毛包の発育・維持機構が何らかの原因で障害されることにより生じる。正常な毛周期は成長期(アナゲン)→退行期(カタゲン)→休止期(テロゲン)のサイクルで制御されているが、炎症性メディエーターやホルモン異常、免疫異常によりこのサイクルが破綻すると毛の成長が停止し脱落する。猫で最も多い脱毛原因はそう痒に起因する自傷性脱毛であり、アレルギーや寄生虫による痒みから過度な舐毛・掻爬を行い、毛が機械的に断裂・脱落する。猫は犬と異なり痒みを隠す傾向があり、飼い主が舐毛行動に気づかないまま脱毛が進行するケースが多い。非炎症性脱毛では、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症)による毛包萎縮や、栄養欠乏(特にタンパク質不足)による毛母細胞の増殖障害が関与する。先天性脱毛は毛包の形成不全に起因し、遺伝的素因が関係する。

考えられる原因

  • アレルギー(食物・環境)
  • 皮膚糸状菌症(真菌感染)
  • 寄生虫(ノミ・ダニ)
  • ストレスによる過度な毛づくろい
  • ホルモン異常
  • 自己免疫疾患

鑑別診断

ノミアレルギー性皮膚炎Flea Allergy Dermatitis (FAD)
多い

猫の対称性脱毛の最も一般的な原因。腰背部・尾根部・腹部の粟粒性皮膚炎と脱毛が特徴。ノミ糞(黒い粒)の検出が診断の鍵。少数のノミ寄生でも重篤な反応を起こしうる

年齢: 全年齢(特に屋外アクセスのある猫)好発品種: 品種を問わない
皮膚糸状菌症(猫カビ)Dermatophytosis (Ringworm)
多い

Microsporum canisが最も多い原因菌。円形〜不整形の限局性脱毛で鱗屑を伴う。耳介・顔面・四肢末端に好発。ウッド灯検査で約50%が蛍光陽性。人獣共通感染症

年齢: 幼齢猫(1歳未満)・高齢猫・免疫抑制猫好発品種: ペルシャ、ヒマラヤン、長毛種全般
食物アレルギー性皮膚炎Cutaneous Adverse Food Reaction
多い

頭頸部の掻痒・脱毛が特徴的。消化器症状(嘔吐・下痢)を伴うこともある。除去食試験(8〜12週間)で改善すれば確定。季節性がない点でアトピーと鑑別

年齢: 全年齢好発品種: シャム、品種を問わない
猫アトピー性皮膚炎(猫アトピー症候群)Feline Atopic Skin Syndrome
多い

環境アレルゲン(花粉・ハウスダスト)に対する過敏反応。頭頸部掻痒、対称性脱毛、粟粒性皮膚炎、好酸球性肉芽腫のいずれかの反応パターンを示す。季節性がある場合も

年齢: 1〜4歳で発症が多い好発品種: シャム、アビシニアン、デボンレックス
ニキビダニ症(毛包虫症)Demodicosis (Demodex gatoi / D. cati)
時々

D. gatoi:伝染性があり強い痒みを伴う。腹部の対称性脱毛。皮膚掻爬検査で検出。D. cati:局所性で外耳や眼周囲に脱毛。痒みは軽度。免疫抑制が背景にある場合が多い

年齢: 全年齢(免疫抑制猫に多い)好発品種: シャム、バーミーズ
甲状腺機能亢進症Hyperthyroidism
時々

過度な舐毛による体幹脱毛、被毛のボサボサ・艶消し。多食にもかかわらず体重減少、多飲多尿、活動性亢進を伴う。血清T4値上昇で診断

年齢: 8歳以上の中高齢猫好発品種: シャム、ヒマラヤン(やや少ない)
好酸球性肉芽腫症候群Eosinophilic Granuloma Complex (EGC)
時々

3つの病変型:好酸球性潰瘍(上唇)、好酸球性プラーク(腹部・内股の紅斑性脱毛)、好酸球性肉芽腫(口腔内・四肢の結節性病変)。アレルギーが背景にあることが多い

年齢: 2〜6歳好発品種: 品種を問わない(若齢メスにやや多い)
心因性脱毛(過剰グルーミング)Psychogenic Alopecia (Overgrooming)
時々

ストレスに起因する過剰舐毛。腹部・内股・四肢内側の対称性脱毛。皮膚自体に炎症所見なし。研究では推定心因性脱毛の76%に医学的原因が見つかるため、除外診断が必須

年齢: 全年齢(神経質な性格の猫に多い)好発品種: シャム、アビシニアン、バーミーズ、東洋系品種
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)Hyperadrenocorticism (Cushing's Syndrome)
まれ

猫ではまれ。薄く脆弱な皮膚、対称性脱毛、腹部膨満。約80%で糖尿病を併発。多飲多尿・多食。皮膚が紙のように薄くなり裂けやすい

年齢: 中高齢猫好発品種: 品種を問わない
疥癬(猫小穿孔ヒゼンダニ症)Notoedric Mange (Notoedres cati)
まれ

激しい痒み、耳介辺縁・顔面・頸部に厚い痂皮と脱毛が急速に拡大。皮膚掻爬で虫体・虫卵検出。伝染性が非常に強い

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
皮膚型肥満細胞腫Cutaneous Mast Cell Tumor
まれ

頭部・耳に好発する小結節で脱毛を伴う。周囲の痒みから掻爬による脱毛も。細胞診でメタクロマジー顆粒陽性の肥満細胞を確認

年齢: 4歳以上好発品種: シャム
猫白血病ウイルス(FeLV)/ 猫免疫不全ウイルス(FIV)関連皮膚症FeLV/FIV-Associated Dermatopathy
まれ

免疫抑制による日和見感染(真菌・細菌・ニキビダニ)で二次的脱毛。治りにくい皮膚感染を繰り返す場合はレトロウイルス感染を疑う

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない(屋外猫に多い)

緊急度の目安

状況緊急度
換毛期の抜け毛増加経過観察
局所的なハゲ・かゆみを伴う早めに受診
広範囲の脱毛・皮膚の赤み早めに受診

診断の進め方

1
皮膚掻爬検査・被毛検査2,000〜5,000円

メスで皮膚表面を掻き取り、顕微鏡でニキビダニ・疥癬虫体を検索。被毛検査(トリコグラム)で毛の断裂パターン(自傷性 vs 自然脱落)を鑑別し、皮膚糸状菌の胞子の有無を確認

2
真菌培養検査(DTM培地)3,000〜6,000円

Dermatophyte Test Medium培地に被毛・鱗屑を培養し、2〜3週間で皮膚糸状菌の同定を行う。ウッド灯検査も併用(M. canisの約50%が蛍光陽性)

3
皮膚細胞診・スタンプ染色1,500〜3,000円

テープストリップまたはスタンプ法でマラセチア、細菌(球菌・桿菌)、好酸球の有無を評価。二次感染の有無と炎症の性状を迅速に判断できる

4
血液検査(CBC・生化学・甲状腺ホルモン)8,000〜15,000円

内分泌疾患(甲状腺機能亢進症)、全身性疾患の除外。CBCで好酸球増多はアレルギー性疾患を示唆。FeLV/FIV抗体検査も免疫抑制の評価に重要

5
皮膚生検・病理組織検査15,000〜30,000円

初期検査で確定診断に至らない場合に実施。パンチ生検で採取し、毛包の状態、炎症細胞浸潤パターン、腫瘍性変化を病理学的に評価。自己免疫疾患の確定にも必要

自宅での対応

  • 定期的なブラッシングで死毛を除去する
  • ノミ・ダニの予防を徹底する
  • 食事の質を見直す(オメガ3脂肪酸を含むフード)

脱毛の記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の脱毛パターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

原因疾患の特異的治療

脱毛の根本原因に応じた治療。ノミアレルギーには厳格なノミ駆除、皮膚糸状菌にはイトラコナゾール内服と環境除染、食物アレルギーには除去食療法を実施

主な薬剤
イトラコナゾールセラメクチンフィプロニル加水分解食
予後

原因が特定・制御できれば良好。皮膚糸状菌は完治可能。アレルギーは生涯管理が必要だが適切な治療でQOL維持可能

免疫調節療法

アトピーや好酸球性肉芽腫症候群に対して、免疫反応を調節する治療。ステロイドで急性期を制御し、長期管理にはシクロスポリンへ移行

主な薬剤
プレドニゾロンシクロスポリン(アトピカ)オクラシチニブ
予後

症状コントロールは良好だが、長期ステロイド使用は糖尿病リスクあり。シクロスポリンで70〜80%の猫が改善

抗菌・抗真菌療法

二次感染(細菌・マラセチア)の治療。全身性抗真菌薬(皮膚糸状菌症)や適切な抗生物質による二次性膿皮症の制御

主な薬剤
アモキシシリン-クラブラン酸イトラコナゾールテルビナフィンミコナゾールシャンプー
予後

二次感染は適切な治療で治癒可能。皮膚糸状菌は治療に6〜8週間要する

行動療法・環境改善

心因性脱毛に対する治療。環境エンリッチメント(遊び・キャットタワー)の充実、ストレス要因の除去。薬物療法を併用する場合もある

主な薬剤
フルオキセチンクロミプラミンフェリウェイ(合成フェイシャルフェロモン)
予後

環境改善で改善することが多いが、真の心因性は全体の10%程度であり、器質的原因の除外が前提

疫学データ

有病率

猫の皮膚疾患受診の約15〜20%を脱毛が占める。ノミアレルギーが最も一般的な原因で、皮膚糸状菌症は幼猫やシェルター猫で特に頻度が高い

年齢分布

皮膚糸状菌は1歳未満の幼猫に多い。アレルギー性疾患は1〜4歳で発症。内分泌性脱毛は8歳以上の中高齢猫

好発品種

ペルシャ、シャム、アビシニアン、ヒマラヤン、デボンレックス

治療費の目安

初診検査:5,000〜15,000円、治療費月額:3,000〜10,000円(内服薬・外用薬)、重度例・生検:15,000〜30,000円追加

脱毛に関するよくある質問

Q. 猫が脱毛を見せる原因は何ですか?

猫の脱毛の主な原因には、アレルギー(食物・環境)、皮膚糸状菌症(真菌感染)、寄生虫(ノミ・ダニ)、ストレスによる過度な毛づくろい、ホルモン異常、自己免疫疾患があります。

Q. 猫の脱毛はいつ病院に行くべきですか?

早めに局所的なハゲ・かゆみを伴う

早めに広範囲の脱毛・皮膚の赤み

Q. 猫の脱毛の自宅での対処法は?

  • 定期的なブラッシングで死毛を除去する
  • ノミ・ダニの予防を徹底する
  • 食事の質を見直す(オメガ3脂肪酸を含むフード)

Q. 猫の脱毛の治療費はどのくらいですか?

猫の脱毛に関連する治療費の目安は初診検査:5,000〜15,000円、治療費月額:3,000〜10,000円(内服薬・外用薬)、重度例・生検:15,000〜30,000円追加です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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