猫の過度な掻き行動
猫が体を頻繁に掻いたり、噛んだりする症状です。皮膚の赤みや傷を伴うことがあります。
過度な掻き行動の要点まとめ
- 主な原因
- ノミアレルギー、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、皮膚感染症 など
- 自宅対応
- ノミ予防薬を使用する。低アレルゲンフードを試す
- 治療費目安
- 初診検査:5,000〜15,000円、月額治療費(軽度):3,000〜8,000円、月額治療費(重度・免疫療法含む):10,000〜30,000円
病態生理
猫の過度な掻きむしり(そう痒症)は、皮膚の感覚神経終末がヒスタミン、プロテアーゼ、サイトカイン(IL-31等)、ロイコトリエンなどの痒みメディエーターにより刺激されることで生じる。これらの信号は脊髄後角を経由して大脳皮質の体性感覚野に伝達され、掻く・舐める・噛むといった行動反応を誘発する。猫のそう痒症は4つの皮膚反応パターン——頭頸部掻痒、対称性自傷性脱毛、粟粒性皮膚炎、好酸球性肉芽腫症候群——のいずれかで発現する。ノミの唾液中のハプテン様タンパク質はIgE介在型即時型過敏反応(I型)と遅延型過敏反応(IV型)の両方を惹起し、微量のノミ寄生でも激烈なそう痒を引き起こす。食物アレルギーではリンパ球介在性の反応が主体であり、環境アレルゲンによるアトピーではIgE介在性のTh2型免疫応答が皮膚バリア機能の破綻を伴いながら慢性的なそう痒を維持する。
考えられる原因
- ノミアレルギー
- 食物アレルギー
- アトピー性皮膚炎
- 皮膚感染症
- 耳ダニ
- ストレス
鑑別診断
猫のそう痒症で最も一般的な原因。腰背部・尾根部・腹部に粟粒性皮膚炎。ノミ駆除で改善すれば臨床的に確定。ノミ糞の検出が重要だが、猫の過度なグルーミングで消失していることも多い
頭頸部の激しい掻痒が特徴。耳・眼周囲に紅斑・脱毛。非季節性。消化器症状を伴うことがある。除去食試験(新奇タンパク食または加水分解食を8〜12週間)で診断
環境アレルゲン(ハウスダストマイト・花粉・カビ胞子)に対する過敏反応。4つの皮膚反応パターンのいずれかを示す。季節性がある場合はアトピーを強く疑う。ノミ・食物アレルギーの除外後に診断
耳の強い痒みと黒褐色の耳垢。頭を振る、後肢で耳を掻く行動。耳介周囲の脱毛・皮膚炎を伴うことも。耳垢の顕微鏡検査でダニ虫体を確認
好酸球性プラーク(腹部・内股の紅斑性隆起病変で激しい痒み)、好酸球性潰瘍(上唇の無痛性潰瘍)、好酸球性肉芽腫(口腔・四肢の線状〜結節性病変)。背景にアレルギーがあることが多い
極めて強い痒み。耳介辺縁から始まり顔面・頸部に急速に拡大する厚い痂皮・鱗屑。皮膚掻爬検査で虫体が多数検出されやすい。伝染性が強い
猫では珍しいが、D. gatoiは伝染性で痒みを伴う。体幹・四肢の対称性脱毛と軽度の鱗屑。表層性の皮膚掻爬で検出するが偽陰性も多い。ライム硫黄浸漬への治療反応で診断的治療
「歩くフケ」の異名。背部に大量のフケと軽〜中等度の痒み。ツメダニは大型で拡大鏡やテープ法で検出可能。伝染性がありヒトにも一過性の丘疹を生じる
猫では比較的まれだが、免疫抑制がある場合に発症。丘疹・膿疱が散在し、掻痒を伴う。多くはアレルギー疾患に続発。細胞診で球菌と好中球を確認
通常は痒みが軽度だが、猫によっては中等度の掻痒を示す。円形脱毛斑に鱗屑を伴う。ウッド灯検査と培養で確定
猫で最も多い自己免疫性皮膚疾患。顔面(鼻梁・耳介)と爪床に膿疱・痂皮。細胞診でアカントリティック細胞。皮膚生検で確定。痒みは中等度
背部の皮膚が波打つように動く(rippling skin)、突然の激しい舐毛・自傷、瞳孔散大、尾を追い回す行動。神経学的異常との鑑別が必要。除外診断
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 時々掻く程度 | 経過観察 |
| 頻繁に掻いて皮膚が赤い | 早めに受診 |
| 掻きむしって出血・化膿 | 早めに受診 |
診断の進め方
ノミ櫛で被毛を梳き、黒い粒を水で溶かして赤褐色に変色すればノミ糞。ノミが見つからなくても、全頭への厳格なノミ駆除を6〜8週間実施し改善を評価(診断的治療)
浅部掻爬でDemodex gatoi、深部掻爬でD. cati、Notoedresを検索。テープ法でツメダニ、マラセチア、好酸球を評価
テープストリップまたはスタンプ法でスライド標本を作製し、マラセチア酵母、細菌、炎症細胞(好酸球・好中球)を評価。二次感染の有無と炎症タイプの迅速判定
新奇タンパク食または加水分解食を8〜12週間厳格に給餌し、痒みの改善を評価。その後、原食に戻して再発を確認(負荷試験)で食物アレルギーを確定
上記で診断困難な場合に実施。皮膚生検で自己免疫疾患や腫瘍性疾患を除外。血清IgE検査やアレルゲン特異的皮内テストで環境アレルゲンを同定(減感作療法の適応決定)
自宅での対応
- ノミ予防薬を使用する
- 低アレルゲンフードを試す
- エリザベスカラーで掻きむしりを防ぐ
治療法
原因除去療法
最も重要な治療。ノミアレルギーには全動物への月1回の駆虫薬投与と環境処理。食物アレルギーには原因食材を除去した食事管理。耳ダニにはセラメクチンまたはイベルメクチン投与
原因が除去できれば予後良好。ノミアレルギーは駆除の継続が鍵。食物アレルギーは食事管理で長期管理可能
免疫抑制・抗炎症療法
アトピーや好酸球性肉芽腫症候群の痒みコントロール。急性期はステロイド短期投与、長期管理にはシクロスポリンへ移行。抗ヒスタミン薬は単独での効果は限定的だが補助的に使用
70〜80%の猫で痒みが有意に改善。長期ステロイド使用は糖尿病・免疫抑制のリスク。シクロスポリンは4〜6週間で効果発現
アレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)
皮内テストまたは血清IgE検査で同定したアレルゲンの希釈液を段階的に投与し、免疫寛容を誘導。長期的な根本治療で副作用が少ない。効果発現に6〜12ヶ月
猫での有効率は50〜70%。完全寛解は少ないが、併用薬の減量が可能。生涯継続が推奨
二次感染の治療
掻爬による皮膚バリア破壊に続発する細菌感染・マラセチア感染の制御。全身性抗菌薬と外用療法の併用
適切な治療で2〜4週間で改善。原因疾患のコントロールがないと再発する
疫学データ
猫の皮膚科受診理由の第1位。ノミアレルギーが最多原因で、アトピーと食物アレルギーが続く。完全室内猫ではノミアレルギーの頻度は低下するが食物アレルギー・アトピーの比率が上昇
アレルギー性疾患は1〜4歳で初発が多い。ノミアレルギーは全年齢。耳ダニは幼猫に多い
シャム、アビシニアン、バーミーズ、デボンレックス
初診検査:5,000〜15,000円、月額治療費(軽度):3,000〜8,000円、月額治療費(重度・免疫療法含む):10,000〜30,000円
参考文献
- Itching (Pruritus) in Cats — Merck Veterinary Manual
- Diagnosis and Treatment of Pruritus in Cats Algorithm — Today's Veterinary Practice
- Feline Atopic Skin Syndrome — Today's Veterinary Practice
- Eosinophilic Granuloma Complex — Cornell Feline Health Center
- 飼い主が知っておきたい猫の皮膚病の原因、症状、治療法、対策 — アニコム損保 猫との暮らし大百科
過度な掻き行動に関するよくある質問
Q. 猫が過度な掻き行動を見せる原因は何ですか?
猫の過度な掻き行動の主な原因には、ノミアレルギー、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、皮膚感染症、耳ダニ、ストレスがあります。
Q. 猫の過度な掻き行動はいつ病院に行くべきですか?
早めに頻繁に掻いて皮膚が赤い
早めに掻きむしって出血・化膿
Q. 猫の過度な掻き行動の自宅での対処法は?
- ノミ予防薬を使用する
- 低アレルゲンフードを試す
- エリザベスカラーで掻きむしりを防ぐ
Q. 猫の過度な掻き行動の治療費はどのくらいですか?
猫の過度な掻き行動に関連する治療費の目安は初診検査:5,000〜15,000円、月額治療費(軽度):3,000〜8,000円、月額治療費(重度・免疫療法含む):10,000〜30,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。