猫のしこり・腫れ
皮膚の下や表面にしこり、腫れ、できものが見つかる症状です。良性のものから悪性腫瘍まで様々な可能性があります。
しこり・腫れの要点まとめ
- 主な原因
- 脂肪腫(良性)、膿瘍(ケンカの傷からの感染)、肥満細胞腫、扁平上皮癌 など
- 緊急受診
- 出血や潰瘍を伴うしこり
- 自宅対応
- しこりの大きさ・形を記録する。定期的にサイズの変化を確認する
- 治療費目安
- 細胞診:3,000〜8,000円、外科切除(小腫瘤):30,000〜80,000円、外科切除(広範切除):100,000〜300,000円、化学療法:1回20,000〜50,000円、放射線療法:総額200,000〜500,000円
病態生理
猫の皮膚のしこり・できものは、細胞の異常増殖(腫瘍性)、炎症性肉芽腫形成、嚢胞形成、または組織過形成のいずれかの機序により生じる。腫瘍性病変では、紫外線・化学物質・ウイルス(パピローマウイルス、FeLV等)による遺伝子変異が細胞周期制御を破綻させ、制御不能な増殖が起こる。良性腫瘍は被膜を有し周囲組織への浸潤が限定的であるのに対し、悪性腫瘍は浸潤性に増殖し血行性・リンパ行性に転移しうる。猫の皮膚腫瘍は犬に比べて悪性の割合が高く(約50〜65%)、特に基底細胞腫、扁平上皮癌、肥満細胞腫、線維肉腫の頻度が高い。注射部位肉腫(FISS)はワクチンや注射による慢性炎症が発癌に関与するとされ、慢性的な炎症微小環境での線維芽細胞の悪性形質転換が病態の本質である。好酸球性肉芽腫はアレルギー反応に伴う好酸球浸潤と肉芽腫性炎症による非腫瘍性のしこりである。
考えられる原因
- 脂肪腫(良性)
- 膿瘍(ケンカの傷からの感染)
- 肥満細胞腫
- 扁平上皮癌
- 線維肉腫
- ワクチン接種後の腫れ(一時的)
鑑別診断
猫で最も一般的な皮膚腫瘍。頭部・頸部に好発する孤立性の硬い結節。しばしば色素沈着(暗色)。多くは良性で緩徐に増大。外科切除で治癒
猫の皮膚腫瘍で2番目に多い(15〜21%)。頭部・耳に好発する無毛の丘疹〜結節(0.5〜3cm)。組織球型は若齢シャムに多く自然退縮することも。肥満細胞型は4歳以上で外科切除が標準。切除後30%が再発
紫外線曝露が主なリスク因子。白色・淡色の猫の耳介先端・鼻鏡・眼瞼に好発。初期は紅斑・痂皮、進行すると潰瘍性腫瘤。局所浸潤性が高いが遠隔転移は比較的遅い
猫の軟部組織腫瘍で最多。急速に増大する硬い腫瘤。注射部位肉腫(FISS)は肩甲間部・後肢に発生。局所浸潤性が極めて高く、切除後70%以上が1年以内に再発
非腫瘍性の炎症性結節。口腔内・四肢(特に後肢内側)に線状〜結節性病変。アレルギーが背景にあることが多い。細胞診で好酸球優位
良性の脂肪組織腫瘍。腹部に好発する柔らかい可動性の皮下腫瘤。猫では犬ほど一般的ではない。経過観察可能だが増大傾向あれば切除
頭部・腹部に好発する小さな隆起性病変。無症状なことが多い。炎症・感染を起こさない限り治療不要
咬傷後に皮下に形成される限局性膿汁貯留。発熱・疼痛・腫脹。自壊して排膿することも。排膿・洗浄と抗生物質で治療
ワクチン・注射部位に発生する悪性腫瘍。注射後数ヶ月〜数年で出現。発生率は1万接種に1例。肩甲間部の腫瘤は特に注意。切除後90%以上が再発するため根治的広範切除が必須
頭部(耳介)・頸部・四肢下部に好発する色素性腫瘤。暗褐色〜黒色。猫の皮膚メラノーマは犬に比べ悪性の割合が高い。早期切除で予後改善
紫外線曝露が関連。白色猫の耳介・鼻に好発。赤〜暗紫色の腫瘤。軟部組織腫瘍中で最も転移率が高い。広範切除と補助療法が必要
パピローマウイルスによる良性腫瘤。猫では犬に比べまれ。カリフラワー様の小腫瘤。多くは自然退縮するが、免疫抑制猫では持続・多発
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 小さく変化のないしこり | 早めに受診 |
| 急速に大きくなるしこり | 早めに受診 |
| 出血や潰瘍を伴うしこり | 緊急受診 |
診断の進め方
細い注射針でしこりの細胞を吸引し、スライドに塗抹して顕微鏡で観察。腫瘍性 vs 炎症性の鑑別、腫瘍タイプの大まかな推定が可能。低侵襲で外来で実施可能
パンチ生検または切除生検で組織を採取し、病理学的に腫瘍の種類・悪性度・切除マージンを評価。確定診断に不可欠。外科切除と同時に行うことが多い
腫瘍の深達度・周囲組織への浸潤・遠隔転移の評価。胸部X線で肺転移確認。腹部超音波で内臓転移検索。CTは手術計画に有用(特にFISS)
全身状態の評価と麻酔リスクの判定。肥満細胞腫では好酸球増多や好塩基球増多を認めることがある。FeLV/FIV検査も腫瘍関連で重要
自宅での対応
- しこりの大きさ・形を記録する
- 定期的にサイズの変化を確認する
- 新しいしこりを見つけたら早めに受診する
治療法
外科切除
多くの皮膚腫瘍の第一選択治療。良性腫瘍は辺縁切除で治癒。悪性腫瘍は広範マージン(2〜3cm+深部筋膜1層)での切除が推奨。FISSでは根治的広範切除が必須
良性腫瘍は外科切除で治癒。悪性腫瘍は完全切除(クリーンマージン)で予後良好。不完全切除やFISSは再発率が高い
放射線療法
切除不能な腫瘍や不完全切除後の補助療法。SCCやFISSに有効。全身麻酔下で複数回照射。一部の施設でのみ実施可能
SCCの局所制御率は良好。FISSの局所再発までの期間を延長。根治は困難な場合が多い
化学療法
転移リスクの高い腫瘍や手術不適応例に使用。肥満細胞腫にはプレドニゾロン+ビンブラスチン。リンパ腫にはCHOP系プロトコル。FISSにはドキソルビシン/カルボプラチン
腫瘍の種類と進行度により異なる。化学療法単独での完全寛解は稀。手術との併用で生存期間延長
保存的管理・対症療法
良性腫瘍(脂肪腫・皮脂腺過形成)で増大傾向がなく機能障害のない場合は経過観察。膿瘍は排膿・洗浄と抗生物質投与。好酸球性肉芽腫は原因アレルギーの制御とステロイド投与
良性腫瘍は増大速度の定期的モニタリングが重要。膿瘍は排膿と抗生物質で治癒。EGCは原因制御で寛解可能だが再発も多い
疫学データ
猫の皮膚腫瘍は犬の約半分の頻度だが、悪性率は約50〜65%と高い。肥満細胞腫は猫の皮膚腫瘍の15〜21%を占める。注射部位肉腫の発生率は約1万接種に1例
良性腫瘍・SCCは中高齢猫に多い。組織球型肥満細胞腫は4歳未満のシャムに好発。FISSはワクチン接種歴に依存
ペルシャ、ヒマラヤン、シャム、白猫
細胞診:3,000〜8,000円、外科切除(小腫瘤):30,000〜80,000円、外科切除(広範切除):100,000〜300,000円、化学療法:1回20,000〜50,000円、放射線療法:総額200,000〜500,000円
関連する症状
しこり・腫れに関するよくある質問
Q. 猫がしこり・腫れを見せる原因は何ですか?
猫のしこり・腫れの主な原因には、脂肪腫(良性)、膿瘍(ケンカの傷からの感染)、肥満細胞腫、扁平上皮癌、線維肉腫、ワクチン接種後の腫れ(一時的)があります。
Q. 猫のしこり・腫れはいつ病院に行くべきですか?
緊急出血や潰瘍を伴うしこり
早めに小さく変化のないしこり
早めに急速に大きくなるしこり
Q. 猫のしこり・腫れの自宅での対処法は?
- しこりの大きさ・形を記録する
- 定期的にサイズの変化を確認する
- 新しいしこりを見つけたら早めに受診する
Q. 猫のしこり・腫れの治療費はどのくらいですか?
猫のしこり・腫れに関連する治療費の目安は細胞診:3,000〜8,000円、外科切除(小腫瘤):30,000〜80,000円、外科切除(広範切除):100,000〜300,000円、化学療法:1回20,000〜50,000円、放射線療法:総額200,000〜500,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。