Wounds & Abscesses

猫の傷・化膿

外傷による傷や、傷口が化膿して膿がたまる症状です。外に出る猫はケンカによる咬傷から膿瘍ができることが多いです。

獣医師監修

傷・化膿の要点まとめ

主な原因
猫同士のケンカ、事故・外傷、手術後の傷、皮膚感染 など
緊急受診
大きな傷・出血が止まらない
自宅対応
傷口を清潔な水で洗い流す。化膿を防ぐため傷口を舐めさせない
治療費目安
軽度外傷(洗浄・投薬):3,000〜10,000円、膿瘍(切開排膿・投薬):10,000〜30,000円、縫合処置:20,000〜50,000円、重度外傷(手術・入院):50,000〜300,000円

病態生理

猫の傷・外傷は、皮膚および皮下組織の連続性が機械的外力により断裂した状態である。創傷治癒は炎症期(受傷直後〜3日:血小板凝集・フィブリン形成・好中球/マクロファージ遊走)、増殖期(3日〜3週間:線維芽細胞によるコラーゲン産生・血管新生・肉芽組織形成)、リモデリング期(3週間〜数ヶ月:コラーゲンの再構築・瘢痕成熟)の3相で進行する。猫の口腔内にはPasteurella multocida、Bartonella henselae、嫌気性菌などの病原菌が多数常在しており、咬傷はこれらの菌を深部組織に注入する汚染注射として機能する。咬傷の小さな穿刺創は表面が速やかに閉鎖するが、深部で細菌が増殖し膿瘍を形成する。膿瘍は被膜に囲まれた膿汁(壊死組織・細菌・白血球の混合物)の集積であり、抗生物質の浸透が不良なため外科的排膿が治療の要となる。

考えられる原因

  • 猫同士のケンカ
  • 事故・外傷
  • 手術後の傷
  • 皮膚感染
  • 異物による傷

鑑別診断

咬傷・膿瘍Bite Wound / Abscess
多い

猫同士の喧嘩による最も一般的な外傷。頭部・尾根部・四肢に好発。受傷2〜5日後に腫脹・発熱・疼痛・元気消失。自壊して悪臭を伴う排膿。穿刺痕が被毛に隠れて初期に気づかれにくい

年齢: 若齢〜中齢の屋外猫好発品種: 品種を問わない(未去勢雄・屋外猫に圧倒的に多い)
裂傷・切創Laceration / Incision
多い

鋭利な物体や衝突による皮膚の線状断裂。出血が目立つ。創縁が整っている切創は縫合に適するが、受傷から6時間以内が理想。挫滅組織が多い裂傷は感染リスクが高い

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
擦過傷Abrasion
多い

交通事故や転落による皮膚表面の摩擦損傷。広範囲の表皮剥離。出血は少ないが痛みが強い。汚染されていることが多く洗浄が重要

年齢: 全年齢(屋外猫に多い)好発品種: 品種を問わない
交通事故外傷Road Traffic Accident (RTA) Trauma
多い

多発外傷を伴うことが多い。皮膚剥離創(degloving injury)、骨折、内臓損傷の合併。ショック症状に注意。緊急対応が必要

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない(屋外猫)
猫ひっかき病関連創Cat Scratch Disease-Associated Wound
時々

Bartonella henselaeによる人獣共通感染症。猫自体は無症状のキャリアが多いが、咬傷・爪傷を介してヒトに感染。猫同士の創傷でもBartonella感染が関与

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
熱傷Burn Injury
時々

ストーブ・アイロン・熱湯による熱傷。深度により分類(表層性〜全層性)。疼痛が著しい。広範囲熱傷ではショック・脱水に注意。初期冷却と被覆が重要

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
蜂窩織炎Cellulitis
時々

皮下組織のびまん性細菌感染。明瞭な膿瘍形成がなく、広範な腫脹・発赤・疼痛・発熱。咬傷に続発することが多い。全身性抗生物質が必須

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
高所落下症候群High-Rise Syndrome
時々

マンション・ビルからの転落。顎骨骨折、気胸、四肢骨折、皮膚裂傷を伴うことが多い。2〜7階からの落下が最も重篤となりやすい。緊急対応が必要

年齢: 全年齢(室内猫で窓の安全対策が不十分な場合)好発品種: 品種を問わない
異物による創傷Foreign Body Wound
時々

草の実(ノギ)、ガラス片、木片などの異物が皮下に残存。慢性的な排膿・瘻管形成。X線や超音波で異物の同定。外科的摘出が必要

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない
自傷創Self-Inflicted Wound
時々

重度の痒みによる過度な掻爬・舐毛で生じる皮膚損傷。頭頸部のびらん・潰瘍。アレルギー性疾患が背景にあることが多い。原因疾患の治療と同時にエリザベスカラーで保護

年齢: 全年齢好発品種: 品種を問わない

緊急度の目安

状況緊急度
小さな擦り傷経過観察
腫れて熱を持つ傷早めに受診
大きな傷・出血が止まらない緊急受診

診断の進め方

1
身体検査・創傷評価2,000〜5,000円(診察料)

創傷の大きさ・深度・汚染度・周囲組織の状態を評価。体温測定(膿瘍では発熱)。咬傷では穿刺痕の確認。多発外傷の場合はABCDE(気道・呼吸・循環・障害・環境)のトリアージ

2
細菌培養・感受性試験5,000〜10,000円

感染創から検体を採取し、原因菌の同定と抗菌薬感受性を評価。慢性創傷や治療抵抗性の場合に特に重要。嫌気性培養も実施

3
画像診断(X線・超音波)5,000〜10,000円

骨折・異物の有無を確認。交通事故では胸部X線で気胸・肺挫傷を除外。超音波で膿瘍の範囲や異物の局在を評価

4
血液検査(CBC・生化学・FeLV/FIV)8,000〜15,000円

感染の重症度評価(白血球数・CRP)、全身状態の把握。咬傷歴のある猫ではFeLV/FIV検査が重要(唾液を介した感染リスク)

自宅での対応

  • 傷口を清潔な水で洗い流す
  • 化膿を防ぐため傷口を舐めさせない
  • 出血がある場合は清潔なガーゼで圧迫する

傷・化膿の記録をつけましょう

CatsMeアプリで愛猫の傷・化膿パターンを記録しておくと、獣医師の診察がスムーズに進みます。

治療法

創傷洗浄・デブリードマン

治療の基本。生理食塩水または希釈消毒液で創部を十分に洗浄し、汚染・壊死組織を除去。膿瘍は切開排膿し、ドレーンを留置して排液を促進。過酸化水素水やアルコールは組織障害性があるため使用しない

主な薬剤
生理食塩水クロルヘキシジン希釈液(0.05%)ペンローズドレーン
予後

適切な洗浄とデブリードマンで大多数の創傷は良好に治癒。膿瘍は排膿後1〜2週間で治癒

外科的縫合・再建

清潔で新鮮な裂傷は一次縫合。汚染創は洗浄後に開放管理(二次治癒)または遅延一次縫合。広範な組織欠損では皮弁術による再建が必要な場合も

主な薬剤
全身麻酔薬局所麻酔薬(リドカイン)縫合糸
予後

一次縫合創は7〜14日で治癒。二次治癒はより長期間要するが良好な結果。大規模再建術の予後は個別に異なる

抗菌薬療法

咬傷・感染創に対する全身性抗菌薬投与。Pasteurella multocidaに有効なアモキシシリン-クラブラン酸が第一選択。嫌気性菌カバーにメトロニダゾール併用。3〜4週間の投与が目安

主な薬剤
アモキシシリン-クラブラン酸クリンダマイシンメトロニダゾールセファレキシン
予後

適切な抗菌薬投与と排膿で良好。培養感受性試験に基づく選択で治療成功率向上

疼痛管理・支持療法

外傷に伴う疼痛の適切な管理。NSAIDs(メロキシカム)やオピオイド(ブプレノルフィン)の投与。脱水に対する輸液療法。エリザベスカラーで創部の保護

主な薬剤
メロキシカムブプレノルフィンガバペンチン乳酸リンゲル液
予後

適切な疼痛管理で治癒が促進される。重度の多発外傷は集中治療が必要で予後は重症度による

疫学データ

有病率

猫の外傷は動物病院受診理由の上位。未去勢雄の屋外猫は咬傷リスクが最も高く、去勢により喧嘩頻度が大幅に減少する。交通事故は屋外猫の主要な外傷原因

年齢分布

咬傷は1〜5歳の若齢〜中齢猫に多い。高所落下は全年齢。交通事故は屋外アクセスのある全年齢の猫

好発品種

品種を問わない(屋外猫、未去勢雄に多い)

治療費の目安

軽度外傷(洗浄・投薬):3,000〜10,000円、膿瘍(切開排膿・投薬):10,000〜30,000円、縫合処置:20,000〜50,000円、重度外傷(手術・入院):50,000〜300,000円

関連する症状

傷・化膿に関するよくある質問

Q. 猫が傷・化膿を見せる原因は何ですか?

猫の傷・化膿の主な原因には、猫同士のケンカ、事故・外傷、手術後の傷、皮膚感染、異物による傷があります。

Q. 猫の傷・化膿はいつ病院に行くべきですか?

緊急大きな傷・出血が止まらない

早めに腫れて熱を持つ傷

Q. 猫の傷・化膿の自宅での対処法は?

  • 傷口を清潔な水で洗い流す
  • 化膿を防ぐため傷口を舐めさせない
  • 出血がある場合は清潔なガーゼで圧迫する

Q. 猫の傷・化膿の治療費はどのくらいですか?

猫の傷・化膿に関連する治療費の目安は軽度外傷(洗浄・投薬):3,000〜10,000円、膿瘍(切開排膿・投薬):10,000〜30,000円、縫合処置:20,000〜50,000円、重度外傷(手術・入院):50,000〜300,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。

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