猫のトイレ以外で排泄
トイレ以外の場所でおしっこやうんちをする行動です。行動的な問題の場合と、病気が原因の場合があります。
トイレ以外で排泄の要点まとめ
- 主な原因
- 膀胱炎・尿路疾患の痛み、トイレの環境が不適切、ストレス・不安、マーキング行動 など
- 緊急受診
- 血尿や排尿困難を伴う
- 自宅対応
- トイレの数を増やす(猫の数+1個)。トイレの砂や場所を見直す
- 治療費目安
- 医学的原因の検査・治療:10,000〜50,000円、行動カウンセリング:5,000〜15,000円/回、フェリウェイディフューザー:約3,000〜5,000円/月、薬物療法(抗不安薬):3,000〜8,000円/月
病態生理
トイレ以外での排尿(不適切排尿/ペリウリア)は、医学的原因と行動学的原因の両方を含む複合的な問題である。医学的には、膀胱炎・尿路結石・尿道閉塞など下部尿路疾患による頻尿・排尿痛・尿意切迫が原因で、猫がトイレに到達する前に排尿してしまう、またはトイレを痛みの場所として学習的に回避する。多飲多尿を引き起こす全身疾患(CKD、糖尿病、甲状腺機能亢進症)では尿量増加によりトイレが汚れやすくなり、清潔を好む猫がトイレ外で排尿するようになる。関節炎などの運動器疾患ではトイレへのアクセスが困難となる。行動学的には、尿スプレー(マーキング)と不適切排泄の2タイプに大別される。尿スプレーは立位で垂直面に少量の尿を噴霧する行動で、縄張り・不安・葛藤に関連したコミュニケーション手段である。不適切排泄は通常の排尿姿勢(蹲踞)で水平面に通常量の尿を排泄するもので、トイレ環境の不満(砂の種類、清潔度、サイズ、設置場所)や同居猫との社会的ストレスが原因となる。猫の不適切排尿の60%にFLUTDの既往があるとの報告があり、医学的・行動学的要因は相互に関連している。
考えられる原因
- 膀胱炎・尿路疾患の痛み
- トイレの環境が不適切
- ストレス・不安
- マーキング行動
- 関節炎でトイレに入れない
- 認知症(シニア猫)
鑑別診断
トイレ以外での排尿の最も一般的な医学的原因。排尿痛・尿意切迫によりトイレに間に合わない、またはトイレを疼痛と関連付けて回避するようになる。血尿・頻尿・排尿痛を伴う。ストレス因子(環境変化、多頭飼育)と強く関連。尿検査で血尿・蛋白尿だが培養陰性。症状は5〜7日で自然軽快するが再発しやすい
立位で尾を立て、垂直面に少量の尿を噴霧する行動。壁、家具の脚、カーテンなどに好発。通常のトイレは正常に使用している場合が多い。去勢雄猫の10%、避妊雌猫の5%に見られる。多頭飼育環境、新しい猫の導入、戸外の猫の存在がトリガーとなる。縄張り意識・不安・葛藤に関連した転位行動
蹲踞姿勢で水平面に通常量の尿を排泄(スプレーとの鑑別点)。トイレの清掃不足、猫砂の種類・深さへの嗜好不一致、トイレのサイズ(体長の1.5倍未満)、カバー付きトイレ、騒がしい設置場所が原因。猫の数+1個のトイレが理想。特定の場所にのみ排泄する傾向がある場合はその場所の基質への嗜好を疑う
同居猫との対立・競合によるストレスが原因。トイレへのアクセスを他の猫にブロックされている場合もある。引っ越し、家族構成の変化、新しいペットの導入後に発症。マーキング行動と不適切排泄の両方のパターンが見られる。フェリウェイ(合成フェロモン)やトイレの分散配置が有効
結石による膀胱粘膜刺激と排尿痛がトイレ外排尿の原因となる。血尿・頻尿を伴う。トイレ内で排尿姿勢をとるが痛みで中断し、トイレ外で少量ずつ排尿することがある。X線・超音波で結石を確認。ストルバイトとシュウ酸カルシウムが大半
多飲多尿による尿量増加でトイレが汚れやすくなり、清潔を好む猫がトイレ外で排尿。大量の薄い尿を排泄。体重減少・食欲不振・嘔吐を伴う。血液検査でBUN・クレアチニン・SDMA上昇、尿検査で尿比重低下
関節痛によりトイレの縁をまたぐ動作が困難になり、トイレ付近で排尿。高い縁のトイレやカバー付きトイレに入れない。階段の昇降困難、ジャンプの回避、動作の緩慢さを伴う。12歳以上の猫の約90%に何らかの関節変性が認められる。低い縁のトイレへの変更で改善
飼い主の外出中や不在時にトイレ外排尿が発生。飼い主の所有物(ベッド、衣類)に排尿することが多い。過度の鳴き声、過剰グルーミング(脱毛)、食欲変動を伴うことがある。帰宅時の過度な歓迎行動。行動学的評価と環境改善、必要に応じて抗不安薬の処方
高齢猫の認知機能低下により、トイレの場所を忘れる・見つけられなくなる。夜間の鳴き声増加、方向感覚の喪失、睡眠サイクルの変化、社会的交流の変化を伴う(DISHA徴候)。15歳以上の猫の50%以上に何らかの認知機能低下。他の医学的原因を除外した上で診断
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 一度だけの粗相 | 経過観察 |
| 繰り返しトイレ外で排泄 | 早めに受診 |
| 血尿や排尿困難を伴う | 緊急受診 |
診断の進め方
最も重要な初期ステップ。排尿の姿勢(立位スプレーvs蹲踞)、場所(垂直面vs水平面)、量(少量vs通常量)、頻度、発症時期、環境変化の有無、トイレの数・種類・設置場所・清掃頻度、同居猫の数と関係性、ストレス因子を詳細に聴取。ビデオ撮影も有用
医学的原因の除外が第一優先。膀胱穿刺尿で尿一般・尿沈渣・尿培養を実施。血尿・結晶→FLUTD、糖尿→糖尿病、尿比重低下→CKD/甲状腺機能亢進症、細菌・白血球→UTIを評価。10歳以上では必ず尿培養を追加
全身疾患の除外。腎機能(BUN、クレアチニン、SDMA)、血糖値、肝機能、電解質、甲状腺ホルモン(T4、高齢猫では必須)を評価。糖尿病、CKD、甲状腺機能亢進症がトイレ外排尿の原因となる多飲多尿を引き起こしていないか確認
結石、膀胱腫瘤、腎臓の形態異常を評価。関節X線で変形性関節症の評価(高齢猫でトイレの縁をまたぐことが困難な場合)。超音波で膀胱壁肥厚や腎臓の変化を確認
医学的原因が除外された場合、行動学的評価を実施。スプレーvs不適切排泄の鑑別、トイレ嗜好テスト(複数の砂種を並べて嗜好を評価)、環境ストレスの評価、多頭飼育の社会的動態の分析。専門の動物行動学獣医師への紹介も検討
自宅での対応
- トイレの数を増やす(猫の数+1個)
- トイレの砂や場所を見直す
- 粗相した場所を酵素系洗剤で徹底洗浄する
- ストレス要因がないか確認する
治療法
医学的原因の治療
FICに対するMEMO(環境エンリッチメント)・飲水量増加・ストレス管理、細菌性膀胱炎に対する抗菌薬、結石症に対する食事療法・外科治療、CKD・糖尿病・甲状腺機能亢進症に対する各疾患の標準治療、関節炎に対する疼痛管理。医学的原因の治療により約50〜75%の症例でトイレ外排尿が改善
医学的原因が特定・治療された場合、予後は良好。基礎疾患のコントロールが鍵
トイレ環境の最適化
猫の数+1個のトイレを異なる場所に設置。毎日のトイレ清掃(理想は排泄ごと)。猫砂は細かい鉱物系(ベントナイト)が多くの猫に好まれる。トイレサイズは体長の1.5倍以上。カバーなしの浅型が高齢猫に適切。静かでアクセスしやすい場所に設置。不適切排尿の場所は酵素系クリーナーで徹底清掃
トイレ環境の改善だけで30〜50%の症例が改善
行動学的治療(環境療法・薬物療法)
フェリウェイ(合成F3フェロモン)ディフューザーの使用で環境の安心感を提供。社会的ストレスの軽減(リソースの分散、垂直空間の提供、隠れ場所の確保)。スプレー行動に対する薬物療法としてクロミプラミン(0.5mg/kg/日)またはフルオキセチン(1mg/kg/日)が有効。薬物療法単独では不十分で、環境改善との併用が必要
薬物療法+環境改善の併用で75〜90%に改善。薬物療法単独では効果不十分。再発防止には環境管理の継続が必要
認知機能障害・高齢猫への対応
トイレへのアクセスを容易にする環境改善(低い縁のトイレ、トイレの増設、各階へのトイレ設置)。夜間の照明確保。認知機能障害に対するサプリメント(SAMe、DHA/EPA、抗酸化物質)。重症例ではセレギリンなどの薬物療法を検討
認知機能障害は進行性だが、環境改善とサプリメントでQOLの維持が可能
疫学データ
猫の不適切排尿は猫の行動問題で最も一般的であり、全飼い猫の約10%に見られる。猫の遺棄・安楽死の主要な理由の一つ。不適切排尿を呈する猫の60%にFLUTDの既往。多頭飼育環境でリスクが増加
FIC関連は1〜10歳、マーキングは性成熟後、多飲多尿関連は7歳以上、関節炎・認知機能障害は10歳以上で増加
品種を問わないが、シャム・オリエンタル系は行動学的問題がやや多い傾向
医学的原因の検査・治療:10,000〜50,000円、行動カウンセリング:5,000〜15,000円/回、フェリウェイディフューザー:約3,000〜5,000円/月、薬物療法(抗不安薬):3,000〜8,000円/月
参考文献
- トイレ以外での排尿 — JBVP 日本臨床獣医学フォーラム
- Common Risk Factors for Urinary House Soiling (Periuria) in Cats and Its Differentiation — PMC / Journal of Veterinary Internal Medicine
- Diagnosis and Management of Feline Urine Marking — Today's Veterinary Practice
- 2014 AAFP/ISFM Guidelines for Diagnosing and Solving House-soiling Behavior in Cats — American Association of Feline Practitioners
- 不適切な排尿、スプレー行動 — Toletta Cats 獣医師監修 ねこ病気事典
トイレ以外で排泄に関するよくある質問
Q. 猫がトイレ以外で排泄を見せる原因は何ですか?
猫のトイレ以外で排泄の主な原因には、膀胱炎・尿路疾患の痛み、トイレの環境が不適切、ストレス・不安、マーキング行動、関節炎でトイレに入れない、認知症(シニア猫)があります。
Q. 猫のトイレ以外で排泄はいつ病院に行くべきですか?
緊急血尿や排尿困難を伴う
早めに繰り返しトイレ外で排泄
Q. 猫のトイレ以外で排泄の自宅での対処法は?
- トイレの数を増やす(猫の数+1個)
- トイレの砂や場所を見直す
- 粗相した場所を酵素系洗剤で徹底洗浄する
- ストレス要因がないか確認する
Q. 猫のトイレ以外で排泄の治療費はどのくらいですか?
猫のトイレ以外で排泄に関連する治療費の目安は医学的原因の検査・治療:10,000〜50,000円、行動カウンセリング:5,000〜15,000円/回、フェリウェイディフューザー:約3,000〜5,000円/月、薬物療法(抗不安薬):3,000〜8,000円/月です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。