猫の排尿困難
尿が出にくい、またはまったく出ない症状です。特にオス猫の尿路閉塞は命に関わる緊急事態で、24時間以内に治療しないと死に至る可能性があります。
排尿困難の要点まとめ
- 主な原因
- 尿路結石による閉塞、尿道プラグ、膀胱炎による腫れ、尿道の腫瘍 など
- 緊急受診
- トイレでいきむが出ない、12時間以上尿が出ない
- 自宅対応
- 尿が出ているか確認する(トイレ砂のチェック)。水分を多く摂取させる
- 治療費目安
- 非閉塞性膀胱炎:5,000〜15,000円/回、尿道閉塞(緊急処置+入院):中央値195,620円(平均224,694円)、会陰尿道瘻術:150,000〜300,000円、膀胱切開術(結石除去):100,000〜200,000円
病態生理
排尿困難(ディスウリア)は排尿時に疼痛や困難を伴う状態であり、努責(ストランガリア)と合わせて下部尿路の機能的・器質的障害を示す。正常な排尿は、膀胱の伸展受容体からの信号が仙髄排尿中枢を介して副交感神経を活性化し、排尿筋(デトルーサー筋)の収縮と尿道括約筋の弛緩が協調的に起こることで成立する。この排尿メカニズムのいずれかが障害されると排尿困難となる。尿道の機械的閉塞(結石、尿道栓子、腫瘍)では尿道内腔が狭小化し排尿に高い腹圧が必要となる。膀胱・尿道の炎症(FIC、細菌性膀胱炎)では粘膜浮腫・筋攣縮により機能的狭窄が生じる。神経因性膀胱では脊髄疾患や仙骨神経障害により排尿筋の収縮不全や尿道括約筋の弛緩障害が起こる。特に雄猫は尿道が細く長い(ペニス部尿道の内径約0.7mm)ため、わずかな閉塞性病変でも排尿困難を呈しやすい。尿道閉塞が持続すると膀胱過伸展による排尿筋損傷、腎後性急性腎障害、高カリウム血症を引き起こし、24〜48時間で致死的となる緊急疾患である。
考えられる原因
- 尿路結石による閉塞
- 尿道プラグ
- 膀胱炎による腫れ
- 尿道の腫瘍
- 神経障害
鑑別診断
雄猫の最も重篤な排尿困難の原因。頻回のトイレ通いと排尿努力にもかかわらず尿が出ない〜ごく少量。膀胱が石のように硬く膨満。進行すると元気消失・嘔吐・低体温・徐脈(高カリウム血症)。尿道栓子(粘液+結晶+細胞片の混合物)が最多原因。触診で膨満した膀胱を確認、血液検査で電解質異常を評価。緊急カテーテル挿入が必要
排尿困難は膀胱・尿道粘膜の炎症による機能的狭窄と疼痛による排尿筋の攣縮で生じる。血尿・頻尿を伴い、トイレで長時間排尿姿勢をとる。雄猫では閉塞性FIC(尿道栓子形成を伴う)と非閉塞性FICの鑑別が重要。非閉塞性では膀胱は膨満せず、少量の尿が排出される
膀胱結石が尿道に移動して部分閉塞を引き起こすと排尿困難となる。ストルバイト結石はアルカリ尿で形成され若齢猫に多い。シュウ酸カルシウム結石は酸性尿で形成され中高齢猫に多い。X線検査で結石を確認。排尿中に結石が尿道を一過性に閉塞し、間欠的な排尿困難を呈することもある
高齢猫、特に基礎疾患(糖尿病、CKD、甲状腺機能亢進症)を持つ猫に多い。膀胱・尿道粘膜の炎症性腫脹により排尿困難を呈する。混濁尿・悪臭尿・膿尿を伴うことが多い。尿沈渣で白血球・細菌を確認、尿培養で確定診断
繰り返しのカテーテル挿入や尿道損傷後の瘢痕形成により尿道が狭窄。尿線が細くなり、排尿に時間がかかる。排尿努力は見られるが完全閉塞には至らないことが多い。造影尿道X線検査で狭窄部位を確認。会陰尿道瘻術後の合併症としても発生しうる
尿道閉塞後の膀胱過伸展による排尿筋損傷、脊髄疾患(椎間板ヘルニア、外傷、腫瘍)、骨盤神経損傷により排尿反射が消失。膀胱は大きく膨満するが排尿努力が見られない〜弱い。圧迫排尿で尿が容易に排出される(上位運動ニューロン障害では排出困難)。神経学的検査で障害部位を特定
高齢猫で慢性・進行性の排尿困難。膀胱三角部に好発し、尿道口を圧迫・閉塞して排尿困難を引き起こす。抗菌薬・抗炎症薬に反応しない持続的な下部尿路症状として疑う。移行上皮癌(TCC)とリンパ腫が多い。超音波検査で腫瘤確認、組織生検で確定診断
未去勢の雄猫でまれに見られる。前立腺の肥大や膿瘍が尿道を圧迫し排尿困難を引き起こす。猫では犬に比べて非常にまれ。直腸検査・超音波検査で評価。去勢手術が根本治療
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 少量ずつは出ている | 早めに受診 |
| トイレでいきむが出ない | 緊急受診 |
| 12時間以上尿が出ない | 緊急受診 |
診断の進め方
排尿困難の緊急性評価の第一歩。膀胱の大きさ・硬さ・圧痛を触診で評価。膀胱が大きく硬い場合は尿道閉塞を強く疑い、緊急対応を開始。膀胱が小さい場合は非閉塞性の原因を検討。全身状態(脱水、低体温、徐脈)の評価も重要
尿道閉塞が疑われる場合は緊急で実施。高カリウム血症(致死的不整脈のリスク)、BUN・クレアチニン上昇(腎後性腎障害)、代謝性アシドーシスを評価。心電図モニタリングも併用。高齢猫では基礎疾患のスクリーニングとして実施
膀胱穿刺尿で尿一般検査(比重、pH、潜血、結晶、細菌)と尿沈渣を評価。閉塞解除後に採取。10歳以上の猫や基礎疾患がある場合は尿培養・感受性試験を実施。結晶の種類で結石タイプを推定
腹部X線で結石の有無・位置・大きさを評価(シュウ酸カルシウムは高輝度、ストルバイトは中輝度)。超音波検査で膀胱壁肥厚、腫瘤、結石、尿管拡張、腎盂拡張を評価。造影尿道X線検査は尿道狭窄の評価に有用
排尿反射の消失が疑われる場合に実施。会陰反射、肛門括約筋の緊張度、後肢の感覚・運動機能を評価。脊髄X線・MRIで脊髄病変を検索。尿道閉塞解除後も排尿困難が持続する場合に検討
自宅での対応
- 尿が出ているか確認する(トイレ砂のチェック)
- 水分を多く摂取させる
- オス猫で尿が出ない場合はすぐに病院へ
治療法
緊急的尿道閉塞解除
尿道閉塞は救急疾患であり、初期安定化(静脈輸液、高カリウム血症の補正)後、全身麻酔または鎮静下でカテーテルを用いた尿道閉塞の解除を行う。閉塞解除後は留置カテーテルを24〜72時間留置し、膀胱洗浄・輸液による利尿で回復を図る
早期に解除されれば予後良好。再閉塞率は約30〜40%。3回以上の再発ではPU手術を検討
内科的管理(炎症・疼痛管理)
非閉塞性の排尿困難に対し、NSAIDsや鎮痛薬による疼痛管理、尿道平滑筋弛緩薬による尿道攣縮の解除、抗菌薬(細菌感染確認時)を使用。FICに対してはMEMO(多面的環境改善)が最も重要な治療介入
非閉塞性FICの85%は7日以内に自然軽快するが再発しやすい
外科的治療(会陰尿道瘻術)
再発性尿道閉塞(3回以上の閉塞歴)や保存的治療に反応しない症例に対し、狭いペニス部尿道を切除し、より広い骨盤部尿道を会陰部に開口する手術。術後は尿路感染症のリスクがやや上昇するため、定期的な尿検査が推奨される
生存期間中央値3.5年。93%の飼い主がQOLを良好と評価。短期死亡率5.6%
結石症に対する治療
ストルバイト結石は療法食(溶解食)による内科的溶解(2〜4週間で50%以上縮小)。シュウ酸カルシウム結石は外科的除去(膀胱切開術)後、再発予防のための療法食・飲水量増加。尿道に嵌頓した小結石はカテーテルによる逆行性水圧洗浄で膀胱内に戻す
ストルバイトは溶解率が高い。シュウ酸カルシウムは外科除去後の再発率が約20〜40%
疫学データ
排尿困難はFLUTDの主要症状であり、全猫の1.5〜3%に影響。雄猫の尿道閉塞は去勢雄猫で最も多く、FLUTDで来院する雄猫の約20〜35%が閉塞性
1〜10歳に好発。10歳未満はFIC・尿道栓子が主因、10歳以上は細菌感染・結石・腫瘍の割合が増加
品種を問わないが、ペルシャ、ヒマラヤン、アメリカンショートヘアでやや多い
非閉塞性膀胱炎:5,000〜15,000円/回、尿道閉塞(緊急処置+入院):中央値195,620円(平均224,694円)、会陰尿道瘻術:150,000〜300,000円、膀胱切開術(結石除去):100,000〜200,000円
参考文献
- Lower Urinary Tract Disease in Cats — MSD Veterinary Manual
- Obstructive Uropathy in Dogs and Cats — MSD Veterinary Manual
- Feline Lower Urinary Tract Disease — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Guarded long-term prognosis in male cats with urethral obstruction — PMC / Journal of Veterinary Emergency and Critical Care
- 排尿障害 — FPC ペット保険
排尿困難に関するよくある質問
Q. 猫が排尿困難を見せる原因は何ですか?
猫の排尿困難の主な原因には、尿路結石による閉塞、尿道プラグ、膀胱炎による腫れ、尿道の腫瘍、神経障害があります。
Q. 猫の排尿困難はいつ病院に行くべきですか?
緊急トイレでいきむが出ない
緊急12時間以上尿が出ない
早めに少量ずつは出ている
Q. 猫の排尿困難の自宅での対処法は?
- 尿が出ているか確認する(トイレ砂のチェック)
- 水分を多く摂取させる
- オス猫で尿が出ない場合はすぐに病院へ
Q. 猫の排尿困難の治療費はどのくらいですか?
猫の排尿困難に関連する治療費の目安は非閉塞性膀胱炎:5,000〜15,000円/回、尿道閉塞(緊急処置+入院):中央値195,620円(平均224,694円)、会陰尿道瘻術:150,000〜300,000円、膀胱切開術(結石除去):100,000〜200,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。