猫の血尿
尿に血が混じる症状です。ピンク色や赤色の尿、または尿にポツポツと血が混じることがあります。猫の泌尿器疾患の代表的な症状の一つです。
血尿の要点まとめ
- 主な原因
- 膀胱炎(細菌性・特発性)、尿路結石、尿路感染症、膀胱の腫瘍 など
- 緊急受診
- おしっこが出ない・ぐったり
- 自宅対応
- 水分摂取量を増やす。トイレを清潔に保つ
- 治療費目安
- 軽症(検査+内服):5,000〜30,000円、中等症(入院含む):30,000〜80,000円、尿道閉塞緊急治療:50,000〜200,000円、結石手術:100,000〜300,000円、PU手術:150,000〜350,000円
病態生理
血尿は泌尿器系のいずれかの部位(腎臓、尿管、膀胱、尿道)から血液が尿中に混入する状態である。肉眼的血尿と顕微鏡的血尿に分類される。膀胱粘膜の炎症(特発性膀胱炎、感染性膀胱炎)では、粘膜のびらん・潰瘍形成により血管が露出し出血が起こる。尿路結石では結石が粘膜を機械的に損傷し出血を引き起こす。腎疾患では糸球体基底膜の障害により赤血球が濾過され腎性血尿となる。腫瘍では新生血管の脆弱性や腫瘍の浸潤による血管破綻が原因となる。凝固異常(殺鼠剤中毒、DICなど)では全身性の出血傾向の一症状として血尿が出現する。猫では特に特発性膀胱炎(FIC)が最も頻度が高く、ストレスや神経内分泌系の異常による膀胱粘膜のグリコサミノグリカン(GAG)層の欠損が粘膜透過性を亢進させ、尿中成分の刺激により炎症・出血が生じるとされる。
考えられる原因
- 膀胱炎(細菌性・特発性)
- 尿路結石
- 尿路感染症
- 膀胱の腫瘍
- 外傷
- 血液凝固障害
鑑別診断
10歳未満の猫の下部尿路疾患の55〜69%を占める最多原因。ストレス因子との関連が強い。細菌培養陰性、結石なしで膀胱炎症状を呈する。血尿・頻尿・排尿痛を伴い、症状は数日〜1週間で自然軽快することが多いが再発を繰り返す
ストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石が大半を占める。結石が膀胱粘膜を刺激し血尿・頻尿・排尿困難を引き起こす。X線・超音波で結石を確認可能。尿pH・結晶の種類で鑑別
10歳未満の猫では比較的少ないが、高齢猫や免疫抑制状態の猫に多い。大腸菌、エンテロコッカスが主な起因菌。尿培養で細菌が検出される。混濁尿・悪臭尿を伴うことがある。糖尿病やCKDなどの基礎疾患に続発することが多い
雄猫の緊急疾患。尿道栓子や結石による尿道閉塞。完全閉塞では無尿となり急性腎後性腎不全・高カリウム血症を引き起こす。膀胱の著明な膨満、激しい排尿努責、元気消失・嘔吐。12〜24時間で致死的となりうる
腎実質の炎症や変性により腎性血尿が生じる。慢性腎臓病では多飲多尿・体重減少・食欲不振を伴う。急性腎障害ではユリ科植物中毒やNSAIDs中毒が原因となることがある。BUN・クレアチニン・SDMA上昇
常染色体優性遺伝。ペルシャ猫の約38%が罹患。両側腎臓に多数の嚢胞が形成され、進行すると慢性腎不全に至る。嚢胞破裂や感染により血尿が出現。超音波検査で嚢胞を確認、遺伝子検査で確定診断
猫では稀(推定有病率0.18%)。高齢猫に発生。持続する血尿、排尿困難、抗生物質に反応しない膀胱炎症状。超音波で膀胱壁の腫瘤を確認。生検で確定診断。予後不良で平均生存期間6〜12ヶ月
抗凝固性殺鼠剤の摂取により、ビタミンK依存性凝固因子が枯渇。血尿だけでなく消化管出血・皮下出血・鼻出血など全身性出血を伴う。PT・APTT延長。殺鼠剤への暴露歴が重要
交通事故や高所落下による外傷性血尿。腹痛、ショック症状を伴うことがある。膀胱破裂では腹膜炎・尿腹症を発症。造影検査で膀胱の損傷部位を確認
下部尿路感染の上行性波及による腎盂の細菌感染。発熱・腰背部痛・嘔吐・元気消失を伴う。尿培養陽性、白血球円柱の出現。超音波で腎盂拡張を確認
シュウ酸カルシウム結石が尿管に嵌頓し水腎症を引き起こす。片側性なら代償され無症状のこともあるが、両側性では急性腎後性腎不全となる。腹部X線・超音波で確認。近年増加傾向
免疫介在性・感染症(FeLV、FIV)・骨髄疾患などによる血小板減少。点状出血・紫斑・歯肉出血などの出血傾向を伴う。CBC上の血小板数低下で診断
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 尿がやや赤みがかっている | 早めに受診 |
| 明らかな血尿・頻尿を伴う | 早めに受診 |
| おしっこが出ない・ぐったり | 緊急受診 |
診断の進め方
血尿の性状(全尿血尿か初尿血尿か終末血尿か)、排尿の様子(頻尿・努責・疼痛の有無)、食事内容、環境変化の有無、中毒物質への暴露歴を聴取。触診で膀胱の大きさ・疼痛、腎臓の大きさ・形状を評価。雄猫では陰茎先端の閉塞所見を確認
膀胱穿刺(シスト穿刺)による無菌的採尿が理想的。尿比重、尿pH、尿蛋白、潜血反応、尿沈渣(赤血球・白血球・結晶・細菌・円柱)を評価。尿培養で細菌感染の有無と起因菌を同定し、抗菌薬感受性を確認
CBC(貧血・血小板減少・白血球増加の有無)、血液生化学(BUN・クレアチニン・SDMA・電解質・血糖値・肝酵素)で腎機能・全身状態を評価。高齢猫ではT4も追加。凝固異常疑いではPT・APTTを測定
腹部X線で放射線不透過性結石(ストルバイト・シュウ酸カルシウム)を検出。腹部超音波で膀胱壁の肥厚・腫瘤、腎臓の形態(嚢胞・腎盂拡張・水腎症)、尿管の拡張・結石を評価。膀胱腫瘍の検出にも有用
通常検査で確定診断に至らない場合や腫瘍が疑われる場合に実施。膀胱鏡検査で膀胱粘膜の直接観察と生検が可能。CT検査は尿管結石の正確な位置確認や腫瘍のステージングに有用。全身麻酔が必要
自宅での対応
- 水分摂取量を増やす
- トイレを清潔に保つ
- 尿の色と量を記録する
治療法
環境修正・ストレス管理(FIC治療の中心)
特発性膀胱炎に対する多角的環境修正(MEMO: Multimodal Environmental Modification)が最も重要な治療。水分摂取量の増加(ウェットフード移行、噴水式給水器)、トイレ環境の最適化(数・清潔さ・設置場所)、ストレス軽減(フェリウェイ使用、遊び時間の確保、安全な隠れ場所の提供)を包括的に実施
多くの症例で症状は数日〜1週間で軽快。環境修正により再発率を有意に低減可能。ただし長期的な管理が必要で約50%が12ヶ月以内に再発
内科的治療(感染症・結石の溶解療法)
細菌性膀胱炎に対する抗菌薬治療(尿培養感受性に基づく)。ストルバイト結石に対しては食事療法による溶解が可能(療法食で尿pHを酸性化)。疼痛管理として鎮痛薬・抗炎症薬を併用。慢性腎臓病を背景とする場合は腎臓の治療も並行
単純性UTIは抗菌薬で7〜10日以内に治癒率高い。ストルバイト結石は食事療法で2〜6週で溶解可能。シュウ酸カルシウム結石は食事で溶解不能
外科的治療
食事溶解不能な結石(シュウ酸カルシウム結石)に対する膀胱切開術。再発性尿道閉塞に対する会陰尿道造瘻術(PU手術)。尿管結石に対するSUBシステム(皮下尿管バイパス)設置。膀胱腫瘍に対する腫瘤切除術
膀胱切開術は予後良好だが結石再発に注意。PU手術の成功率は高いが術後UTIのリスクあり。SUBシステムは尿管結石に有効だが長期管理が必要。膀胱腫瘍は予後不良(中央生存期間6〜12ヶ月)
緊急治療(尿道閉塞)
尿道閉塞は救急疾患。全身麻酔下で尿道カテーテルを挿入し閉塞を解除。高カリウム血症に対してはグルコン酸カルシウム・インスリン-グルコース療法を実施。留置カテーテルを24〜72時間留置し、静脈輸液で閉塞後利尿を管理
退院率は90%以上。ただし51%が再発性LUTS、36%が再閉塞を経験。21%が最終的に安楽死。早期治療が生存率を大きく左右
疫学データ
猫の下部尿路疾患(FLUTD)の有病率は全猫の0.5〜1%。動物病院受診猫の4.5〜8%がFLUTD関連。FICが最多で55〜69%、次いで尿路結石15〜22%、尿道栓子10〜21%、UTI1〜8%
FICは2〜6歳の若中齢に好発。UTIは10歳以上の高齢猫に多い。膀胱腫瘍は10歳以上。PKDは3〜10歳で症状出現
品種を問わないがペルシャ・ヒマラヤン・ロシアンブルーは結石リスクが高い、室内飼育・肥満・運動不足の猫に多い
軽症(検査+内服):5,000〜30,000円、中等症(入院含む):30,000〜80,000円、尿道閉塞緊急治療:50,000〜200,000円、結石手術:100,000〜300,000円、PU手術:150,000〜350,000円
参考文献
- Feline Lower Urinary Tract Disease — Cornell University College of Veterinary Medicine
- Blood in Cat Urine | Hematuria in Cats — PetMD
- 2025 iCatCare consensus guidelines on the diagnosis and management of lower urinary tract diseases in cats — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- 尿の色が赤 / 猫の病気 — JBVP(日本臨床獣医学フォーラム)
- Feline lower urinary tract disease — PMC
血尿に関するよくある質問
Q. 猫が血尿を見せる原因は何ですか?
猫の血尿の主な原因には、膀胱炎(細菌性・特発性)、尿路結石、尿路感染症、膀胱の腫瘍、外傷、血液凝固障害があります。
Q. 猫の血尿はいつ病院に行くべきですか?
緊急おしっこが出ない・ぐったり
早めに尿がやや赤みがかっている
早めに明らかな血尿・頻尿を伴う
Q. 猫の血尿の自宅での対処法は?
- 水分摂取量を増やす
- トイレを清潔に保つ
- 尿の色と量を記録する
Q. 猫の血尿の治療費はどのくらいですか?
猫の血尿に関連する治療費の目安は軽症(検査+内服):5,000〜30,000円、中等症(入院含む):30,000〜80,000円、尿道閉塞緊急治療:50,000〜200,000円、結石手術:100,000〜300,000円、PU手術:150,000〜350,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。