猫の嘔吐・吐く
猫が胃の内容物を吐き出す症状です。毛球を吐くことは正常な場合もありますが、頻繁な嘔吐や他の症状を伴う場合は注意が必要です。
嘔吐・吐くの要点まとめ
- 主な原因
- 毛球症(ヘアボール)、フードの急な変更、消化器疾患(胃腸炎、膵炎)、異物誤飲 など
- 緊急受診
- 血が混じる・ぐったりしている
- 自宅対応
- 吐いた後は30分〜1時間絶食する。少量ずつ水を与える
- 治療費目安
- 初診料含め軽症5,000〜15,000円、精密検査を含む場合30,000〜80,000円、手術が必要な場合100,000〜300,000円
病態生理
嘔吐は延髄にある嘔吐中枢が末梢性(消化管の求心性迷走神経)または中枢性(化学受容器引金帯:CTZ)の刺激を受けることで誘発される能動的な反射反応である。嘔吐中枢が活性化されると、まず唾液分泌亢進・嚥下運動が起こり、次いで腹壁筋と横隔膜の強い収縮により胃内容物が食道を逆流し口腔から排出される。神経伝達物質としてはサブスタンスP(NK1受容体)、セロトニン(5-HT3受容体)、ドパミン(D2受容体)が嘔吐反射に関与しており、猫では特にNK1受容体経路が主要な役割を果たす。吐出(regurgitation)は食道からの受動的な逆流であり、腹部筋収縮を伴わない点で嘔吐と鑑別される。
考えられる原因
- 毛球症(ヘアボール)
- フードの急な変更
- 消化器疾患(胃腸炎、膵炎)
- 異物誤飲
- 腎臓病の初期症状
- 中毒(植物・薬品)
鑑別診断
毛玉を含む円柱状の嘔吐物が特徴的。食後ではなくグルーミング後に起こることが多い。吐いた後は元気で食欲も正常
急性の嘔吐と下痢を伴う。食事変更やストレスが誘因となることが多い。通常は自然軽快するが脱水に注意
突然の激しい嘔吐、食欲廃絶、腹痛。ひも状異物は特に危険で腸重積や穿孔を起こしうる。若齢猫に多い
慢性的な嘔吐・下痢・体重減少。内視鏡生検で腸粘膜へのリンパ球・形質細胞浸潤を確認。除外診断が必要
多飲多尿、体重減少、脱水を伴う。尿毒症による嘔吐中枢への刺激が原因。BUN・クレアチニン上昇
嘔吐・食欲不振・腹痛・元気消失。猫では症状が非特異的で見逃されやすい。fPLI上昇、腹部超音波で膵臓の腫大・低エコー
多食にもかかわらず体重減少、嘔吐、下痢、多飲多尿、活動性亢進。血清T4値上昇で確定診断
特定のフードで嘔吐や下痢が繰り返される。除去食試験で改善。皮膚症状を伴うこともある
慢性の嘔吐、体重減少、食欲不振。腸壁の肥厚を超音波で確認。内視鏡または開腹生検で確定診断。IBDとの鑑別が重要
肥満猫の食欲廃絶後に発症。嘔吐、黄疸、元気消失。肝酵素上昇、ビリルビン上昇。超音波で肝臓の高エコー
急性嘔吐・下痢・流涎。ユリ科植物は少量でも急性腎不全を起こし致死的。摂取歴の聴取が重要
嘔吐物や便中に虫体が確認されることがある。回虫は子猫に多い。糞便検査で虫卵を確認
若齢猫に多い。腹水や胸水(ウェットタイプ)、発熱、体重減少。高グロブリン血症、A/G比低下
食後の噴出性嘔吐。未消化フードを大量に吐く。造影検査で胃排出遅延を確認
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 1回だけ吐いて元気 | 経過観察 |
| 1日に3回以上吐く | 早めに受診 |
| 血が混じる・ぐったりしている | 緊急受診 |
診断の進め方
嘔吐の頻度・性状・タイミング・吐出との鑑別、食事歴、異物摂取の可能性、ワクチン・駆虫歴を聴取。触診で腹部の疼痛・腫瘤・脱水の程度を評価
CBC、血液生化学(BUN、クレアチニン、肝酵素、電解質、血糖値)、T4(高齢猫)、fPLI(膵炎マーカー)、尿検査で腎機能・代謝疾患を評価
直接塗抹法・浮遊法による寄生虫卵検査、PCRパネル(パルボウイルス、ジアルジア、トリコモナスなど)。下痢を伴う場合は必須
腹部X線で異物・ガス貯留・腸閉塞パターンを確認。腹部超音波で臓器の形態(膵臓の腫大、腸壁の肥厚、腎臓の形態異常、腫瘤)を精査
上記検査で確定診断に至らない慢性嘔吐に対し、上部消化管内視鏡検査を実施。胃・十二指腸の粘膜生検でIBD・リンパ腫を鑑別。全身麻酔が必要
自宅での対応
- 吐いた後は30分〜1時間絶食する
- 少量ずつ水を与える
- 吐いたものの写真を撮っておく(受診時に役立つ)
- フードを消化の良いものに変える
治療法
対症療法(軽症例)
短期間の絶食(12〜24時間)後、少量頻回の消化性の高い食事を開始。輸液による脱水補正。制吐剤投与で嘔吐を抑制
急性胃腸炎など軽症の場合、数日以内に回復。嘔吐が止まらない場合は原因疾患の精査が必要
内科的治療(原因疾患の治療)
確定診断に基づく治療。IBDにはステロイド・免疫抑制剤、膵炎には支持療法と疼痛管理、CKDには食事療法と輸液、甲状腺機能亢進症にはメチマゾール
疾患によって異なる。IBDは長期管理が必要だが多くの症例で良好にコントロール可能。リンパ腫は化学療法の奏効率と組織型に依存
外科的治療
異物による消化管閉塞、腫瘍、幽門狭窄に対して開腹手術を実施。異物摘出術(胃切開術・腸切開術)、腫瘤切除、幽門形成術など
異物摘出は早期対応で予後良好。腸壊死や穿孔を伴う場合は予後が悪化。腫瘍の予後は組織型・ステージに依存
疫学データ
猫の動物病院受診理由で最も多い症状の一つ。猫全体の約10〜15%が年に複数回の嘔吐で受診するとされる
全年齢で発生。若齢では異物誤飲・感染症、中高齢では慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症・腫瘍が原因として増加
品種を問わず発症するが、長毛種(ペルシャ、メインクーン)では毛球症リスクが高い
初診料含め軽症5,000〜15,000円、精密検査を含む場合30,000〜80,000円、手術が必要な場合100,000〜300,000円
参考文献
- Vomiting in Cats — Merck Veterinary Manual
- Mechanisms, causes, investigation and management of vomiting disorders in cats: a literature review — PMC / Journal of Feline Medicine and Surgery
- Acute Vomiting in Cats: Rational Treatment Selection — PMC
- 嘔吐 / 猫の病気 — JBVP(日本臨床獣医学フォーラム)
- Vomiting — Cornell University College of Veterinary Medicine
嘔吐・吐くに関するよくある質問
Q. 猫が嘔吐・吐くを見せる原因は何ですか?
猫の嘔吐・吐くの主な原因には、毛球症(ヘアボール)、フードの急な変更、消化器疾患(胃腸炎、膵炎)、異物誤飲、腎臓病の初期症状、中毒(植物・薬品)があります。
Q. 猫の嘔吐・吐くはいつ病院に行くべきですか?
緊急血が混じる・ぐったりしている
早めに1日に3回以上吐く
Q. 猫の嘔吐・吐くの自宅での対処法は?
- 吐いた後は30分〜1時間絶食する
- 少量ずつ水を与える
- 吐いたものの写真を撮っておく(受診時に役立つ)
- フードを消化の良いものに変える
Q. 猫の嘔吐・吐くの治療費はどのくらいですか?
猫の嘔吐・吐くに関連する治療費の目安は初診料含め軽症5,000〜15,000円、精密検査を含む場合30,000〜80,000円、手術が必要な場合100,000〜300,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。