猫のジャンプできない
以前はジャンプしていた場所に飛び乗らなくなった症状です。関節炎や筋力低下、痛みが原因のことが多いです。
ジャンプできないの要点まとめ
- 主な原因
- 関節炎、肥満、筋力低下(シニア猫)、背骨の異常 など
- 緊急受診
- 急にジャンプできなくなった・後足が動かない
- 自宅対応
- ステップやスロープを設置する。食事場所やトイレのアクセスを改善する
- 治療費目安
- OAの月額管理費:5,000〜15,000円。股関節形成不全手術(FHO):200,000〜350,000円。膝蓋骨脱臼手術:150,000〜300,000円。心臓超音波検査:10,000〜25,000円。HCMの月額管理費:5,000〜15,000円
病態生理
猫のジャンプ能力は後肢の筋力(特に大腿四頭筋・腓腹筋・ハムストリングス)、関節可動域(股関節・膝関節・足根関節)、脊椎の柔軟性、神経系の協調運動制御、視覚による空間認識が統合されて成立する。ジャンプ不能はこれらのいずれかの機能障害により引き起こされる。関節疾患では軟骨変性と滑膜炎による疼痛が荷重時の不快感を引き起こし、猫はジャンプという高負荷運動を回避するようになる。筋萎縮や筋力低下では、体重を持ち上げるための推進力が不足する。神経学的原因では、運動ニューロンの障害による筋収縮の減弱、小脳障害による協調運動失調、前庭障害による平衡感覚の喪失がジャンプ能力を低下させる。心血管系疾患では大動脈血栓塞栓症による急性の後肢虚血が突然のジャンプ不能として発現する。肥満は関節への過剰荷重と筋骨格系のパフォーマンス低下を同時にもたらすリスク因子である。
考えられる原因
- 関節炎
- 肥満
- 筋力低下(シニア猫)
- 背骨の異常
- 後肢の血栓症
- 痛み
鑑別診断
最も一般的な原因。後肢(股関節・膝関節・足根関節)のOAで跳躍時の疼痛によりジャンプを回避。高い場所への移動頻度減少、着地時の躊躇。徐々に進行。X線で関節変性所見。体重管理と疼痛管理が治療の柱
BCS(ボディコンディションスコア)7/9以上。体重過多により関節負荷増大と筋力に対する体重比の悪化でジャンプ力低下。OAの増悪因子にもなる。適切な減量プログラムで改善可能
先天的な股関節の構造異常。後肢の筋萎縮、骨盤肢の跛行、ジャンプや階段の回避。X線で浅い寛骨臼、大腿骨頭の亜脱臼。メインクーンで有病率18〜25%と高頻度
スコティッシュフォールド特有の重度の進行性関節疾患。足根関節の著明な腫大と可動域制限により跳躍が困難に。若齢期から所見が出現。根治療法なし
膝蓋骨の内方または外方脱臼。ジャンプ時に後肢の突然の脱力やスキップ。重度(グレード3-4)では持続的なジャンプ困難。触診で脱臼の確認と整復性を評価
突然発症の後肢麻痺によりジャンプが完全に不能に。激痛で大声で鳴く。後肢の冷感、チアノーゼ、大腿動脈拍動消失。肥大型心筋症が基礎疾患。緊急対応が必要
椎間板ヘルニア、脊椎腫瘍、変形性脊椎症により後肢の運動機能が障害。背部痛、後肢の不全麻痺、排尿障害を伴うことがある。MRIで確定診断
糖尿病の末梢神経合併症。後肢の蹠行(踵を床につけて歩く)が特徴。後肢の筋力低下によりジャンプ力が著しく低下。血糖コントロールにより6〜12ヶ月で改善の可能性
加齢に伴う進行性の筋肉量と筋力の低下。特に後肢の大腿部筋の萎縮が顕著。徐々にジャンプの高さが低下。OAとの併存が多い。適切な栄養(高蛋白食)と運動で進行を遅延
慢性腎臓病に続発する低カリウム血症による筋力低下。全身の脱力感、頸部腹側屈曲、歩行困難。ジャンプ不能は筋力低下の顕著な症状。カリウム補充で速やかに改善
心拍出量低下による運動不耐性。ジャンプ後の開口呼吸、運動量の減少。聴診で心雑音・ギャロップ音。心エコーで左室壁肥厚を確認。BNPバイオマーカーも有用
骨折の癒合不全や関節内骨折後の二次性関節症、靭帯損傷後の関節不安定性。外傷歴あり。受傷部の変形や可動域制限を触診で確認
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 高い場所へのジャンプだけ避ける | 経過観察 |
| 低い場所にもジャンプしなくなった | 早めに受診 |
| 急にジャンプできなくなった・後足が動かない | 緊急受診 |
診断の進め方
飼い主からの詳細な問診(いつから、どの程度、他の症状)と行動観察。体重・BCSの測定。四肢の筋肉量評価、全関節の可動域・疼痛反応、脊椎の触診。神経学的検査(姿勢反応・脊髄反射)で神経原性か整形外科的かを鑑別
股関節・膝関節・足根関節・脊椎のX線撮影。OA、骨折、膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、骨軟骨異形成症、変形性脊椎症の評価。関節の骨棘形成、関節腔狭小化、骨変形を確認
CBC、生化学(電解質含む)、血糖値、甲状腺ホルモン(T4)、BNP(心疾患マーカー)。腎機能、肝機能のスクリーニング。糖尿病、甲状腺機能亢進症、腎臓病の除外
心疾患が疑われる場合に実施。左室壁厚、左房拡大、僧帽弁逆流の評価。HCMの確定診断に不可欠。大動脈血栓塞栓症のリスク評価にも重要
脊髄疾患(椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍)や脳疾患が疑われる場合に実施。関節内構造の詳細評価にはCTが有用。全身麻酔が必要
自宅での対応
- ステップやスロープを設置する
- 食事場所やトイレのアクセスを改善する
- 体重管理を行う
治療法
関節疾患の包括的管理
多角的アプローチ(multimodal management)が推奨される。NSAIDs(メロキシカム)の低用量長期投与、抗NGF抗体製剤(ソレンシア)の月1回注射、関節保護サプリメント、体重管理、環境改善(ステップの設置、低いトイレ、暖かい寝床)を組み合わせる
適切な管理により大多数の猫でジャンプ能力の部分的回復と生活の質の改善が期待できる
外科的治療
股関節形成不全に対する大腿骨頭切除術(FHO)、膝蓋骨脱臼の滑車溝造溝術・脛骨粗面転位術、骨折の整復固定。骨軟骨異形成症に対する関節固定術。脊髄圧迫には減圧手術
FHOは術後3〜6ヶ月で良好な機能回復。膝蓋骨脱臼手術は成功率高い。椎間板ヘルニア手術は歩行機能の維持がある場合予後良好
体重管理・栄養療法
肥満猫の計画的減量(週あたり体重の1〜2%の減少を目標)。高蛋白・低カロリーの減量食。サルコペニア予防のための高品質蛋白質摂取。関節サポート成分配合の療法食の使用
5〜10%の減量でもOA症状の有意な改善が期待できる。適切な栄養管理でサルコペニアの進行を遅延
心血管疾患の管理・緊急治療
HCMに対するアテノロール等のベータ遮断薬、ACE阻害薬。血栓予防にクロピドグレル。大動脈血栓塞栓症の緊急治療には入院管理、疼痛管理、血栓溶解療法を検討。うっ血性心不全にはフロセミド
HCMは無症状期が長いが進行性。血栓塞栓症の急性期致死率約60%。抗血栓療法で再発リスクを低減
疫学データ
ジャンプ能力の低下はOAの最も代表的な行動変化の一つ。OAは6歳以上の猫の61%に放射線学的所見が認められるが、臨床症状として認知されている割合は低い。HCMは猫の約15%に罹患
加齢に伴いOAと筋萎縮の有病率が上昇。6歳を超えると急増し、11歳以上の高齢猫で顕著。HCMは5〜7歳に好発だが全年齢で発生
メインクーン、スコティッシュフォールド、ペルシャ、ラグドール、ブリティッシュショートヘア
OAの月額管理費:5,000〜15,000円。股関節形成不全手術(FHO):200,000〜350,000円。膝蓋骨脱臼手術:150,000〜300,000円。心臓超音波検査:10,000〜25,000円。HCMの月額管理費:5,000〜15,000円
関連する症状
参考文献
- Osteoarthritis in Cats — American College of Veterinary Surgeons
- Hip Dysplasia — Cornell University College of Veterinary Medicine
- 猫がジャンプに失敗したり、ジャンプしようとしてしないのはなぜ? — ねこのきもちWEB MAGAZINE
- Hypertrophic Cardiomyopathy (HCM) — Cornell University College of Veterinary Medicine
- The Prevalence of Feline Hip Dysplasia, Patellar Luxation and Lumbosacral Transitional Vertebrae in Pedigree Cats — PMC / Animals (MDPI)
ジャンプできないに関するよくある質問
Q. 猫がジャンプできないを見せる原因は何ですか?
猫のジャンプできないの主な原因には、関節炎、肥満、筋力低下(シニア猫)、背骨の異常、後肢の血栓症、痛みがあります。
Q. 猫のジャンプできないはいつ病院に行くべきですか?
緊急急にジャンプできなくなった・後足が動かない
早めに低い場所にもジャンプしなくなった
Q. 猫のジャンプできないの自宅での対処法は?
- ステップやスロープを設置する
- 食事場所やトイレのアクセスを改善する
- 体重管理を行う
Q. 猫のジャンプできないの治療費はどのくらいですか?
猫のジャンプできないに関連する治療費の目安はOAの月額管理費:5,000〜15,000円。股関節形成不全手術(FHO):200,000〜350,000円。膝蓋骨脱臼手術:150,000〜300,000円。心臓超音波検査:10,000〜25,000円。HCMの月額管理費:5,000〜15,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。