猫の震え
猫の体が震える症状です。寒さ、恐怖、痛み、低血糖など、さまざまな原因があります。
震えの要点まとめ
- 主な原因
- 痛み、恐怖・ストレス、寒さ・低体温、低血糖 など
- 緊急受診
- 震え+ぐったり・痙攣
- 自宅対応
- 暖かい場所に移動させる。ストレス要因を取り除く
- 治療費目安
- 中毒の緊急治療:30,000〜100,000円(入院費含む)。FIP治療:300,000〜500,000円(84日間の抗ウイルス薬)。門脈シャント手術:300,000〜500,000円。甲状腺機能亢進症の月額管理費:5,000〜10,000円
病態生理
震え(振戦)は骨格筋の不随意的・律動的な収縮と弛緩の反復により生じる異常運動である。生理学的には、震えは小脳・基底核・視床・運動皮質を含む運動制御回路の異常、末梢神経の機能障害、筋細胞レベルの代謝異常のいずれかにより引き起こされる。小脳疾患ではプルキンエ細胞の障害により運動の微調整が不能となり、企図振戦(目的のある動作時に増強する振戦)が出現する。代謝性振戦では、低血糖による神経細胞のエネルギー不足、電解質異常(低カルシウム・低マグネシウム・低カリウム)による神経筋接合部の興奮性変化が原因となる。中毒性振戦ではピレスロイド系殺虫剤(ペルメトリン)がナトリウムチャネルの不活性化を遅延させ、神経の過興奮と持続的筋収縮を引き起こす。寒冷・恐怖・痛みによる生理的震えは交感神経系の活性化による正常反応であり、病的震えとの鑑別が重要である。
考えられる原因
- 痛み
- 恐怖・ストレス
- 寒さ・低体温
- 低血糖
- 中毒
- 神経疾患
- 腎不全
鑑別診断
低温環境、ストレス(来院時、雷、花火)、疼痛に伴う一過性の震え。原因除去で消失。意識は明瞭で他の神経学的異常なし。病的震えとの鑑別が最初のステップ
犬用のピレスロイド系ノミ・ダニ駆除剤の誤用・曝露が原因。全身性の筋震え、痙攣、流涎、耳の震え。曝露後数時間以内に発症。猫はピレスロイドの代謝能が低く致死的になりうる
震え、ふらつき、元気消失、重症では痙攣・昏睡。糖尿病猫のインスリン過量投与が最も一般的な原因。子猫では飢餓や消化器疾患。膵臓腫瘍(インスリノーマ)は成猫でまれ。血糖値測定で確認
胎子期の猫汎白血球減少症ウイルス感染により小脳が未発達。生後2〜3週から企図振戦・運動失調・過大測定を呈する。非進行性で痛みはなく、適応して生活可能。ワクチン未接種の母猫から出産時に発生
猫コロナウイルスの変異による致死的疾患。神経型FIPでは振戦、運動失調、痙攣、後肢不全麻痺が出現。典型的には若齢猫で進行性の神経徴候と発熱。髄液分析やPCR検査で診断。猫の振戦原因の約16%を占める
門脈血が肝臓を迂回し全身循環に流入する先天性血管異常。肝性脳症による振戦、流涎、異常行動、痙攣。食後に症状悪化。血中アンモニア上昇、胆汁酸異常。猫の振戦原因の約16%を占める
脳の進行性変性疾患。振戦、運動失調、認知機能低下が徐々に進行。MRIで脳萎縮を確認。猫の振戦原因の約18%と最も高頻度。特異的治療法なし
低カルシウム血症は授乳期の子癇(産褥テタニー)や腎不全で発生。筋震え、テタニー様痙攣、顔面の引きつり。血液検査で電解質異常を確認。カルシウム・マグネシウムの補正で速やかに改善
進行した腎不全で尿毒症毒素が中枢神経に影響。振戦に加え、元気消失、食欲不振、多飲多尿、嘔吐。BUN/クレアチニンの著明な上昇。輸液療法で一時的に改善
ブロメタリン含有殺鼠剤の摂取。振戦、痙攣、後肢麻痺、運動失調。脳浮腫を引き起こす。曝露歴の聴取が重要。特異的解毒薬なし、支持療法が中心
重症例で筋振戦が出現。多食なのに体重減少、頻脈、活動性亢進、嘔吐・下痢。低カリウム血症を合併すると振戦が増強。血清T4上昇で確認
原因不明の急性発症の全身性振戦。ステロイド反応性であることが特徴。犬の「白い小型犬の震え症候群」に類似。猫での報告はまれだが存在する
末梢神経の多発性障害。四肢の振戦、筋力低下、腱反射低下。糖尿病性、炎症性、中毒性など原因は多様。猫の振戦原因の約7.6%。筋電図と神経伝導速度検査で診断
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 寒い場所で一時的な震え | 経過観察 |
| 原因不明の震えが続く | 早めに受診 |
| 震え+ぐったり・痙攣 | 緊急受診 |
診断の進め方
振戦の種類(安静時・企図時・姿勢保持時)、発症状況、進行速度、中毒物質への曝露歴を詳細に聴取。意識レベル、脳神経反射、姿勢反応、脊髄反射の系統的評価で病変部位を推定
血糖値、電解質(Ca/Mg/K)、BUN/Cre、肝酵素、アンモニア、甲状腺ホルモン(T4)の測定。CBC、FeLV/FIV検査。低血糖症、電解質異常、腎不全、肝性脳症のスクリーニングに不可欠
尿検査で腎機能評価と尿比重測定。門脈シャントが疑われる場合は食前後の血清胆汁酸測定を実施。肝機能の鋭敏な指標
腹部超音波で肝臓、腎臓の構造異常や門脈シャントの血管走行を評価。胸部X線で心臓サイズ確認。甲状腺シンチグラフィーは甲状腺機能亢進症の精密検査に
脳疾患(FIP、脳腫瘍、変性性脳症、小脳低形成)が疑われる場合に実施。MRIで脳の構造異常を詳細に評価。髄液分析でFIPの診断(蛋白上昇、細胞数増加、PCR)。全身麻酔が必要
自宅での対応
- 暖かい場所に移動させる
- ストレス要因を取り除く
- 震えの様子を動画で記録する
治療法
中毒の解毒・除染治療
ペルメトリン中毒には迅速な全身洗浄と対症療法。メトカルバモールによる筋弛緩、ジアゼパムによる痙攣制御。活性炭による消化管除染(経口摂取の場合)。入院管理での輸液療法と体温管理
ペルメトリン中毒は早期治療で生存率75〜90%。ブロメタリン中毒は予後不良
代謝異常の是正
低血糖にはブドウ糖の静脈内投与と原因(インスリン過量、インスリノーマ)の特定。電解質異常にはカルシウムグルコン酸やマグネシウムの補正。腎不全には輸液療法と食事管理。門脈シャントには低蛋白食とラクツロース
低血糖は迅速な糖補充で回復。電解質異常は補正で速やかに改善。門脈シャントは手術で根治可能
神経学的疾患の治療
FIPには抗ウイルス薬(GS-441524、モルヌピラビル)が近年有効性を示している。変性性脳症には特異的治療なく対症療法。特発性振戦症候群にはプレドニゾロン。痙攣にはフェノバルビタールやレベチラセタム
FIPは抗ウイルス薬治療で寛解率向上。小脳低形成は非進行性で適応可能。変性性脳症は進行性で予後不良
内分泌疾患の管理
甲状腺機能亢進症にはメチマゾール(内服)、放射性ヨウ素治療(根治的)、療法食(ヨウ素制限食)。糖尿病にはインスリン療法の最適化と血糖モニタリング
甲状腺機能亢進症は治療により振戦改善。糖尿病は適切なインスリン管理で低血糖を予防
疫学データ
猫の振戦の原因として、変性性脳症(18.1%)、FIP(16.2%)、先天性門脈シャント(16.2%)、中毒(15.2%)、多発性ニューロパチー(7.6%)が上位を占める(2004-2023年の105例の報告)
先天性疾患(小脳低形成・門脈シャント)は幼齢、FIPは若齢、甲状腺機能亢進症・腎臓病は高齢に好発。中毒は全年齢
ヒマラヤン(門脈シャント)、ペルシャ(門脈シャント・腎臓病)、シャム、メインクーン
中毒の緊急治療:30,000〜100,000円(入院費含む)。FIP治療:300,000〜500,000円(84日間の抗ウイルス薬)。門脈シャント手術:300,000〜500,000円。甲状腺機能亢進症の月額管理費:5,000〜10,000円
参考文献
- Tremors in Cats: Why Is My Cat Shaking? — PetMD
- Tremors in cats: 105 cases (2004-2023) — ScienceDirect / Journal of Veterinary Internal Medicine
- Idiopathic generalised tremor syndrome in two cats — Journal of Feline Medicine and Surgery / SAGE
- 猫の低血糖症 — アニコム損保 猫との暮らし大百科
- Cerebellar Hypoplasia in Cats — VCA Animal Hospitals
震えに関するよくある質問
Q. 猫が震えを見せる原因は何ですか?
猫の震えの主な原因には、痛み、恐怖・ストレス、寒さ・低体温、低血糖、中毒、神経疾患、腎不全があります。
Q. 猫の震えはいつ病院に行くべきですか?
緊急震え+ぐったり・痙攣
早めに原因不明の震えが続く
Q. 猫の震えの自宅での対処法は?
- 暖かい場所に移動させる
- ストレス要因を取り除く
- 震えの様子を動画で記録する
Q. 猫の震えの治療費はどのくらいですか?
猫の震えに関連する治療費の目安は中毒の緊急治療:30,000〜100,000円(入院費含む)。FIP治療:300,000〜500,000円(84日間の抗ウイルス薬)。門脈シャント手術:300,000〜500,000円。甲状腺機能亢進症の月額管理費:5,000〜10,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。