猫の食欲不振
猫が普段より食事の量が減ったり、まったく食べなくなる症状です。猫が24時間以上何も食べない場合は、肝リピドーシス(脂肪肝)のリスクがあるため注意が必要です。
食欲不振の要点まとめ
- 主な原因
- ストレス(引っ越し・新しい猫)、口内炎・歯周病による痛み、腎臓病、消化器疾患 など
- 緊急受診
- 2日以上の絶食・ぐったり
- 自宅対応
- フードを少し温めて香りを立たせる。静かで落ち着ける場所で食事を与える
- 治療費目安
- 初診・検査で5,000〜15,000円、食欲刺激薬処方で3,000〜5,000円、入院・経管栄養が必要な場合50,000〜200,000円
病態生理
食欲は視床下部の摂食中枢と満腹中枢によって調節されており、グレリン(食欲促進)やレプチン(食欲抑制)などのホルモン、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6)、血中グルコース・アミノ酸濃度、嗅覚・味覚からの入力が複合的に関与する。食欲不振は真の食欲不振(anorexia:食欲そのものが低下)と偽性食欲不振(pseudo-anorexia:食欲はあるが物理的に摂食できない)に分類される。猫は特に2〜3日の絶食で肝臓への脂肪蓄積が急速に進行し、肝リピドーシス(脂肪肝)を発症するリスクが高い種であり、特に肥満猫では36時間以上の絶食で致命的となりうる。
考えられる原因
- ストレス(引っ越し・新しい猫)
- 口内炎・歯周病による痛み
- 腎臓病
- 消化器疾患
- 感染症(猫風邪など)
- フードの好みの変化
鑑別診断
食べたそうにするが食べられない(偽性食欲不振)。よだれ、口臭、口を痛がる仕草。口腔内検査で歯肉発赤・歯石・潰瘍を確認
多飲多尿、体重減少、脱水、嘔吐を伴う。尿毒症による悪心が食欲低下の原因。BUN・クレアチニン・SDMA上昇
鼻汁・くしゃみ・結膜炎で嗅覚低下により食欲減退。口腔内潰瘍(カリシウイルス)で疼痛による偽性食欲不振も
肥満猫が何らかの原因で食欲廃絶した後に続発。黄疸、嘔吐、元気消失。肝酵素・ビリルビン上昇。早急な栄養補給が必要
元気消失、嘔吐、腹痛とともに食欲廃絶。猫では症状が非特異的。fPLI上昇、超音波で膵臓異常
初期は多食だが、進行すると食欲低下。多飲多尿、体重減少。血糖・フルクトサミン上昇、尿糖陽性
進行性の食欲低下、体重減少、嘔吐。画像検査で腫瘤・腸壁肥厚。生検で確定診断
引っ越し、新しいペットの導入、入院、フードの変更が誘因。身体検査・検査所見は正常。通常は数日で改善
持続性発熱、食欲廃絶、体重減少。腹水・胸水(ウェットタイプ)、眼・神経症状(ドライタイプ)。高グロブリン血症
通常は多食だが、進行例では食欲低下。体重減少、多飲多尿、嘔吐、頻脈。血清T4上昇
慢性の食欲低下に嘔吐・下痢・体重減少を伴う。内視鏡生検で確定診断
抗菌薬、NSAIDs、化学療法剤などの投与後に食欲低下。薬歴の確認が重要。薬剤中止で改善
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 食べる量がやや減った程度 | 経過観察 |
| 24時間以上何も食べない | 早めに受診 |
| 2日以上の絶食・ぐったり | 緊急受診 |
診断の進め方
食欲低下の期間・程度、食事内容・環境変化・薬歴を聴取。口腔内検査(歯肉・歯・粘膜)、体重測定、脱水度評価、腹部触診、甲状腺触診(高齢猫)
CBC、血液生化学(肝酵素、BUN、クレアチニン、SDMA、血糖値、電解質、総蛋白・アルブミン)、T4(高齢猫)、尿検査(比重、蛋白、糖)。基礎疾患のスクリーニング
腹部レントゲンで臓器の大きさ・異物・腫瘤を確認。腹部超音波で肝臓(リピドーシスの高エコー)、腎臓、膵臓、消化管、リンパ節を精査。胸部X線で心疾患・胸水を評価
FIV/FeLV抗体・抗原検査。FIP疑いではリバルタ試験、α1-酸性糖蛋白、RT-PCR。fPLI(膵炎マーカー)。必要に応じて細胞診・生検
自宅での対応
- フードを少し温めて香りを立たせる
- 静かで落ち着ける場所で食事を与える
- いつもと違うフードを少量試す
- 食べた量と時間を記録する
食欲不振が気になったら、オンラインで獣医師に相談
自宅から猫にストレスをかけずにビデオ通話で診察。写真や動画を共有して、適切なアドバイスを受けられます。
治療法
食欲刺激薬・栄養サポート
ミルタザピン(食欲刺激・制吐作用)の経口または経皮投与。温かい香りの強い食事の提供、少量頻回給餌。カプロモレリン(グレリン受容体作動薬)も使用可
原因疾患の治療と併用で多くの場合食欲回復。肝リピドーシス予防に早期介入が重要
強制給餌・経管栄養
24〜36時間以上の絶食が続く場合、シリンジ給餌または経鼻カテーテル、食道チューブ(食道瘻チューブ)、胃瘻チューブによる栄養管理。特に肝リピドーシスでは食道チューブが第一選択
肝リピドーシスは適切な栄養管理で60〜80%が回復。経管栄養は数週間〜数ヶ月必要な場合がある
原因疾患の治療
口腔内疾患には麻酔下歯科処置(スケーリング・抜歯)、CKDには食事療法・輸液・リン吸着剤、膵炎には支持療法と疼痛管理、糖尿病にはインスリン治療と食事管理
原因疾患により大きく異なる。CKDは進行性だが適切な管理で数年の延命が可能。口腔内疾患は治療後速やかに改善
疫学データ
猫の動物病院受診理由として非常に多い主訴。あらゆる全身疾患で出現しうる非特異的症状
全年齢で発生。子猫は8〜12時間、成猫は24〜36時間の絶食で危険域。高齢猫では基礎疾患に起因するケースが増加
品種を問わず発症。肥満猫は肝リピドーシスリスクが特に高い
初診・検査で5,000〜15,000円、食欲刺激薬処方で3,000〜5,000円、入院・経管栄養が必要な場合50,000〜200,000円
この症状が見られる可能性のある病気
「食欲不振」が見られる場合に考えられる病気の一覧です。症状だけで判断せず、必ず獣医師にご相談ください。
猫コロナウイルスが変異して発症する致死的な疾患です。ウェットタイプ(腹水・胸水)とドライタイプ(肉芽腫)があり、若齢猫や多頭飼育環境で多く見られます。
感染症レトロウイルスの一種で、免疫抑制やリンパ腫、貧血を引き起こします。感染猫との濃厚接触(グルーミング、食器共有)で感染します。
感染症猫のエイズとも呼ばれ、免疫機能を徐々に低下させるウイルスです。主に咬傷から感染し、未去勢の雄猫に多く見られます。
感染症上部気道感染症の主要な原因ウイルスの一つで、口腔潰瘍と呼吸器症状が特徴的です。非常に感染力が強く、多頭飼育環境で蔓延しやすいです。
感染症猫風邪の主要原因ウイルスで、上部気道症状と結膜炎を引き起こします。一度感染すると生涯キャリアとなり、ストレス時に再活性化します。
感染症腎機能が徐々に低下する進行性の疾患で、高齢猫の死因として最も多いものの一つです。初期症状は目立たないため、定期検査での早期発見が重要です。
腎臓・泌尿器腎臓に多数の嚢胞(液体で満たされた袋)ができる遺伝性疾患です。ペルシャ系品種に特に多く、進行すると慢性腎臓病に移行します。
腎臓・泌尿器消化管の慢性的な炎症で、嘔吐や下痢が長期間続きます。免疫系の異常反応が原因と考えられ、食事や薬物による長期管理が必要です。
消化器膵臓に炎症が起きる疾患で、猫では慢性型が多く症状が分かりにくいのが特徴です。IBDや胆管肝炎と併発する「三臓器炎」も知られています。
消化器猫特有の致死的な肝臓疾患で、2-3日以上の絶食により肝臓に脂肪が過剰に蓄積して発症します。肥満猫が急に食べなくなった場合は緊急事態です。
消化器猫で最も多い悪性腫瘍で、リンパ組織から発生するがんです。消化器型が最も多く、FeLV感染との関連も知られています。
腫瘍歯垢・歯石の蓄積により歯周組織に炎症が起きる疾患で、猫で最も多い口腔疾患です。放置すると歯の脱落や全身性の健康問題を引き起こします。
歯・口腔口腔全体に重度の炎症が起きる疾患で、通常の歯周病よりもはるかに激しい痛みを伴います。免疫系の過剰反応が原因と考えられています。
歯・口腔ヘルペスウイルスやカリシウイルスなど複数の病原体による上部気道の感染症で、いわゆる「猫風邪」です。子猫や免疫力の低い猫で重症化しやすいです。
感染症結腸が異常に拡張し、正常な蠕動運動ができなくなる疾患です。重度の便秘の原因となり、放置すると生命に関わります。
消化器猫の歯が自身の細胞によって溶かされていく疾患です。3歳以上の猫の約30-70%に見られ、猫で最も一般的な歯科疾患の一つです。
歯・口腔食欲不振に関するよくある質問
Q. 猫が食欲不振を見せる原因は何ですか?
猫の食欲不振の主な原因には、ストレス(引っ越し・新しい猫)、口内炎・歯周病による痛み、腎臓病、消化器疾患、感染症(猫風邪など)、フードの好みの変化があります。
Q. 猫の食欲不振はいつ病院に行くべきですか?
緊急2日以上の絶食・ぐったり
早めに24時間以上何も食べない
Q. 猫の食欲不振の自宅での対処法は?
- フードを少し温めて香りを立たせる
- 静かで落ち着ける場所で食事を与える
- いつもと違うフードを少量試す
- 食べた量と時間を記録する
Q. 猫の食欲不振の治療費はどのくらいですか?
猫の食欲不振に関連する治療費の目安は初診・検査で5,000〜15,000円、食欲刺激薬処方で3,000〜5,000円、入院・経管栄養が必要な場合50,000〜200,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。