猫の下痢
便が水っぽい、または通常より柔らかい状態が続く症状です。急性の下痢と慢性の下痢では原因や対処法が異なります。
下痢の要点まとめ
- 主な原因
- 食事の変更やフードが合わない、寄生虫(回虫・コクシジウムなど)、ストレス(環境変化・来客)、細菌・ウイルス感染 など
- 緊急受診
- 血便・脱水症状・ぐったり
- 自宅対応
- 水分補給を十分に行う。消化の良い食事に切り替える
- 治療費目安
- 軽症で3,000〜10,000円、精密検査を含む場合20,000〜60,000円、内視鏡検査を含む場合50,000〜100,000円
病態生理
下痢は腸管における水分・電解質・栄養素の吸収不全、または腸管からの分泌亢進により便中水分量が増加した状態である。病態生理学的には浸透圧性下痢(未吸収物質が腸管内に水分を引き込む)、分泌性下痢(細菌毒素などにより腸管分泌が亢進)、滲出性下痢(炎症による粘膜損傷で血漿成分が漏出)、腸管運動異常性下痢(蠕動亢進による通過時間短縮)の4つに分類される。小腸性下痢は便量が多く排便回数は中程度、大腸性下痢は少量頻回でしぶり(テネスムス)や粘液・鮮血を伴いやすい。急性(2週間未満)と慢性(2〜3週間以上)で原因疾患のアプローチが異なる。
考えられる原因
- 食事の変更やフードが合わない
- 寄生虫(回虫・コクシジウムなど)
- ストレス(環境変化・来客)
- 細菌・ウイルス感染
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 膵炎
鑑別診断
フードの急な変更、過食、乳製品摂取後に発症。通常は一過性で2〜3日以内に改善。全身状態は良好
子猫に多い。軟便〜水様便、腹部膨満、体重増加不良。糞便検査で虫卵・オーシスト・シストを確認
引っ越し、来客、多頭飼育環境の変化などのストレスが誘因。一過性の軟便で他の症状は乏しい
慢性下痢の最も多い原因。体重減少、嘔吐を伴う。内視鏡生検で腸粘膜のリンパ球・形質細胞浸潤を確認して確定診断
急性の水様便〜血便、発熱、元気消失。糞便培養やPCRで原因菌を同定。生肉食や汚染水が感染源となる
未ワクチンの子猫に多い。激しい嘔吐・水様血便・高熱・白血球著減。致死率が高い
慢性の下痢・嘔吐、皮膚掻痒を伴うこともある。除去食試験(新奇蛋白or加水分解蛋白食を8〜12週間)で診断
大量の脂肪便、多食にもかかわらず体重減少。血清fTLI低値で確定診断
慢性下痢、体重減少、食欲不振。超音波で腸壁肥厚・リンパ節腫大。生検でIBDとの鑑別が必須
大腸性の慢性下痢(しぶり、粘液便)。多頭飼育環境の若齢猫に多い。糞便PCRで診断
高齢猫。多食・体重減少・多動・多飲多尿に加え下痢。血清T4上昇で診断
嘔吐・食欲不振・腹痛を伴う下痢。fPLI上昇、超音波で膵臓の腫大・周囲脂肪織の変化
急性発症の嘔吐・下痢・流涎。摂取歴の聴取が重要。ユリ科植物、ネギ類、エチレングリコールなど
緊急度の目安
| 状況 | 緊急度 |
|---|---|
| 1〜2回の軟便で元気 | 経過観察 |
| 2日以上続く・子猫の下痢 | 早めに受診 |
| 血便・脱水症状・ぐったり | 緊急受診 |
診断の進め方
下痢の発症時期・頻度・性状(小腸性vs大腸性)・食事内容・環境変化・ワクチン歴・駆虫歴を聴取。脱水度評価(皮膚ツルゴール、粘膜色、CRT)、腹部触診
直接塗抹法・浮遊法による寄生虫スクリーニング。糞便PCRパネル(カンピロバクター、クロストリジウム、サルモネラ、ジアルジア、クリプトスポリジウム、コロナウイルス、パルボウイルス、トキソプラズマ、トリコモナス)
CBC(白血球減少はパルボ疑い)、生化学(肝酵素、腎機能、蛋白質、電解質)、T4(高齢猫)、fPLI(膵炎)、fTLI(EPI疑い)、コバラミン・葉酸(吸収不良評価)
X線で異物・ガスパターン・腸管拡張を評価。超音波で腸壁肥厚(正常猫で2.5mm以下)、リンパ節腫大、膵臓・肝臓の異常を精査
慢性下痢で非侵襲的検査で確定診断に至らない場合に実施。上部・下部消化管の粘膜観察と生検。IBDとリンパ腫の鑑別に不可欠。全身麻酔が必要
自宅での対応
- 水分補給を十分に行う
- 消化の良い食事に切り替える
- トイレの状態(色・形・頻度)を記録する
- 便のサンプルを保管しておく(受診時に有用)
治療法
対症療法・支持療法(急性軽症例)
脱水補正のための皮下輸液または静脈輸液。消化性の高い療法食への変更。整腸剤・プロバイオティクスの投与。通常1週間以内に改善
食事性やストレス性の急性下痢は1〜3日で改善。子猫や高齢猫では脱水に注意
抗菌薬・駆虫薬治療
感染性下痢に対する原因治療。寄生虫にはフェンベンダゾール、コクシジウムにはトルトラズリル、トリコモナスにはロニダゾール。細菌性にはメトロニダゾールまたはタイロシン
寄生虫性は駆虫で速やかに改善。細菌性は1〜2週間の治療で多くが改善するが、ディスバイオーシスに注意
免疫抑制療法・食事療法(慢性腸症)
IBDに対してはステロイドと食事療法の併用。食物アレルギーには新奇蛋白食または加水分解蛋白食の除去食試験。ステロイド無効例にはクロラムブシルを追加
IBDは長期管理が必要だが多くの症例で良好にコントロール可能。リンパ腫は化学療法の奏効率と組織グレードに依存
疫学データ
猫の消化器症状として嘔吐に次いで多い主訴。年間の動物病院受診理由の上位5位に入る
子猫では寄生虫・ウイルス感染が主因、中高齢ではIBD・腫瘍・代謝疾患が増加
品種を問わず発症。シャム系はIBD・消化管リンパ腫のリスクがやや高い
軽症で3,000〜10,000円、精密検査を含む場合20,000〜60,000円、内視鏡検査を含む場合50,000〜100,000円
下痢に関するよくある質問
Q. 猫が下痢を見せる原因は何ですか?
猫の下痢の主な原因には、食事の変更やフードが合わない、寄生虫(回虫・コクシジウムなど)、ストレス(環境変化・来客)、細菌・ウイルス感染、炎症性腸疾患(IBD)、膵炎があります。
Q. 猫の下痢はいつ病院に行くべきですか?
緊急血便・脱水症状・ぐったり
早めに2日以上続く・子猫の下痢
Q. 猫の下痢の自宅での対処法は?
- 水分補給を十分に行う
- 消化の良い食事に切り替える
- トイレの状態(色・形・頻度)を記録する
- 便のサンプルを保管しておく(受診時に有用)
Q. 猫の下痢の治療費はどのくらいですか?
猫の下痢に関連する治療費の目安は軽症で3,000〜10,000円、精密検査を含む場合20,000〜60,000円、内視鏡検査を含む場合50,000〜100,000円です。実際の費用は症状の重症度や治療内容によって異なります。